恐竜もカエルも呑み込んだ「死の落とし穴」、350万個の化石が発見される
自然には、予想だにしない場所で過去を保存する方法が備わっており、さまざまなところに太古の「死の落とし穴」が存在する。要するに、生物たちを丸ごと飲みこみ、悠久の時を越えてそのまま閉じこめる天然の罠だ。
なかには、膨大な数の動物の墓場になった死の落とし穴もあり、そこに残る化石化した謎が科学者を魅了し続けている。ねばねばしたアスファルトの墓場から恐竜を飲みこむ流砂まで、そうした死の落とし穴は、ときに自然が罠を仕掛け、生物が(大きな集団として)最期を遂げることをあらわにしている。
■1. 米国の「ラ・ブレア・タールピット」:氷河期のねばつく罠
カリフォルニア州ロサンゼルス中心部にある世界屈指の氷河期の化石産地は、かつてありふれた光景のなかに隠されていた。
ラ・ブレア・タールピットは、更新世をのぞく窓だ。その時代にはマンモスやサーベルタイガー、ダイアウルフ(約1万3000年前に生息したイヌ科最大のオオカミ)などが北アメリカを歩きまわっていた。ラ・ブレアにはタールピットが100程度ある。タールピッド群の特別なところは、膨大な数の化石(これまでに350万個超が見つかっている)だけでなく、そうした太古の動物たちが完全に近い状態で保存されていることにある。
この場所では、数万年にわたって天然アスファルトが地表にしみだし、見かけはしっかりした地面のようだが実はそうではないプールをつくっていた。そうしたタールの罠は、捕食者たちに破滅をもたらした。
例えばマンモスのような大型の植物食動物がうっかり穴にはまり、身動きがとれなくなると、ダイアウルフやサーベルタイガーのような肉食動物を引き寄せ、今度はその肉食動物たちが罠にはまった。現在のタールピット群で得られる化石記録は、草食動物よりも肉食動物の方が多い。
ラ・ブレアの化石は、みごとな骨格が保存されているだけでなく、氷河期の捕食者たちが気候変動にどう適応していたのかに関する手がかりを科学者に与えている。『Palaeontologica Electronica』誌で2014年4月に発表されたラ・ブレアのダイアウルフの化石に関する研究により、氷河期が終わりに向かう頃にダイアウルフの大きさが縮小していたことが明らかになった。おそらくは、温暖化する世界で小型化する獲物を狩るように適応したのだろう。
一方、サーベルタイガーは大型化し、壮健になった。これは、環境の変化に伴ってさまざまなタイプの獲物を狩るように適応したことを示唆している。
だがその後、奇妙なことが起きた。1万1000年前頃に、そうした大型肉食動物の多くが姿を消したのだ。それについては、気候変動がなんらかの影響を及ぼしたと考える科学者もいるが、人類の到来により新たな競争と圧力が生じ、それが氷河期の巨獣たちの運命を決めたと考える科学者たちもいる。
次は中国にある恐竜の集団墓地
■2. 中国の「石樹溝累層」:ジュラ紀の流砂
ラ・ブレア・タールピットは氷河期のマンモスの墓場だが、中国の石樹溝累層(Shishugou Formation)は、恐竜たちの集団墓地だ。新疆ウイグル地区にあるこの化石産出地の歴史は、1億6000万年前のジュラ紀にさかのぼる──恐竜が繁栄していた時代だ。
しかし石樹溝では、多くの恐竜たちがまずい状況になった。
石樹溝に埋まる化石群は、独特でぞっとする物語を伝えている。この場所では、恐竜たちの骨格が垂直に積み重なっており、多くは折り重なるようにして埋まっている。
科学者の見解によれば、この落とし穴ができたのは巨大な恐竜(おそらくは竜脚類)が水を吸った地面を踏み歩き、その領域を先史時代の死の罠に変えたからだという。その泥に小型の恐竜などの生き物がはまり、脱け出せなくなったのだ。
この穴の犠牲者のなかでも特に多いのが、全長1.7m程度のダチョウに似たリムサウルス・イネクストリカビリス(Limusaurus inextricabilis)だ。この奇妙な獣脚類の恐竜は、くちばしをもち、成熟するにつれて歯を失う。『PALAIOS』誌で2010年1月に発表された研究によれば、この恐竜たちが泥の中でもがき、互いに積み重なるようにして深く沈んでいったことが化石からうかがえるという。
石樹溝で見つかった化石の中でも、重要な発見として際立っているのが、獣脚類のグアンロン・ウーカイ(五彩冠龍:Guanlong wucaii)だ。全長3mほどで、頭に特徴的なトサカのあるこの恐竜は、ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)の初期の親戚にあたり、ティラノサウルス類の初期進化を垣間見せている。
また、この場所では、これまでに知られている限りでは屈指の長い首(約15m)を持つ巨大な竜脚類の恐竜マメンチサウルス・シノカナドルム(Mamenchisaurus sinocanadorum)の化石も見つかっている。
この場所の不気味な過去は、それだけにとどまらない。化石化した火山灰の分析により、一部の恐竜の死の原因が突然の火山活動にあった可能性も示唆されている(硬化した泥の中に急速に埋められた可能性だ)。
この墓場はジュラ紀の生態系を垣間見せる比類なき場所であり、ティラノサウルス・レックスが登場する数千万年に、さまざまな種がどのように影響を与えあっていたのか、その全貌を科学者が解き明かす手がかりになっている。
8000匹の骨が発見された生物とは
■3. 英国:「大量死した鉄器時代のカエル」の謎
時間を早送りして、2400年前頃の鉄器時代の英国へ行こう。そこでは、また別の奇妙な大量死の事例が見つかる──こちらの例には、カエルが絡んでいる。
イングランドのケンブリッジシャーにある円形住居遺構の近くで発掘作業をしていた考古学者が、1本の溝から8000匹を超えるカエルの骨を掘り出した。紀元前400年頃のこの遺構に、研究者たちは首をひねった。
通常、考古学遺跡で見つかるカエルの骨は少数であるため、この異例の数は謎としか言いようがない。溝そのものは長さ46フィートほど(約15m)で、円形住居遺構の近くに位置することから、この両生類の集積には人間がなんらかの役割を果たした可能性があると思われる。
だが、別のいくつかの先史時代の遺跡で見つかったカエルの骨(切った跡や焼けた痕跡のあるもの)とは異なり、調理したり食べたりしたことを示す証拠は見つかっていない。
発見されたカエルのほとんどは、ヨーロッパアカガエルやヨーロッパヒキガエルといったありふれた種で、現在の英国でも見られるものだ。しかしその膨大な数の骨は、なんらかの惨事が起きてカエルが大量死したことを示唆している。
一つの可能性として考えられるのが、集団移動に伴う災厄だ。繁殖地に向かっていた数千匹のカエルがこの溝に落ち、脱け出せなかったのかもしれない。また別の説では、極端な冬の天候のせいで冬眠中に死んだ可能性があるとされている。カエルは冬眠時に泥のなかにもぐりこむが、寒さが極端に厳しいと死ぬこともあるからだ。
あるいは、そこで加工されていた作物を餌にする昆虫に引き寄せられたとも考えられる。豊富な食物源に引かれて膨大な数が集まったものの、結局は永遠に閉じこめられてしまったのかもしれない。