ブルームバーグの記者やアナリスト、エコノミストとともに複雑な世界を読み解く「ワールド・デコーダー」。
今回のテーマは「Apple AI開発の危機」です。
Appleの新製品や戦略の数々をスクープしてきた、ブルームバーグのApple担当記者 マーク・ガーマン氏をゲストに迎え、現在のAppleが直面する「AI危機」を深掘りします。GoogleやMicrosoftといったビッグテックや、OpenAI、Anthropicなどのスタートアップが先行する生成AI開発。Appleは「もはや手遅れのレベル」とガーマン記者は評します。
さらに、2025年9月発表予定の「iPhone 17」シリーズについて最新の未公開情報もカバー。薄型モデル「iPhone 17 Air」や2026年登場予定の折りたたみiPhone、さらに2027年に予定する「20周年記念iPhone」にも触れます。Appleファン必見の情報が満載です。
◆トークテーマ◆
00:00 番組開始
02:13 Appleを16年取材し続けてきた
03:06 新しさを打ち出せないApple
05:42 目次
06:38 新型「Siri」の開発が遅れた理由
10:52 自社開発のLLMでSiriは作れない
12:26 買収と引き抜きで追いつけ
14:12 “プライバシー重視”は言い訳
14:35 AndroidとのAI競争
15:54 Appleの経営陣が負う責任
18:33 どうすればAIで勝てるのか
20:08 次のiPhoneは“薄くなる”
24:19 iPhoneが選ばれる必要条件
28:38 Appleを変えるのは“ARグラス”
32:58 Apple Watchが苦しんでいる
34:46 担当記者が思うこと
長年にわたりテクノロジー業界の頂点に君臨してきたアップル。しかし、その輝きに陰りが見え始めていると警鐘を鳴らす人物がいます。
16年にわたって誰よりも深くアップルの動向を追い続けてきたブルームバーグの担当記者、マーク・ガーマン氏です。現在のアップルが直面する課題と未来の展望について聞きました。
「今のアップルは非常に不安定な時期にあり、重大な岐路に立たされています」。ガーマン氏は今のアップルをそう表現します。
AIの危機に瀕するアップル
最大の課題が、「生成AI」での出遅れです。
「メタ、OpenAI、グーグル、マイクロソフトといった競合他社と比較して、アップルはAI開発で大きく後れを取っています。生成AIという、インターネットやスマートフォン以来の革命的な新技術の波に乗り遅れてしまったのです」
この状況を、ガーマン氏は「AIの危機」と表現します。
自社開発で競争に追い付くのにはもはや手遅れに近く、他社からAIモデルを調達し、それに「アップルらしさ」を加えていくしか道はないのではないかと、厳しい見方を示しました。
さらに製品についても、イノベーションの速度が低下していると指摘します。
「主力のiPhoneはこの5年間、見た目に大きな変化がありません。数年ぶりの新製品カテゴリーとして鳴り物入りで登場したVision Proも、正直なところ期待外れに終わりました。Apple Watchも近年は既存デザインの使い回しが目立ちます」
ガーマン氏によれば、スティーブ・ジョブズ亡き後、多くのファンが期待してきたような画期的な製品開発の勢いは失われ、既存機能の拡張やサービス事業への注力が目立つようになったといいます。
これは、アップルというブランドを支えてきた「革新性」というイメージを揺るがしかねない問題です。
そして課題の根底には、経営陣の高齢化という構造的な問題が横たわっています。
「ティム・クックCEOは今年65歳を迎え、COOだったジェフ・ウィリアムズも退任を発表しました。他の役員も60代前半から半ばに差し掛かっています」
次世代のリーダーシップが不透明な中、ハードウェア部門を統括するジョン・ターナス氏が後継者の有力候補ではないかと、ガーマン氏は見ています。
生成AI時代の新型「Siri」が遅れている
2024年6月に発表された生成AIの機能群「Apple Intelligence」は、AIでの遅れを挽回するためのアップルの回答とみられてきました。
しかし、ガーマン氏はその内実を冷静に分析します。
「競合と株式市場の要求に応えるため、急いで生成AIと非生成AIのツールを一つにまとめたものに過ぎません。発表された機能の多くは、実際にはまだ完成しておらず、実装は数ヶ月、あるいは年単位で遅れています」
特に、新しいSiriの核心となる3つの機能(ユーザーの文脈理解、画面認識、アプリ横断操作)は、開発の遅れから実際の提供までは時間がかかる見込みです。
ガーマン氏によれば、新しいAIエンジンと既存のエンジンを統合する過程で深刻な互換性の問題が発生し、開発が頓挫したといいます。
社内テストでは、正常に機能する確率が3回に2回程度という、製品としてリリースするには程遠い状態だったのです。
「開発者会議でのデモンストレーションは、フェイクやCGではありません。しかし、おそらく何度も撮り直し、ようやく成功したテイクを編集したものでしょう」と、その裏側を推測します。
この苦境を打開するため、アップルは自社のAIモデル(LLM)の力不足を認め、OpenAIのChatGPTやアンソロピックのClaude、グーグルのGeminiといった他社製モデルの導入を真剣に検討しているとガーマン氏は明かします。
実際に、iOSにはChatGPTの画像生成機能などが限定的に統合され始めており、これはアップルの戦略転換を示す重要な一歩だと分析しています。
なぜアップルはAIでつまずいたのか
世界最高の頭脳と潤沢な資金を持つはずのアップルが、なぜこれほどまでにAI開発で後れを取ってしまったのでしょうか。
ガーマン氏は、その原因をアップル特有の企業文化と組織の問題だとしています。
「一つは、大規模な買収や高額な報酬での人材獲得にアレルギーがあることです」
メタがトップクラスのAI研究者に数年で数千万ドル(数十億円)という破格の報酬を提示する中、コスト意識の高いアップルは人材獲得競争で後れを取っているとみています。
そしてもう一つ、ガーマン氏が大きな足かせだと指摘するのが「プライバシーへのこだわり」です。
「『性能は劣るかもしれませんが、プライバシーは万全です』という理屈は、もはや消費者には響きません。人々は最高のAI機能を求めており、プライバシーを開発遅れの言い訳にはできません」
競合他社がプライバシーのリスクを取ってでも機能開発を推し進める中、アップルの慎重さが逆に足かせになっているというのです。
このAI開発の遅れについて、ガーマン氏は経営陣の責任に言及します。
グーグルから引き抜かれAI部門に就いていたジョン・ジャナンドレア氏は「採用の失敗」、ソフトウェア開発を統括する担当上級副社長のクレイグ・フェデリギ氏については「AIの可能性を軽視してきた」といいます。
そして最終的な責任は当然CEOのティム・クック氏にあると、ガーマン氏は厳しく指摘します。
未来のiPhoneと次なる一手
AIでの苦戦とは対照的に、ハードウェア開発、特にiPhoneの未来図は野心的だとガーマン氏は語ります。
「iPhone 17シリーズは、近年で最も重要なアップデートの一つになるでしょう」。その目玉は、薄さを追求した新モデル「iPhone 17 Air」です。
「『iPhone 12 mini』で小型化に挑み、失敗。『iPhone 14 Plus』で大型化に挑み、これも失敗。小さくしても大きくしてもダメだった彼らが次に見出したのが『薄さ』です」
「iPhone 17 Air」は、かつてのMacBook Airのように、スペックやバッテリー性能をある程度妥協する代わりに、人々が魅力を感じるとアップルが考える「驚異的な薄さ」と「洗練されたデザイン」を追求したモデルになるといいます。
これは過去の「mini」や「Plus」の失敗を踏まえ、「薄さ」という新たな価値で市場に挑む試みであり、同時に2026年に登場が噂される初の折りたたみ式iPhoneへの布石でもあると分析します。
さらに2027年には、iPhone登場20周年を記念した革新的なモデル「Glass Wing」が計画されているといいます。
これは縁が曲面ガラスで覆われ、ほぼ全面がスクリーンになるという、デザインの大きな飛躍を予感させるものです。
一方で、Vision Proが失敗に終わった後の「次なる一手」として、ガーマン氏はスマートグラスとスマートホームデバイスを挙げます。
特にスマートグラスは、ディスプレイを持たず、AIアシスタントを核としたデバイスになると予測しており、ここでもAI技術の成否が製品の命運を握ることになります。
アップルに迫る「Android」の影
アップルは現状では、デバイスやアプリなど強固なエコシステムに支えられ、顧客を維持しています。
しかし、ガーマン氏は「AIが、その牙城を崩す『激変』のきっかけになりうる」と警告します。
「Android陣営のAI機能は、iOSとは全くの別次元にあります。この差が広がり続ければ、いずれ顧客離れが起きるでしょう。もはや機能性においてアップルを『クール』だと言う人はいません。そんな時代は終わったのです」
ガーマン氏の言葉は、アップルが再びテクノロジーの最前線に立つためには、単なる製品のアップデートだけでなく、企業文化そのものの変革、そして大胆な発想を持つ新しいリーダーシップがいかに重要であるかを物語っています。