新種の「海のTレックス」を発見、8000万年前の頂点捕食者 体長13m超でザトウクジラ大
攻撃的だったらしいティロサウルス・レックス、「とんでもなく大きなトカゲでした」と研究者
古生物学者たちが、新種の巨大なティロサウルスを発見した。8000万年前の頂点捕食者はモササウルス科の海生爬虫類で、体長は最大13メートル強。既知のモササウルス類の中では最大級だ。彼らはこの新種に「ティロサウルスの王」を意味する「ティロサウルス・レックス(Tylosaurus rex)」という学名を与え、5月21日付けで学術誌「米国自然史博物館紀要」に論文を発表した。略称は有名な肉食恐竜ティラノサウルス・レックスと同じ「Tレックス(T. rex)」だ。
「Tレックスと呼ばれるにふさわしい海の生きものがいるとすれば、それは間違いなくこの動物です」と、論文の筆頭著者で、米ウィスコンシン州のキャッスル歴史博物館に所属する古生物学者のアメリア・ジートロー氏は言う。「特徴の半分は、大きな顎と噛む力に関するものです」。氏は米ニューヨークの米国自然史博物館の研究員でもある。
「ティロサウルスは、モササウルス科の海生爬虫類の中で最大級のものとして知られています」と、米プリンストン大学の進化生物学者ティアゴ・シモンイス氏は言う。「今回の研究はこれをさらに裏付け、ティロサウルスを史上最大のモササウルス類の一群に位置付けたと思います」
ジートロー氏のチームは、新種について記載しただけではない。モササウルス類の解剖学的構造に関する包括的なデータセットも構築した。モササウルス類の標本300点と現生種のトカゲの頭から尾までの測定値を用いて、あまり当てにならなかった従来のデータをゼロから刷新したのだ。
「人々がこのデータを活用し、これまで十分な注目を浴びてこなかったティロサウルスに注目してくれることを願っています」とジートロー氏は話す。
今回の発見は、古生物学者たちがこれらの巨大な海生爬虫類の進化について、特に、それぞれの系統がいつ、どのようにして海の怪物として繁栄するようになったのかをより深く理解する助けとなる。
未発表だった「海の暴君」説
今から150年ほど前、「破城槌(城門などを破壊する兵器)」のような顎の先にちなんで最初のティロサウルスが命名された。ティロサウルス・プロリゲル(Tylosaurus proriger)だ。
T・プロリゲルの体長は約9メートルで、「かなり長い間、北米で知られていたモササウルス類の中では最大の種でした」と、米サザン・メソジスト大学の脊椎動物古生物学者で、論文の共著者であるマイク・ポルシン氏は言う。「吻(ふん)部が非常に特徴的だったため、他のモササウルスとの識別は簡単でした」
古生物学者たちはその後、ほかの種のティロサウルスも記載していったが、カンザス州の8400万年前の地層から発見された標本のほとんどはT・プロリゲルとされた。現在ペロー自然科学博物館に展示されている大型の標本を含め、ダラス周辺の8000万年前の地層から発見された数体の巨大な標本も、慣例に従いT・プロリゲルとされてきた。
1960年代、テキサスの古生物学者のジョン・サーモンドは私信の中で、最大のT・プロリゲルの標本は独自の種なのではないかと言い、冗談めかして「ティロサウルス・タラソティラヌス」すなわち「海の暴君」と呼んでいた。しかし、彼がこの考えを正式に発表することはなかった。
「明らかにT・プロリゲルではない何か」
2010年、ポルシン氏はダラス近郊で化石を採集したアマチュア化石ハンターから巨大なティロサウルスの標本を寄贈されたが、その特徴のいくつかに違和感を覚えた。
氏は本来の研究と並行するプロジェクトとして、数年にわたり化石ハンターたちから追加の標本を譲り受けたり、テキサス州オースティンやウェーコにある他のコレクションを調査したりした。その中で次第に、「明らかにT・プロリゲルではない何かを示唆する」解剖学的特徴が繰り返し現れることに気づいたという。
一方ジートロー氏は、最初は学部生として、その後は米国自然史博物館での博士課程研究の一環として、モササウルス類を研究していた。氏が同博物館の膨大なティロサウルスの化石コレクションを調べていたとき、テキサスで採集された大型の標本が目にとまった。
2022年にポルシン氏がジートロー氏の博士論文の外部アドバイザーに就任した際、ジートロー氏はこの標本についてポルシン氏に尋ねた。ポルシン氏は当初、はぐらかすような態度をとっていたものの、その後、実は同じような巨大な標本をいくつか突き止めたと打ち明けたとジートロー氏は言う。
ジートロー氏はそれから数年がかりでテキサス州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州の博物館を訪れ、所蔵されている多くのティロサウルス化石を再び計測した。
研究チームは、さまざまな博物館に所蔵されている最大級のティロサウルス標本のうち、米ペロー自然科学博物館の体長9.4メートルの「ヒース・モササウルス」、米エール大学ピーボディ博物館の「ソフィー」、米カンザス大学自然史博物館の巨大な「バンカー・モササウルス」など十数点に、奇妙な特徴が共通して見られることを突き止めた。それらはすべて、モササウルス類としては珍しい細かい鋸歯状の歯をもち、頭骨と首には、より強力な顎に関連した適応が見られた。
「巨大な標本に一貫した違いがあることは、かなり明白でした」とジートロー氏は言う。
ジートロー氏は、学部生時代の研究では、巨大な標本は単にT・プロリゲルの「成体」ではないかと考えたこともあった。氏は今回、そうではないことを確かめるため、現生種のトカゲ130種の骨格も測定し、その頭骨の特徴が一生を通じてどのように変化するかを調べた。ティロサウルスはトカゲやヘビと同じ有鱗目に属する。
その結果、T・プロリゲルと大型のティロサウルスとの間に見られた解剖学的差異は、トカゲの成長に伴って変化する特徴とは異なることが明らかになった。また、両者の代表的な標本には年代に約400万年の差があることからも、テキサスの大型のティロサウルスは独自の種であることが示唆される、と氏は言う。
特徴をよく表し、オマージュにも
T・プロリゲルの標本は最大のものでも全長約9.5メートルだが、Tレックスの標本はすべて7.7メートルから13.2メートルの範囲にあった。
ペロー博物館の学芸員で、論文の著者の1人であるロン・ティコスキ氏は、「とんでもなく大きなトカゲでした」と語る。海のTレックスは、攻撃的で恐ろしい動物だったようだ。ペロー自然科学博物館が所蔵する数点の標本のうち、「ブラック・ナイト」という愛称で呼ばれる個体は、吻の先端が欠損していて、下顎は骨折している。
「これは、同じ種の個体間で激しく暴力的な争いがあった証拠です」とティコスキ氏は言う。「大型のティロサウルスにこれだけの傷を負わせられたのは、同じ大きさの別のティロサウルスだけだったでしょう」(興味深いことに、恐竜の方のTレックスも、お互いの顔を噛み合う習性があったようだ)
ジートロー氏は、学部生時代にバンカー・モササウルスを見たときに頭をよぎったことを思い出し、半ば冗談で「Tレックス」という名前をポルシン氏に提案した。
「マイクは大笑いしました」と彼女は言う。ポルシン氏は、その名前がこの種の解剖学的特徴をよく表しているだけでなく、1960年代のサーモンドの提案へのオマージュにもなるとして命名に同意した。
米メリーランド大学の脊椎動物古生物学者のトム・ホルツ氏は、有名な方の「Tレックス」と、今回発見されたモササウルス類は、同じ環境で生きたり狩りをしたりしていたわけではないため、「それほど混乱は生じないはずです」と言う。20世紀の大半を通じて、ティロサウルスは恐竜の時代を題材にした大衆文化における代表的なモササウルス類だった。なお、氏は今回の研究に関わっていない。
ホルツ氏は、「海のTレックス」が存在するのなら、巨大なティロサウルスにその名が与えられることに全く異存はないと言う。
ジートロー氏は、「私は本気で、ふさわしい学名だと思っています」と言う。「でも、ちょっとしたお遊びも楽しんでいます」
