地球の自転が加速中、「最も短い1日」に備えよう
地球の自転速度がまもなく史上最速を記録するかもしれない。
2020年以降、地球の自転は加速傾向が続いており、国際原子時(TAI)のアルゴリズムALGOSが1973年に導入されて以来「最も短い1日」を毎年のように更新している。自転1周期の時間(自転時間)の最短記録は昨年、2024年7月5日に観測されているが、世界時計アプリtimeanddate.comによると、今年7月9日、7月22日、8月5日にも、1日の長さが最短記録に迫ることになりそうだ。
地球の自転に基づく1日の長さは平均24時間になるよう定められており、これは8万6400秒に相当する。2020年まで地球の自転は徐々に減速する傾向にあり、自転時間の最短記録は8万6400秒より1.05ミリ秒短いだけだった。しかし、2020年7月19日の地球は、基準より1.47ミリ秒も短い時間で1回転した。2024年7月5日は、1.66ミリ秒とさらに短かった。
2020年以降、1日の長さが8万6400秒より短い日は28回観測されている。そして、timeanddate.comのほか、地球の自転や基準座標系にまつわるデータをとりまとめる国際機関である国際地球回転・基準系事業(IERS)や米海軍天文台も、地球は来月9日、同22日、8月5日に再び速く自転すると予測している。
地球の自転速度が変わるのには月の位置が関係している。地球は月の引力に引っ張られており、月の位置によって潮の満ち引き(潮汐)が起こる。赤道付近ではこの潮汐力が引き起こす潮汐摩擦(海水と海底との摩擦)の影響が大きくなり、自転に対するブレーキとして作用する。したがって長期的にみると、月は地球の自転速度を徐々に遅らせていることになる。
1日の長さの正確な測定は、原子時計とIERSによるモニタリングによって行われている。
■地球の自転、なぜ加速?
2020年以降に地球の自転が加速している理由は、科学的に解明されていない。地球のコアやマントルの動き、氷床や氷河の融解による質量の移動、海流や大気の動きの変化など、さまざまな要因が関係していると考えられており、これらはすべて1日の長さにミリ秒単位で影響を及ぼし得る。また、地球の自転軸(地軸)が極付近でわずかに振動する「チャンドラー揺動(チャンドラーウォブル)」と呼ばれる現象が原因の可能性もある。
■「負のうるう秒」が必要になる?
原子時計が刻む「原子時」と、地球の自転に基づく時刻とのズレを解消するため、世界は国際的な取り決めによって「うるう秒」を追加して時刻を調整してきた歴史がある。しかし現在、地球の自転は遅くなるどころか加速しつつあるため、1秒を追加するのではなく、逆に削除する「負のうるう秒」の導入が検討されている。
IERSは今月初め、2025年6月末にうるう秒による調整を行わない方針を確認した。前回のうるう秒実施は2016年12月末で、1秒が追加されている。現在の自転の加速は一過性のものにすぎず、長期的な減速傾向は変わらない可能性もあるため、科学者らも対応に迷っているのが実情だ。
■なぜこれが重要なのか
地球の自転が加速し、1日の長さがミリ秒単位で短くなったところで、大した違いはないと感じるかもしれない。だが、この事実は、正確な時刻を世界中で維持するためには非常に重要なのだ。GPS(全地球測位システム)や衛星測位システム、正確なタイムスタンプを必要とする金融システムの運用や、世界中のネットワークの同期には、地球の自転に基づく時刻と原子時の整合性を保つことが不可欠なのである。