ティム・クック体制15年の答え合わせ。Appleは「まったく同じ賭け」に出た
2011年8月24日の夕方、ナスダック市場はApple株の取引を一時停止しました。
同社がスティーブ・ジョブズのCEO辞任を知らせる短い手紙を公開したためです。
時間外取引で同社の株価は376.18ドルから355.99ドルへと5.22%下落し、当時約3500億ドルだった企業の価値から、約190億ドルが一瞬で消え去りました。
手紙の中で後任として推薦されていたのはティム・クックで、これに驚く人は誰もいませんでした。
あれから15年。Appleの次の最高経営責任者が、その役割を引きつぎました。
現CEOとは正反対のタイプの人物をトップに据えたのです。しかし今回、Appleの株価はほとんど動きませんでした。
「あなたのiPhoneはどこにあるのか」への答え
クックは15年間、常に同じ問いを投げかけられてきました。「あなたにとってのiPhoneのようなイノベーションはどこにあるのか」と。
振り返れば、答えは明白です。それは発表会のステージでお披露目される単一の新製品ではありませんでした。
AirPods、Apple Watch、Apple Pay、Apple Music、Apple TV+。これらは現在、25億台以上のアクティブデバイス上で動いています。iPhoneを置き換えるのではなく、その価値を拡張する存在です。
数字がそれを裏づけています。同じ15年間で、
iPhoneの売上高は471億ドルから2096億ドルへ
ジョブズ時代には小さな存在だったサービス事業は1092億ドルに達し、Appleで2番目に大きな事業に
Apple WatchとAirPodsを軸とするウェアラブル事業は356億ドルを叩き出しました
唯一の新カテゴリー、Apple Watch
クックが生み出した独自の製品カテゴリーは1つだけあります。Apple Watchです。
15年間で最も誇りに思う成果を尋ねられたとき、クックが挙げたのは財務記録ではなく、Apple Watchのヘルスケア機能でした。このデバイスのおかげで命が助かったというユーザーから、初めてメッセージが届いたときのことを思い起こしたそうです。
iPad以来となる新カテゴリーは、瞬く間に規模を拡大しました。ストラテジー・アナリティクスによると、2019年の出荷台数は3070万台。スイスの全時計ブランドの合計(2110万台)を凌駕し、現在ではおよそ2億5000万台が使用されています。
すべてが成功したわけではない
新カテゴリーへの挑戦がすべて実を結んだわけでもありません。「Vision Pro」は、2024年2月に3499ドルで発売されましたが、外部推計によれば初年度の出荷は50万台程度。当初目標の100万台には届きませんでした。
それでもAppleが成長を続けられたのは、規模の拡大、綿密な価格戦略、2011年時点では参入すらしていなかった市場への流通網開拓、そして主要部品を自社でコントロールする体制づくりがあったからです。
在任中で最も影響力の大きかったエンジニアリング上の決断──インテル製チップから自社製「Apple Silicon」への移行──でさえ、その本質は「最も重要な部品を自前で所有する」というサプライチェーン上の判断でした。
成果は数字に表れています。最初のM1 Mac出荷前年である2020年度に38.2%だった粗利益率は、2025年度には46.9%まで向上。Mac事業の売上高は、直近の第3四半期に13%増の87億ドルに達しました。
かつて疑いの目を向けられたクックのスキルこそが、この15年間にAppleが必要としていたものだったのです。
自分の番が回ってきたとき、クックが下した決断
ジョブズは自分の不在時にすでに会社を回していた人物、つまりクックを後継に選びました。ではクック自身は、誰を選んだのでしょうか。
社内で最も自然な出世コースは、やはりオペレーション部門を通る道でした。2015年からCOOを務め、長年クックの最側近と見なされてきたジェフ・ウィリアムズは2025年末に退任し、現在は同じくオペレーション出身のサビ・カーンがその職に就いています。
しかしクックが次期CEOに選んだのは、別の領域の人間でした。
ジョン・ターナス。2001年にプロダクトデザインチームに入社し、2021年からハードウェアエンジニアリング担当上級副社長として、iPadやAirPods、近年のiPhoneシリーズを手掛けるチームを率いてきた人物です。4月20日の人事発表時、ターナスは50歳。2011年8月にクックがCEOに就任したときと、まったく同じ年齢です。
この発表と並行して、Apple Siliconの組織を築いたジョニー・スルーンジが最高ハードウェア責任者に昇格。アーサー・レビンソンが非執行会長からリード独立取締役に退き、クックが執行会長に就任する道を空けました。
Appleはこの執行会長職を、世界中の政策立案者との関係維持を含む役割と定義しています。ターナスがプロダクトの会社を引き継ぐ一方で、クックはワシントンや北京との外交をつなぎ止める役目を担い続けるわけです。
かつて「プロダクトの人」を「オペレーションの人」に置き換えたAppleは今、「オペレーションの人」を「プロダクトの人」に置き換えようとしています。
ターナスに残された宿題は「AI」
ターナスが引き継ぐAppleには、明確な弱点がひとつあります。人工知能(AI)です。
刷新されたSiriは2024年6月のWWDCで初披露されたものの、リリースは度々延期され、現在は独自調整されたGoogle Geminiモデルをベースに動いています。フィナンシャル・タイムズ紙によれば、この契約には年間約10億ドルがかかっているとのことです。
ソフトウェアへの依存度が高まる市場で、クックがあえて選んだのはハードウェアエンジニアでした。Appleはモデルそのものよりも、モデルを動かすデバイスの側に賭けているのです。
ジョブズと同じ賭け
今朝、従業員に送られたお別れメモの中で、クックは「ターナスほど、世界を変えるプロダクトを作り上げるために何が必要かを理解している人間はめったにいない」と記したと、ブルームバーグは報じています。
ターナスは正式にCEOに就任しました。その9日後の9月10日には毎年恒例のiPhone発表イベントが控えますが、15年間ステージに立ち続けてきたクックは登壇しないと伝えられています。
それでも彼は執行会長として、取締役として同じ建物の中に留まり、自らが下した最後の決断がどんな実を結ぶのかを、すぐ近くで見守ることになります。
2011年、ジョブズもまったく同じ賭けに出ました。そしてその賭けは、Appleに4兆ドルという途方もない成果をもたらしたのです。
15年のティム・クック時代に幕下ろすアップル…「折りたたみスマホ」でサムスンと大激突
生成AIの拡散でアップルの交渉力も揺れている。グーグルやマイクロソフトなどビッグテックがデータセンター用メモリー半導体を先取りし、スマートフォンやPC用のメモリーが不足するためだ。これに対しクック氏はメモリー価格急騰を「100年ぶりの大洪水」に例えたりもした。
米メモリー企業マイクロンは半導体不況期にメモリー価格を最大限低くすることを要求した顧客が(半導体需要が多い)現在の必要量を確保できなくなっていると明らかにした。事実上アップルを狙った発言だ。アップルは中国長鑫存儲技術(CXMT)を追加供給元として検討中だが米国政界が反発している。メモリー費用上昇でアップルの売り上げ総利益率は6月の48.1%から9月には46.5%水準に低くなる見通しだ。
◇「AI遅刻生」のアップル、Siriから組み直し
AIの側面でもアップルは追撃者だ。サムスン電子が2024年から「ギャラクシーAI」をスマートフォンに搭載したのに対し、アップルの「Siri」改編は遅れた。独自開発に支障が生じたアップルはグーグルの「ジェミニ」をベースにSiri AIを開発した。
アップルはこの秋新たにリリースする「Siri AI」にユーザーのメッセージや写真などを基に脈絡を理解し複数のアプリの作業を代わりに処理する機能を盛り込む計画だ。モルガン・スタンレーは「アップルの製品とサービスにAIが明確な成長効果を出しているという証拠が不足しておりまだ収益化も不確実だ」と評価した。AIを入れたSiriをiPhone・サービス売り上げ増加で結びつけるのがターナス氏に与えられた課題だ。
◇初めての舞台は「折りたたみiPhone」…サムスンと激突
ターナス氏は9日に開かれる新製品公開行事に登場する。CEO就任後初の公式舞台だ。アップルはこの席で「iPhone18Pro」シリーズとともに「iPhone Ultra」と呼ばれる初の折りたたみiPhoneを発表する見通しだ。サムスン電子が2019年にギャラクシーフォールドを発売してから7年で折りたたみスマホを出すのだ。
折りたたみスマホはまだスマートフォン市場で占める割合が1.6%前後にすぎないが、アップルの参入を契機に成長が速くなると予想される。カウンターポイントリサーチによると、昨年サムスン電子は世界的折りたたみスマホ市場でシェア約40%となり1位を占めた。アップルは参入初年に折りたたみスマホ市場の約25%を占めると予想される。
