「ヒヨドリがスズメバチを食べている!?」毒針は大丈夫?耐性がある?「危険なスズメバチがヒヨドリにとっては捕食対象に…」
ヒヨドリがスズメバチをくちばしでとらえています。
「えっ、スズメバチを食べるの?大丈夫?」
そんな声が聞こえてきそうな写真ですね。生物に詳しい東洋産業の大野竜徳さんに聞きました。
■食べようとしているのは攻撃性の高いキイロスズメバチ
──ヒヨドリがスズメバチを食べる?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「写っているのは、キイロスズメバチをくちばしで捕まえたヒヨドリ。しかも、そのまま食べようとしているようです。
キイロスズメバチといえば、攻撃性が高く、人が刺される被害も多い危険な昆虫。できれば近づきたくない相手ですね。それを捕まえて食べてしまうとは、なかなか大胆な鳥です」
──ヒヨドリは本当にスズメバチを食べるのでしょうか。
「ヒヨドリは昆虫を捕食することもある鳥であり、今回のようにスズメバチを捕らえて餌にすることもあります。ヒヨドリは、スズメ目ヒヨドリ科に属する鳥で、全長は30cm弱。
スズメやセキレイよりかなり大きく、ムクドリと同じくらいの大きさですが、尾が長く、全体的にスマートな体形をしています。雑食性で、昆虫だけでなく植物の実も好みます。
特に繁殖期の春から夏にかけては、昆虫などの動物質の餌も積極的に捕らえます。コガネムシやカマキリ、ガなどさまざまな昆虫を食べることが知られています。つまり、昆虫を捕まえて食べること自体は、ヒヨドリにとって特別な行動ではないのです。
今回の写真のようにスズメバチを捕食することもあるようですが、スズメバチキラーというほどスズメバチを好む鳥ではなく、たまたま捕まえたものを食べたのかもしれません。
少なくとも、私たちが危険な昆虫として警戒するスズメバチも、ヒヨドリにとっては捕食対象になるということです」
■毒は大丈夫?
──スズメバチには毒針がありますよね。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「スズメバチは、強力な大あごと毒針を持つことで知られています。
では、ヒヨドリは刺されないのでしょうか?それとも、毒に対する特別な耐性を持っているのでしょうか?
まず、知っておきたいのが、スズメバチの毒針を持つのはメスだけだということです。
スズメバチの毒針は、もともと産卵管に由来する器官です。そのため、オスには産卵管がなく、毒針もありません。
今回のハチも、写真を見る限りでは、おなかの先端がオスのように見えます。もし本当にオスであれば、ヒヨドリが毒針で刺される心配はありません。
ただし、オスバチだけを狙っているわけではなく、今回は偶然オスだったのでしょう。秋にはオスバチも飛ぶようになりますが、働きバチはメスです。
ハチを捕らえたあと、くちばしで枝などにこすりつけてから弱らせて食べる姿も観察されます。ハチを食べるために、刺されないように下ごしらえをしているのかもしれませんね。
ヒヨドリがスズメバチの毒にどの程度耐性を持つのか、飲み込んだ毒成分がどのような影響を与えるのかについては、はっきりとはわかっていません。
人間にとって危険な生き物だからといって、すべての動物にとって手出しのできない相手というわけではありません。スズメバチも、ときには自然界では捕食される側になることがあるのです」
■ヒヨドリはどこにいる?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ヒヨドリの特徴は、なんといっても全体的に灰色がかった体と、頬にある赤茶色の模様、ちょっとボサボサと頭の羽毛が逆立ったワイルドヘアーでしょうか。
なかなか個性的な顔つきです。そして、姿と同じくらい特徴的なのが鳴き声です。ピーヨ、ピーヨと、大きく鋭い声で鳴きます。
突然、木の上からあたりに響き渡る声が聞こえてきたら、ヒヨドリかもしれません。姿が見えなくても、その鳴き声で存在に気づくことがあります。すみかは住宅地や公園、農耕地、山林など、木のある場所なら幅広い環境で暮らしています。
街路樹や庭木にもやってくるため、日本では比較的身近な野鳥の一つです。
ところが、地球規模で見ると、ヒヨドリの分布は日本とその周辺地域を中心に限られています。日本ではごく普通に見られる鳥ですが、世界中のあちこちで当たり前のように見られる鳥ではありません」
■ヒヨドリは果実や花の蜜も好む
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ヒヨドリは雑食性。昆虫を食べる一方で、果実や花の蜜も好みます。特に秋から冬にかけては、木の実や果実を食べる姿がよく見られます。
庭のカキの実や熟した果実を見つけて集まってきたり、ここ岡山市の市木として知られるアクラ、そう、クロガネモチの赤い実をついばんでいたりする姿も見られます。
秋が深まり、冬を迎えて食べ物が少なくなるこの季節、こうした果実は貴重な栄養源になります。
また、ヒヨドリは花の蜜も好みます。ツバキやサクラなどの花にくちばしを差し込み、蜜をなめる姿が見られます。花の蜜を吸うときには、顔の周りに花粉が付着することもあります。その花粉が別の花へ運ばれれば、植物の受粉にもつながります。
ヒヨドリは植物の実を食べるだけでなく、植物の繁殖を助ける役割も担っているのです」
■スズメは蜜だけを利用する「盗蜜」
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ところで、ヒヨドリがおいしそうに蜜を吸う姿を見てうらやましいのか、スズメも花の蜜を狙うことがあります。
しかし、スズメは花の蜜を吸うのに特化したくちばしや舌を持っているわけではありません。
そこで、花をちぎったり、花の付け根をくちばしでつついて穴をあけたりして蜜をなめることがあります。
うまく蜜が吸えずにイラっとしているわけではないのでしょうが、なかなか大胆な方法です。花粉を運ばずに蜜だけを利用するこうした行動は、盗蜜と呼ばれます。
花のつぼみや、ボロボロになった花が地面に落ちていたら、スズメなどが蜜を求めた跡かもしれません」
■植えたはずのない木がいつの間にか生えていたら、ヒヨドリの仕業?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ヒヨドリは果実の果肉を好み、種子ごと飲み込むこともあります。種子が消化されずに排出され、別の場所で発芽すれば、植物の分布を広げることにつながります。植えたはずのない木が、いつの間にか庭に生えている。
それはひょっとすると、鳥からの落とし物、いや、プレゼントだったのかもしれません。鳥が木の実を食べる。植物は種子を鳥に運んでもらう。そんな関係が、自然界では当たり前のように繰り広げられています。
ロマンあふれる話ですが、もちろん、植物にとっても人間にとっても都合のよいことばかりではありません。
ヒヨドリは農作物や果樹を食べることもあり、農業の現場では困った存在になる場合もあります。あっちを立てれば、こっちが立たず。自然界での役割と、人間にとっての都合は、必ずしも一致しないのです」
──ヒヨドリは一年をどのように過ごしているのでしょうか。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「秋から冬にかけては、果実や木の実を食べる姿が目立つ一方、暖かくなって春から夏にかけては、繁殖の季節を迎えます。
ヒヨドリは、樹木の枝が込み合った場所などに巣を作ります。公園や庭木など、人間の生活圏にある木を利用することもあります。枝や草などを使ってお椀形の巣を作り、卵を産みます。ヒヨドリの子育てでは、抱卵とヒナへの給餌に違いがあります。
卵を温める抱卵はメス。その間メスにエサを運ぶのはオス。ヒナが孵ると、オスとメスの両方が餌を運んで育てます。卵はおよそ2週間で孵化し、ヒナは孵化から10〜12日ほどで巣立ちます。
巣立ちまでの期間は比較的短いものの、巣立ったからといって、すぐに一人前になるわけではありません。
親鳥と一緒に行動しながら、餌の探し方などを身につけ、少しずつ独り立ちしていきます。特に繁殖期には、昆虫などの動物質の餌を捕らえる姿も見られます。成長するヒナにとって、タンパク質などを含む餌は重要です。
春から夏にかけて、身近な庭木や公園の木で、そんなヒヨドリの子育てが見られるかもしれません」
■晩秋から冬にかけての観察
(東洋産業 大野竜徳さん)
「この晩秋から冬にかけては、ヒヨドリを観察するよい季節です。
ヒヨドリは日本各地で一年中見られますが、北日本や山地などで繁殖した個体の中には、秋になると暖かい地域へ移動するものがいます。
そのため、春や秋には群れで移動する姿が見られることがあります。
ただし、日本で見られるヒヨドリがすべて長距離を移動するわけではありません。
地域によっては一年を通して同じ場所で見られますし、季節によって行動範囲を変える個体もいます」
■果実のなる木の周りを探して
──これからの時期、どこに注目すればよいのでしょうか。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「おすすめは、果実のなる木がある場所です。例えば、カキの実が残る庭木や果樹、公園の木、赤い実をつけるクロガネモチやピラカンサなどは、観察場所の候補になります。
冬から早春にかけては、ツバキなどの花にやってくる姿も観察できます。木の実がたわわに実り、餌場だと覚えたヒヨドリは、何度も同じ木に戻ってくることがあります。
少し離れた場所から様子を見ていれば、気に入った食堂に通う常連さんのように、繰り返しやってくる姿をじっくり観察できるかもしれません。
ただし、ヒヨドリは警戒心があり、人が近づくと飛び去ってしまうこともあります。無理に近づいたり追いかけたりせず、少し距離を保って静かに見守りましょう。
ヒヨドリは、身近で私たちの暮らしと深く関わっている鳥です。果実を食べて種子を運び、花の蜜をなめて花粉を運ぶ一方で、農作物を食べて被害をもたらすこともあります。
農家の方にとっては、せっかく育てた作物を食べられてしまうのですから、困った存在になるのも無理はありません。
しかし、ヒヨドリが農作物を食べるからといって、単純に害鳥と決めつけることもできません。同じ鳥でも、見る立場や状況によって評価が変わります。人間にとっての害鳥という側面と、自然界で果たしている役割。
その両方を知っておくことも、身近な生き物と付き合っていくうえで大切なことではないでしょうか」
