宇宙から送られた「謎の手紙」の正体とは、宇宙線を知らずして宇宙開拓は不可能

宇宙から送られた「謎の手紙」の正体とは、宇宙線を知らずして宇宙開拓は不可能

ずか1グラムで地球を破壊する、恐るべき高エネルギーの「宇宙線」が飛来していた! 論文発表後たちまち大きな話題を呼んだ「アマテラス粒子」。その第一発見者である藤井俊博氏によれば、宇宙線はビッグバンによる宇宙誕生や生命進化のナゾを解く、重大な手がかりになるという。宇宙線研究100年の軌跡と最前線を伝える新刊『宇宙線のひみつ 「宇宙最強のエネルギー」の謎を追って』(講談社ブルーバックス)から、宇宙線の魅力を伝えるエピソードを紹介する。

ギャラリー:宇宙に取り残された飛行士たち 写真6点

 日本ではじめて人工雪の生成に成功した中谷宇吉郎は、「雪は天から送られた手紙である」ということばを残しました。それになぞらえて言うなら、宇宙線は、たくさんのメッセージを抱えて地球にやってきた「宇宙から送られた手紙」です。

 中谷が「だれも生まれないまえから雪はふっていた」と書いたように、宇宙線も人類が誕生するはるか昔から地球に降り注いでいました。「脳の肥大化」という、私たち現生人類が誕生するきっかけとなった突然変異に、宇宙線が関連している可能性もあるとさえ言われています。宇宙線という「手紙」に、私たち人類の起源が記されていたとしたら──。とても興味深い、ワクワクするような話だと思いませんか?

「宇宙からの手紙」としての宇宙線が、どれほど重要な知見を私たちに伝えてくれたのか。そのインパクトの大きさは、ノーベル賞を例にするとわかりやすいかもしれません。宇宙線観測によって、これまでに数多くのノーベル物理学賞がもたらされました。たとえば次のようなものです。

・宇宙線の発見(V. F. ヘス)

・反物質の発見(C. D. アンダーソン)

・霧箱を使った宇宙線観測(P. ブラケット)

・パイ中間子の発見(C. F. パウエル、湯川秀樹)

・1987A超新星ニュートリノ(小柴昌俊)

・ニュートリノ振動(梶田隆章)

そもそも「宇宙線」とはなんでしょうか。宇宙線は、宇宙空間に存在する高エネルギーの粒子で、放射線の一種です。

 放射線とは、「原子や分子を電離させる能力をもつ粒子」のことを指します。地中や大気中などに存在する放射性物質は、時間の経過とともに放射線を放出して別の物質に変化しています。これを「放射性壊変」もしくは「放射性崩壊」と呼びます。

 3つの放射性壊変が存在しており、アルファ壊変、ベータ壊変、ガンマ壊変という名前がついています。それらの壊変では「アルファ線」と呼ばれるヘリウム原子核、「ベータ線」と呼ばれる電子、そして「ガンマ線」、すなわち光子をそれぞれ放出します。そのため、中性子が電子を放出して陽子へ崩壊する過程は、電子を放出するためにベータ壊変(崩壊)と呼ばれます。

 アルファ線は紙1枚で遮蔽することができますし、ベータ線はアルミニウム箔、ガンマ線は鉛や鉄の厚い板、そして透過力の強い中性子線であっても水などの水素を含む物質で、それぞれ遮蔽することができます。

 しかし、宇宙線は深さ200メートル以上の水でも吸収しきれないような、高いエネルギーをもっています。放射線のなかでも、主には陽子線に当たります。

 広義には、陽子、中性子、原子核、電子、陽電子、ニュートリノ、光子、重力波なども、宇宙線に含まれます。ただし、私たち研究者が宇宙線というときには、主に「電荷をもった原子核」を指すことがほとんどです。

 たとえば、水素原子は陽子1個と電子1個で構成されていますが、高いエネルギーをもつ宇宙線の場合は電子がはぎ取られているため、プラス1の電荷をもちます。ヘリウム原子の場合は、陽子2個・中性子2個の原子核と電子2個からなるため、電子がはぎ取られるとプラス2の電荷となります。同様に鉄原子の場合は、陽子26個と中性子30個でプラス26の電荷を帯びます。この電荷の大きさは、「原子番号」と同じになります。

 電荷1の粒子が、1ボルトの電位差で加速されることで得るエネルギーが「1電子ボルト(eV)」になります。皆さんの身近にある乾電池の電圧は1.5ボルトであるため、この電位差で加速されたときに得るエネルギーは「1.5eV」になります。

宇宙線が人体にもたらす影響

「うちゅうせん」と聞くと、多くの方々は「宇宙船」と勘違いするでしょう。宇宙線研究者の長谷川博一は、最先端のテクノロジーを集結してつくり上げた「宇宙船」と、極微の高いエネルギーをもつ粒子である「宇宙線」の共通点に、「どちらも宇宙空間を翔ぶ」ということを挙げました。1979年に刊行された、『宇宙線の謎』(講談社ブルーバックス)のなかの記述です。

 それからほぼ半世紀が経過し、打ち上げロケットは使い捨てでなく、再利用できるようになりました。宇宙旅行は、以前よりもずっと身近になってきています。さらには月への滞在も現実的になりつつあります。宇宙に行くだけでなく、長く滞在したり、そこで働いたりすることが珍しくない時代も、近いうちにやってくるかもしれません。

宇宙に長く滞在するためには、宇宙線の影響は無視できなくなります。地上では大気によって宇宙線が吸収されるため、約50分の1に減少しています。宇宙で私たちが生活するようになれば、それが50倍に増えるため、宇宙線が何にどの程度影響するかをあらかじめ調べておく必要があるのです。

 宇宙開拓時代が到来したら、宇宙での食糧自給もまた、大きな問題になると思われます。宇宙で育てるのに最適な動植物や、その土台となる飼料や堆肥に関する研究が盛んになるでしょう。宇宙線は、私たち人間のみならず、すべての物質に影響をおよぼします。そのため、食料となる動植物についても、宇宙線の影響を考える必要があります。

たとえば月のような、地球の6分の1の重力で、放射線は50倍も高い環境下で植物は生長できるのか、動物は飼育できるのか、遺伝的にどのような影響が出るか……。さらには保存食や薬剤といったものへの影響についても、あらかじめ調べておいたほうがよいでしょう。

 他にも、宇宙飛行士に尿路結石が多いという結果も報告されており、微小重力と宇宙線の組み合わせが人体にもたらす影響については、まだまだわからないことばかりです。このように、人類の宇宙進出において、宇宙線の研究は必要不可欠なものなのです。

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