なぜイヌはまるでわが子のようにかわいいのか、科学が証明 「特別な関係は確かにある」
イヌに強い感情を抱かない方がおかしいとさえ科学者は言う
あなたの周りにイヌを飼っている人がいたら、まるで人間の子どものように愛情を注いではいないだろうか。これには科学的な裏付けがある。研究によると、基本的に人間の脳は、飼いイヌに対して人間の赤ちゃんに対するのと同じ反応を示すことがわかっている。
しかし、元からそうだったわけではない。イヌは、人間に飼われるようになって以来、人間のような社会性や認知能力を身に着けるようになった。人間の赤ちゃんのように振舞い、見た目さえも似るようになり、人間の脳もそれを認知するようになったという。
そのため、人間がイヌに強い感情を抱くのは意外でも何でもないと、米オクシデンタル大学のイヌの認知研究室長であるザカリー・シルバー氏は言う。むしろ、そうならない方がおかしいとさえ言う。「現代のイヌは、優しく、愛情深く、人間によく順応するように、数千年をかけて慎重に選び抜かれてきたのです」
イヌを赤ちゃんとして見ているヒトの脳
3人の子の母親であるアリソン・ラコスさんは、出産した瞬間から、自分の子に対するあふれんばかりの愛情を感じ、この子を守りたいという強い思いに駆られたと話す。そして同じような思いを、イヌを飼い始めたときにも感じたという。ラコスさんは、シオとバブカという名の2匹のイヌを飼っている。
「感情が洪水のように押し寄せてきました。とてもかわいくて愛らしい生き物を見て、突然、この子たちを愛し、守りたいと思ったのです。まるで自分自身の子どもであるかのように感じました」
ラコスさんの反応は特別なものではない。その理由について、2014年に学術誌「PLOS one」に発表された脳画像の研究がいくつかの重要な手がかりを示している。
人がなぜペットのイヌにそれほど激しい愛情を抱くのかを調べるために、米ハーバード大学の研究者らは、2歳から10歳までの子どもが少なくとも1人いて、なおかつイヌを1匹、2年以上飼っている母親を対象に実験を行った。被験者はMRI画像を撮影した後、自分のイヌと子どもを含むさまざまなイヌと子どもの写真を見せられた。
すると、子どもとの関係とイヌとの関係で、母親が体験する感情の大部分が重なり合っていることが明らかになった。自分の子どもやイヌの写真を見たときに、絆の形成や報酬を促す脳の「扁桃体(へんとうたい)」が活発になったのだ。同じ効果が、記憶、社会認知、視覚と顔の処理に関わる「海馬(かいば)」「視床(ししょう)」「紡錘状回(ぼうすいじょうかい)」でも見られた。
「愛着、愛情、絆の形成に関係する脳の領域が、同じように刺激されていました」と話すのは、米パデュー大学獣医学部の獣医行動学准教授で、人間とイヌの絆について研究している尾形庭子氏だ。女性たちも、自分の子どもとイヌの写真を見たときに同等の喜びと高揚感を覚えたと報告している。この結果から、「ペットのイヌとの特別な関係は確かにあるに違いない、ということがわかります」と、尾形氏は付け加えた。
しかし、重要な違いもいくつかあった。やはり報酬に関係している中脳の一部の領域が、イヌよりも人間の子の写真を見たときに活発に反応していた。つまり、いくら愛情深い関係であろうと、イヌは別の種であることを脳が認識しているということだと、尾形氏は指摘する。
ラコスさんも、成長し、発達する我が子を見て特別な誇りを感じると証言している。「自分の子が何かを達成するのを見ると、大きく報われたと感じます。けれど、イヌがそこまで達成するということはありません」。
だからといって、シオとバブカへの愛情が劣っているわけではない。それどころか、2匹に必要なことはすべてしてあげたいという強い思いは子どもたちへの思いと変わらないという。
「ほぼすべてのイヌは、人間の子どもと同様の神経学的反応を引き起こします」と、シルバー氏は言う。この事実は、ある重要なことを示唆している。「人間とイヌとの関係性が、生物学的な親類との関係性と同じくらい重要な領域に入ろうとしているということです」
愛情ホルモン「オキシトシン」の放出
同様に興味深いのは、イヌと一緒にいるときに、人間の脳内では、気分が良くなる神経伝達物質が放出されているということだ。
恋愛相手であろうと、自分の子であろうと、親しい友人であろうと、自分にとって大切な存在である人の目を見たり触れ合ったりするとき、私たちの体はオキシトシンを生成する。
愛着、愛情、つながりを司るホルモンのオキシトシンは、生まれたばかりの子と親が絆を形成するために重要な役割を果たす。新生児を抱いたとき、親のオキシトシンの量は上昇し、同じ行動を繰り返したいと思わせるようにする。これがさらにオキシトシンの放出につながると、シルバー氏は言う。
これと同様の現象がイヌとの関係でも起こる。人間もイヌも、見つめ合ったり、遊んだり、話したり、触れ合ったりするときにオキシトシンが急上昇することは、複数の研究で示されている。その結果、これらの行動を繰り返すようになり、オキシトシンの放出が続き、絆が強められる。
2015年に学術誌「Science」に発表された論文が述べているように、イヌは人間の絆形成の経路を乗っ取ってしまったと言える。つぶらな瞳で見上げてきたり、名前を呼んだときに駆け寄ってきたりすると、人の体はオキシトシンを放出し、小さいものを守ろうとする生物学的な反応が起こり、世話をしたくなるのだと、尾形氏は言う。
ラコスさんも共感して、人間の子どものようにシオとバブカを育てていると話す。毎月のイヌの美容院代、おもちゃとおやつの定期購入、医療保険料を支払い、イヌたちは家中どこででも(ベッドも含め)寝ることができる。
家族旅行にも連れて行くが、ごくまれにそうできないときには、各部屋にテレビがついたペットホテルに預ける。家を購入する際にも、フェンス付きの庭があることが条件だった。「イヌたちへの深い愛情で胸がいっぱいになるほどです」
愛情をかきたてるイヌの性質
イヌに対する深い愛情の起源は、人類がイヌを飼い始めた頃まで遡ると、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の比較認知研究室長であるフェデリコ・ロッサーノ氏は言う。
最初から、人間は、穏やかで協調的な性質のイヌを選んできた。視覚的な合図や、どう振舞うべきかといった指示を仰ぐために人間の目や顔によく注意を払うイヌに対して、報酬を与えてきた。
外見も、人間に似た特徴を持つイヌが好まれた。昔のイヌは、長い鼻に尖った頭蓋骨を持っていたが、現代のイヌは丸い頭に大きな目、膨らんだ頬をしていると、ロッサーノ氏は指摘する。眉の内側辺りの筋肉も、人間の悲しみや好奇心、喜びに似た表情を作れるようになっている。
「人間は視覚志向型です。だから顔の表情のような視覚的な刺激が、強い感情的反応を誘うのです」と、尾形氏は言う。2024年11月に学術誌「Social Cognitive and Affective Neuroscience」に発表された別の脳画像の研究でも、私たちの脳が、イヌと人間の表情に対して同じように反応することを示している。
言い換えるなら、少なくとも私たちの脳によれば、イヌは赤ちゃんのようにかわいいのだと、ロッサーノ氏は言う。また、イヌは子どものようにボールを追いかけたり、ぬいぐるみを家中に運んだりして遊び、幼児のように思考する。実際、イヌには2~3歳児並みの認知能力があるという研究もある。
そして、2017年に学術誌「Society & Animals」に発表された論文が示すように、多くの人はイヌのことを、人間の赤ちゃんのような弱い生き物で、自分で自分を守ることができない存在として見ている。
もしあなたがイヌを飼っているなら、イヌと人間の関係が親子の絆によく似ていることを証明するのに、脳スキャンも血液検査も必要ないだろう。もちろん、検査で証明されればなお説得力があるが。
ラコスさんは、たとえ会話ができなくても、また中学校を卒業することが絶対にないとしても、シオとバブカにエサをやり、守り、幸せにするために何でもすると話す。イヌたちは家族の一員であり、彼らに対して自分は全責任を負っているという。「我が家は、あの子たちなしには我が家ではありません」