後れを取るApple Intelligence、アップルは自ら生んだ「ジレンマ」にハマっている

後れを取るApple Intelligence、アップルは自ら生んだ「ジレンマ」にハマっている

アップルのAIへの取り組みの弱点が改めて浮き彫りになった。WWDC 2024の基調講演で「Apple Intelligence」の一環として発表されたSiri向けの一部機能が、2026年まで延期されると発表されたのだ。この機能実現の遅れを受け、アップル評論家として知られるジョン・グルーバーは、これまでのアップルの取り組みに対して厳しい批判を浴びせている。

彼だけがそう考えているわけではない。競合他社がAIを搭載したサービスで勢いよく先行するなか、アップルはどのような課題を抱え、どのような選択肢を取り得るのだろうか。

■Apple Intelligenceのジレンマ

まず認識すべきは、人工知能とりわけ生成AIが、もはや最新技術を売り込むための単なる流行語ではなく、すでにあらゆる場面に深く入り込んだ技術であるという点だ。たとえばマイクロソフトのCopilotやグーグルのGeminiのように大々的にアピールされるものもあれば、Photoshopの画像補完やトリミング機能のように、目立たない形で導入されている例もある。また、Grammarlyのように、ほとんど意識されないまま利用されているケースも多い。

このように、AIが複数のエコシステムにわたって数えきれないほどの形で存在する以上、優れたAIを持たないことは根本的な弱点になる。現状、アップルはすでに後れを取っており、AI技術を確立しなければ決して追いつけないかもしれない。

そして、現在一般的に使われているAIツールの多くは、大規模データセットを基盤としてモデルを訓練することで、期待に応える出力を実現している。長年にわたりユーザーデータを収集してきた企業は、これらのデータセットをすぐに活用できる立場にある。

一方、アップルは以前からユーザーの個人データの保護を強く訴えてきた。可能な限り多くのデータをユーザー端末にとどめ、クラウドへ送るデータも暗号化して自社スタッフすらアクセスできないようにし、必要とあれば各国政府に対しても法廷で戦う姿勢を示している。この方針を大きく変えることは、アップルのエコシステムの根本を揺るがすリスクが高い。

■Apple Intelligenceが直面する終わらないループ

アップルは、AIが今後どんなソフトウェアやハードウェアでも標準機能になる世界に生きている。だが、AIには大規模な学習データが必要であり、アップルはそれを大規模に扱わない方針を長く維持してきた。それでもAIはこれからの必須要素になる。

■どうやってこのループを打破するのか

では、アップルにはどのような選択肢があるのだろうか。

AIの実装努力を中止し、マーケティング力を使ってトレーニングデータ収集の貪欲な必要性、取り引きされる必要がある個人情報、巨大な環境への影響、潜在的な結果の不正確さなどの問題を強調するといった抜本的な対応をするには遅すぎる。

2、3年前にそれを行っていれば、スマートフォンAIを巡る議論を変えられた可能性があるが、今そのような動きをすれば、「あなたはできないから、話題を変えようとしている。だがそれは通用しない」と考えられるだろう。

プライバシーを重視してきたアップルの方針は、AIが台頭する現在の状況下では不利に働いている

ティム・クックたちには、端末上でより小規模な大規模言語モデル(LLM)を動かし、データをローカルだけにとどめるアプローチを選ぶ可能性もある。そうすればプライバシーを守りながら開発を進められるが、実際にはすでに多くのAndroid端末が同様の仕組みを用いつつ、より正確な結果を得るためにクラウド側の大型AIモデルを活用している。

最終的な手段としては、AI開発を外部に委ね、Androidで提供されているようなモバイルAIや、ChromeOSやWindowsがPCで実現しているAIの利点をアップル製品にも持ち込むやり方がある。実際、アップルはすでにOpenAIと協力し、Siriの結果を改善しようと試みているが、現時点では「アップルらしい基準」に達しているとは言い難い。

■Apple Intelligenceはこの先どうなるのか

Power Onニュースレターで執筆するマーク・ガーマンは、ティム・クックが直近で取り得る具体的なステップを示している。アップルの拡大経営陣が一堂に会する年次合宿では、今回の失敗の原因や次に取るべき施策が主な議題となるだろう。話し合いの多くは技術的な内容に及ぶとみられるが、同時にアップルが進めてきたAI戦略が世間からどう見られているかについても検証されるはずである。

現時点でのApple Intelligenceの成果は、WWDC 2024やiPhone 16ファミリーの発表時、さらにはテレビやオンラインで継続的に打ち出されてきた宣伝内容と比べて大きく食い違っている。

ガーマンによれば、アップルの上層部全体を見渡しても、大規模な人事刷新が行われる可能性は低いという。彼は次のように述べている。

「もし大がかりな入れ替えをしたら、アップルは世界的にも著名なAI分野の専門家であるジョン・ジャナンドレアを迎えながら、彼を成功できる立場に置かなかったことを認めることになります。それではクック体制が外部採用にまた失敗したと思われるでしょう。グレッグ・ジョズウィアックやボブ・ボーチャーズは社内での影響力が大きいので、どこへも動かないでしょうし、クレイグ・フェデリギも安泰です。つまり、アップルは今いる責任者たちといっしょに進むしかないのです」

要するに、Apple Intelligenceの実装を決定してきたティム・クックのチームこそが、この苦境を解決する役目も担わなければならない。

■Apple Intelligenceは過去の決断の代償を払う

プライバシーを重視してきたアップルの方針は、AIが台頭する現在の状況下では不利に働いている。競合他社と異なる道を選び続けた結果、その差は広がる一方だ。

端的に言えば、アップルはビッグデータを必要とするAI分野で、「データを使わずにビッグデータを扱う」という難題に直面している。「アップルにしかできないやり方」でAIを実現するという期待もあるが、もし何もない状態から大きな成果を生み出せるなら、アップルはその伝説的なブランド力をさらに確かなものにするだろう。

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