花火は野生動物への「死刑宣告」の恐れ、千羽以上の鳥が大量死した例も 専門家らが警鐘
2025年1月1日、あるハイカーが恐ろしい光景に遭遇した。雪に覆われたハイキングコースのあちこちに千羽を超える鳥が落ちていたのだ。ほとんどが若い鳥だった。ブルガリア、スレドナ・ゴラ山脈での出来事だ。
その後行われた調査で傷、打撲、羽毛の欠落や内出血、翼の骨折などが確認され、大量死の原因は前夜に近隣の街で行われた花火大会であるという結論が下された。鳥たちは音に驚いて逃げ出し、木や別の鳥にぶつかったようだ。論文は2026年1月30日付けで学術誌「diversity」に掲載された。
こういった事故は頻繁に起きていると考える専門家は多いが、記録が残っているものは少ない。その理由について、野生動物の保護やリハビリを行っている人には、動物のケガや死と花火のつながりが見えないことが多いからだと、米イリノイ大学獣医学部野生動物医療クリニック長のステファニー・ルイス氏は言う。
「もっと頻繁に起きていると思いますが、死んだ動物が見つからなかったり、原因が花火だとわからなかったりするのです」
実際のところ、野生動物が花火でパニックを起こしたり、方向感覚を失ったりすると、ケガや死に至ることがあると、専門家たちは述べている。大きな爆発音のせいで、育てている子どもとはぐれてしまったり、ストレス障害が起きたりすることもあるという。
光と音におののく鳥たち
イヌが花火を怖がることはよく知られている。また、花火の音に驚いて逃げ出すペットがいるため、米国では独立記念日の花火大会の翌日になると、保護施設が受け入れる動物の数が増えるという。
ルイス氏によると、野生動物の保護やリハビリを行っている人々も、独立記念日の前後は対象となる動物たちが増える。年間を通して診察しているクリニックでは特にその傾向が強いという。
「花火大会の翌朝にケガをした動物を診る場合、明らかな原因がわかっているとき以外は、まず花火を疑います」
花火が鳥に与える影響に注目した研究も多く行われている。
2022年に学術誌「Conservation Physiology」に発表された論文は、大晦日の花火がハイイロガン(Anser anser)の「著しいストレス反応」を引き起こし、鳥の心拍数と体温が大きく上昇すると結論づけている。エネルギーを消費させるこの生理的反応は「負担が大きい」という。
2025年には、ドイツのベルリンで調査を行った研究グループが、大晦日の花火の影響で、複数のカラス科の行動に変化が見られたことを学術誌「Behaviour」で報告した。たとえば、夜の飛行パターンが変則的になる、いつもの巣を使わないといった行動が見られたという。
オランダで行われた別の研究にも、大きな爆発音に驚いた鳥たちが「一斉に」逃げ出したとある。論文は2011年に学術誌「Behavioral Ecology」に発表された。
専門家によると、このような突発的な反応は事故につながりがちだ。ルイス氏は、花火は鳥を驚かせると述べる。巣で寝ているとき、休んでいるとき、木に止まっているときなどは、特にその影響が大きい。
「鳥はパニックを起こして飛び立ち、窓や建物、木などにぶつかるのです」とルイス氏は言う。そして深刻な傷を負ったり、死んだりすることになる。
フクロウのような鋭い聴覚を持つ鳥にとって、花火の爆発音はとりわけ厄介なものになると、米ニューメキシコ野生動物センターでアンバサダー動物プログラムの責任者を務めるアナ・トビン氏は述べる。
米国では7月4日の独立記念日の花火大会は、特に大きな問題になっている。若鳥の羽が生えそろい、巣を離れて飛び方を学ぶ巣立ちの時期の中盤から後半と重なるからだ。これは鳥にとって自然な成長過程であるにもかかわらず、花火によって余計なストレスが加わることになる。
逃げようとする本能、夏ならではの問題も
鳥ほど研究は進んでいないが、ほかの野生動物も花火の影響を免れることはできない。
ルイス氏によると、ウサギやシカなどの被捕食動物は、大きな音などの危険の兆候を感じると、本能的に逃げ出そうとする。「特に日没後は、柵にぶつかるなどのトラブルに巻き込まれる可能性が高まります」
大きな音による方向感覚の喪失によって、親が子とはぐれる可能性もある。これは繁殖率の低い動物には致命的だ。トビン氏によると、たとえばカナダヤマアラシ(Erethizon dorsatum)は、1年に1匹(まれに2匹)しか子を産まない。
「1年間は母親と一緒に過ごしますが、母親が花火に驚いて逃げてしまうと、再び繁殖できるようになるまで1年かかります」。親とはぐれた子どもは、簡単に餓死したり捕食されたりしてしまう。
夏の花火大会は、多くの爬虫類や哺乳類の子どもが育ち、野生環境での生き方を学ぶ時期と重なることが多い。
この時期に多くの動物を受け入れるトビン氏は、「多くの動物たちが自力で行動することを覚え、その過程で失敗もする時期なのです」と話す。
そのような時期に花火のストレスが加わることで、成長が止まる、パニックを起こして何かにぶつかるといった問題が起きる可能性がある。
さまざまな影響
動物に対する花火の影響を調査した研究の多くで、「一時的な混乱」が挙げられている。
たとえば、南アフリカ、ケープタウンのチームは、長期的な影響はなかったものの、オットセイやカモメが突発的に移動する現象が見られたと2026年刊の専門書『New Insights: Impacts of Fireworks on Marine Species in Cape Town, South Africa』で報告している。この研究によると、水中での音の影響はほとんどなく、これまでの研究を総合すると、花火の影響は陸上の方が大きいと言えそうだという。
最近のある研究では、米カリフォルニア州のモントレー湾国立海洋保護区で毎年行われている花火大会の間、オオクビワコウモリ(Eptesicus fucus)の狩りの回数が著しく減ったことがわかった。このコウモリは、水面にいるガを食べているが、30分間の花火大会が終わると食事を再開した。
「花火が打ちあげられている間は、獲物が一切捕まりませんでした」と、米インテグラル・コンサルティング社の生物音響学者、ケリ・シーガー氏は話す。
同氏は音を解析して、狩りの最中にコウモリが出す音を特定した。そのデータによると、コウモリが狩りを再開したのは、花火が終わった13分後だった。
「かなり良好な回復時間」だとシーガー氏は言う。しかし、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の天然資源・環境科学准教授で、コウモリの専門家のジョイ・オキーフ氏は、だからといってストレスがたまらないわけではないと述べている。
「人間も動物も同じですが、ストレスを受けると、コルチゾールが増加します。これによって免疫機能が損なわれ、長期的な悪影響が生じる可能性があります」
ルイス氏によると、繰り返しストレスを受けると、「捕獲性筋障害」と呼ばれる症状が出ることがある。野生動物が人間に捕獲された場合など、極度のストレス下に置かれた場合、この生理学的・病理学的な反応が起こり、深刻な筋肉の壊死や臓器の損傷につながることがある。
すべての野生生物に思いやりを
米ユタ州ソルトレークシティーやコロラド州ボールダーといった町では、数年前から花火大会の代わりにドローンショーを開催している。LEDライトを搭載した数百台のドローンを連携させて実現する光の空中ショーで、音楽に合わせて巨大な立体映像を映し出す。
ドローンショーなら、騒音や汚染を減らし、山火事のリスクをなくせる。シーガー氏は、「唯一のトレードオフは、高周波ノイズです」と言う。ドローンが発する音の周波数はかなり狭い。それでも、カモメなどは、もっとも敏感な音の周波数帯がドローンの周波数帯と重なっている。
「イヌはドローンが大嫌いです。人には聞こえないけれど、おそらくイヌには聞こえる高い音が出ているのです」
ルイス氏は、花火を完全にはなくせないだろうと考えているものの、森や湿地、営巣地、州立公園や国立公園、自然保護区などの近くでは打ちあげを控えるよう呼びかけている。野生動物の繁殖地の近くも同様で、特に春先から夏の終わりは避けるべきだ。
「最低でも、そういった場所から1.6キロ(1マイル)は離れるべきです。特に海鳥や浜鳥の営巣地は広く、とても見えやすい場所にあります。まわりにいるすべての野生生物に対する思いやりを持つのは、とても大切なことだと思っています」
