数学は「宇宙に通ずる真理」なのか?一番合理的な二進法にしておけば、宇宙人にも通じるだろうと

数学は「宇宙に通ずる真理」なのか? 59歳・数学YouTuberの超おもしろい考え方

「すごく深い問い」「めちゃめちゃ面白い」……登録者数14万人を超える人気数学YouTuber、鈴木貫太郎さん(59)。その最新刊の一節で、数学は「発明」なのか「発見」なのか? という議論を展開しています。担当編集が「いちばん面白い」とうなったこの一節について、著者の鈴木さんに聞いてみました(朝日新聞出版YouTube:一節対話『マイナス×マイナスはなぜプラスになるのか』より一部抜粋)。

■西暦1600年ごろの「発見」

書籍『マイナス×マイナスはなぜプラスになるのか』の一節:

 ところで、このe(ネイピア数)という数は、少なくとも西暦1600年以前には全く存在していませんでした。我々が中学までに習う数学の内容は、アルキメデス、ピタゴラス、ユークリッド、エラトステネスなどの紀元前の偉人たちによってとっくに確立されていた一方で、eはそれから2000年近く遅れてベルヌーイやオイラーによって定義されました。 

 これは発明なのでしょうか? それとも発見なのでしょうか。 

 発明というのは今まで存在しなかったものを作り出すこと。発見とは、存在はしていたがその存在が知られていなかったものを見つけ出すことです。では、数学における新たな知見は、そのどちらでしょうか。

 eやi(虚数)が恐竜の化石のように地中に埋まっていたわけではないのは紛れもない事実でしょう。であるならば発明と考えるべきなのかもしれませんが、私は発見であると考えます。

 数学の体系は、人類がものを数えはじめた時には既に数学の神様によって一分の隙もなく確立されていて、負の数も、0も、π(パイ・円周率)も、eも、iも、その既に確立された数学体系に初めから組み込まれており、数学の発展は偉大な数学者たちがそれらを「発見」してきた歴史なのではないでしょうか。

 もちろん異論はあるでしょう。皆さんはどのように考えますか。

■これは「宇宙に通ずる真理」なのか?

 この一節は、どのような意図で書かれたのでしょうか? 著者の鈴木貫太郎さんに聞きました。

担当編集者(以下、編集):この本は、学校で習ってきた数学、数式がなぜそのような式になっているのかを改めて考えて、解説いただくというものになっています。

 僕、鈴木さんから原稿をいただいた時に、この部分にすごく驚いたんですね。数学の数字、iとかπとか、ひょっとしたら三平方の定理とか、そういったもの含むかもしれません。

 こういったものが、人間が作り出したものなのか、それとも元々自然に、もっと大きく言えば宇宙に存在しているのを人間が見つけてきただけなのか、という問いだと思うんです。すごく深い、めちゃめちゃ面白いなと思っていて。

 まず、ここの部分をどういう思いで書かれたのか、その意図をお聞かせいただければと思います。

鈴木貫太郎さん(以下、鈴木):今、宇宙に通ずる真理なのかといった内容のことをおっしゃいました。この本の別の部分で、ボイジャー、惑星探査機に地球の様子をお知らせする宇宙人へのメッセージが積み込まれているという話を書いたんですけども、そこに使われているのが二進法です。

 なぜ二進法かと言うと、人類は十進法を使ってますけども、それは指が10本だからという理由であって。遠くの宇宙に住む知的生命体が指10本とは限らないので、その知的生命体が何進法を使っているかはわからない。となると、一番合理的な二進法にしておけば、宇宙人にも通じるだろうと。

 宇宙人が存在したときに、言語は絶対に同じはずがないですけども、数学はきっと同じように確立されているんじゃないかなと思いました。

 ですから、発見か発明かということで言うならば……eは1600年代までは誰も思いつかなかったもので、それを地中から掘り起こしてきたわけではないんですけども、どこにも存在していなかったものをベルヌーイやオイラーが作り出してきた。

 それは言葉の定義に厳密に言うならば「発明」なのかもしれませんが、やはり、もともとあった、神様が既に確立した体系に組み込まれたものだから、「発見」なんじゃないかなというふうに思いました。

編集:そこが数学というものの面白いところなのかなと思っていて。人間中心的じゃないというか、すごく自然に対する敬意に溢れているなと思うんですね。だからこそ自然科学という分野名があると思うんですが。そこはすごく面白いなと思いました。

 一方でちょっと疑問に思ったのが、もしかしたら変な質問かもしれないですけど、eとかπとかって、小数が無限に続いているじゃないですか。人類はその無限を全て知り尽くしてるわけじゃないわけですよね。それって、発見したと言えるのかどうか。そこってどう思われますか?

鈴木さん:ちょっと今の質問にはうまく答えられる自信がないんですけれども(笑)。質問されて答えずに質問しちゃうのも申し訳ないんですが、第一回本屋大賞の受賞作品はなんでしょう?

編集:『夜のピクニック』。

鈴木さん:えっ!

編集:あれ?

鈴木さん:第一回本屋大賞受賞作品。大ベストセラー。小川洋子さんの……

編集:あ……『博士の愛した数式』ですね。

鈴木さん:『博士の愛した数式』の中にある、博士が家政婦さんからの質問に答えたものを、ちょっとパクっているといえばパクっている面もあるんですけども(笑)。家政婦さんが博士に「そういったことを発見するんですね」と聞いたら、博士が「そう、発明じゃなく発見だ。我々数学者は神様のメモ帳をこっそり覗き見しているだけだ」みたいなことを言っていたんです。

 神様の書いたメモ帳っていうのはどこにあるかもわからないし、開かれているかもわからない。それを探し出すのが我々人類、数学者の役目だと言ってたんです。まだ分からないことだらけなので、いまだに数学は。未解決問題がたくさんあるのをご存じだと思うんですけども。

 そういった意味では、神の領域に近づいていく一歩一歩が数学の発展なんじゃないかなと思います。質問には全然答えていなくてすみません(笑)。

■原点が詰まった一冊

編集:鈴木さんはこちらの本が4冊目のご著書になるんですが、今お話を聞いて人生体験の初期衝動というか、原点が詰まった本なのかなというふうに、改めて思いました。

鈴木:そうですね。私も人類初の定理を発見したことはないので、さすがに。それはおそらくどんな偉大な数学者でも……最近、フィールズ賞じゃなくてもうひとつのすごい賞(アーベル賞)を受け取った方がいましたが、そういったすごい数学者でもたまにしか、新たな定理というのは発見できないんです。

 数学の本は、誰が書いても根本的な内容は同じになってしまうはずなんですよね。ですけど、せっかく私が書くのだから、なるべく独自性を出せるように工夫したつもりです。

 その中でも例えば、十進法をN進法に直すとか、N進法を十進法に直すというやり方しか説明していない先生や動画が多い中、なるべく仕組みをわかってもらおうという工夫をして、「すべての記数法は十進法」と言っています。

 “じゅっしんほう”と言うといけない、モーゼの“十戒(じっかい)”なので(笑)。「すべての記数法は十進法(じっしんほう)である」という説明の仕方というのは、たぶん私独自の方法だと思うので、ぜひとも読んでもらえたらなと思います。

編集:朗読していたところに引きつけると、もちろんここで書かれたことって、一回学校で教わったことかもしれませんが、あらためてそれを発見するというか、再発見の一冊になっているかなと思います。

鈴木:そうしてもらえたら嬉しいです。

(フルバージョン動画では、記事に載せきれなかった「文系なのにeに関心をもったきっかけ」「慶應医学部生の回答に衝撃」などの話も見ることができます)

■学校で教わった最大の謎。

(-1)×(-1)=1という不可思議な数式——

「そういうもの」として丸暗記した定理、数式。あれって結局なんだったんだ? 微分、積分、三角関数……「数学って何の役に立つの?」 その答えが、この本にある!

『マイナス×マイナスはなぜプラスになるのか』

鈴木貫太郎(すずき・かんたろう) 1966年生まれ。埼玉県立浦和高校卒業。早稲田大学社会科学部在学中に予備校講師(算数・数学)のアルバイトを始め、過去問を徹底研究。その後、数学を離れたが、海外在住中に「オイラーの公式」を理解したいという思いから再び没頭。2017年からYouTubeで数学解説動画の投稿を始め、現在の登録者数は14万人を超える(2025年2月時点)。

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