知的生命体は宇宙で「非常に稀な存在」の可能性 古生物学者が指摘
地球の古代の化石記録を研究している古生物学者は、宇宙に知的生命体が存在するか否かを問う場合にうってつけだとは思われないかもしれない。だが、古代生物を研究対象とする古生物学は、地球や他の天体における生命の進化に関する深遠な哲学的問題を問う場合に、出発点とするのに適した研究分野なのだ。
絶滅した海洋無脊椎動物の化石の研究に自身のキャリアを捧げてきた、少なくとも1人の著名な進化生物学者は、この問題について、生命自体は地球外でもありふれた存在かもしれないが、知的生命体、特に電波望遠鏡や宇宙船を建造できるような高い知能を持つ生命体は、実際に非常にまれな存在である可能性が高いと主張している。
米カンザス大学の進化生物学者で古生物学者のブルース・リーバーマンは、取材に応じた電子メールで、地球に生息する非常に高い知能を持つ生物種の数の、生物種の総数に対する割合は信じられないほど小さいと指摘している。リーバーマンによると、現生人類種が宇宙船を建造する技術を開発できるようになるまでに10万年以上を要した。このように、複雑な技術の開発が可能な生物種の発達は、極めて稀なケースだと思われると、リーバーマンは述べている。
だからといって地球での生命の出現は予想外というわけではなく、地球外でもそうであるはずだ。
地球の化石記録に関して明らかになっていることに基づくと、生命は極めてありふれた存在であるはずだと、リーバーマンは指摘する。だが、リーバーマンによると、地球での複雑な生命の進化を、真核細胞(膜で区画された細胞小器官を持つ細胞)の起源として扱うと、その発生には約20億年という長い時間がかかった。その時点から動物の起源まで、さらに14億年を要した。リーバーマンはこれを根拠に、複雑な生命は希少であるはずだと考えるようになったという。
リーバーマンと米自然史博物館の古生物学者ナイルズ・エルドリッジが共同で執筆した新著『Macroevolutionaries: Reflections on Natural History, Paleontology, and Stephen Jay Goul(マクロ進化:自然史と古生物学とスティーブン・ジェイ・グールドに関する考察)』の中では、このことが繰り返し述べられている。
『マクロ進化』は、リーバーマンの元指導教官で、エルドリッジの同僚だった米ハーバード大学の古生物学者の故スティーブン・ジェイ・グールドへのオマージュである部分がある。グールドは、巧みな表現を駆使する優れた能力の持ち主だった。
グールドは1997年の著作『ワンダフル・ライフ: バージェス頁岩と生物進化の物語』の中で「バージェス頁岩の初期の時代まで、生命のテープを巻き戻そう。そしてもう一度、同じ出発点から再生してみよう。そうすると、人類の知性のようなものがこのリプレイを飾る可能性はほぼゼロに等しくなる」と指摘している。
『マクロ進化』は、地球の進化史に関するグールドの研究の業績を振り返るとともに、より広範囲の宇宙との関連性についても注目している。
地理的な隔離
リーバーマンによると、生物個体群が十分長期にわたって他の生物種と地理的に離れていると、分化して新種を形成する可能性が高くなる。これには数百年から数万年の時間を要する可能性があるという。
だが、急速な進化にはマイナス面がある。
リーバーマンによると、種分化の速度が大きい生物群は急速に進化する。だが、大きな種分化速度はほぼ必ず、大きな絶滅速度を伴う。なぜなら、種分化や地理的隔離を引き起こすのと同じプロセスが絶滅にもつながるからだと、リーバーマンは説明する。
『マクロ進化』の著者らの目的は、グールドに敬意を表するだけでなく、長期的な社会および文化の視点から地球の生命史を考察することだ。その考察の中で著者らは、時に奇妙とさえ思えることだが、地球での種分化と絶滅の歴史と、米国の株式市場の予測のつかない変動との間の共通点を見出している。
リーバーマンによると、1968年~2008年の40年間のラッセル3000株式指数(米上場企業の上位3000社の株式指数)における株価実績を調べると、株価変動率の大きさが上位20%の株は、株価パフォーマンスが極めて悪かった。それに対し、株価変動率が下位20%の株は、株価があまり変動せず、パフォーマンスが極めて良い傾向が見られるという。
どうして金融危機は大量絶滅に似ているのだろうか。
リーバーマンによると、株式市場の暴落時、株価下落の確率はかなり高くなり、株価変動率が高い株は、大幅に下落する可能性がはるかに高くなる。株価がゼロになると、その企業は倒産となるが、これは生物学的な絶滅に相当するという。進化の観点からすると、生物群が長期的に繁栄するためには、ゆっくりと着実が最善の戦略だと、リーバーマンは説明した。
たとえそうであっても、生命には後押しが必要となる場合が多い。
化石記録に保存された生命の歴史の研究から、生命が「後押し」を得て初めて著しい進化が起きることがわかっていると、リーバーマンは指摘する。ほとんどの場合、この後押しは環境の変化であり、この変化が原因で生物種の個体群が移動することになるという。
これにより特定の生物種の地理的な生息範囲が拡大するか、または縮小・断片化する。
リーバーマンによれば、生物種の生息範囲が縮小・断片化すると、その生物種は特に絶滅の危険性が高くなるが、また同時に新しい種に進化する可能性がより高くなる。
結局のところ、新著『マクロ進化』の最大の成功要因は、天体物理学的事象と気候による環境変化の両方により、地球の生命がどのように影響を受けてきたかに関する洞察を与えてくれる点にある。
好事例
『マクロ進化』によると、約4億4000万年前に6000光年先で起きたガンマ線バースト(GRB)が、オルドビス紀末の大量絶滅を引き起こす大きな要因となった可能性がある。この大量絶滅で、三葉虫の多くの種を含む海洋生物種全体の70%が死滅しただろうと、『マクロ進化』の著者らは指摘している。
地球近傍の超新星
『マクロ進化』によると、超新星から放出される種類の放射線は、体が大きい生物に対して最も有害だったと考えられる。サメの祖先の一種であるメガロドンは、バスほどの大きさがあったという。超新星の放射線が、メガロドンの絶滅の引き金となった可能性があるとする説もあると、『マクロ進化』で指摘されている。
地球の生命は40億年の進化の過程で、ガンマ線バーストと超新星の両方の影響を受けてきた。だが、リーバーマンが指摘するように、彗星や小惑星は、地球の生命の進化過程でより大きな役割を果たした。
なぜ、このどれもが重要になるのだろうか。
地球の生命史は依然として、人類が提起できる最大の哲学的問題の1つのままだ。どのようにして生命が最初に出現して進化し、種分化した後に絶滅するのを繰り返してきたかについて、これまでに明らかになっていることは、他の太陽型恒星を公転する多種多様な太陽系外惑星を理解する上で非常に有用となる。
宇宙生物学者は地球の生命の進化史を詳細に描き出したいと考えているが、あらゆる種類の系外惑星で生命を遠隔的に検出することに関しては、いまだ初期段階にある。
結論
生命の歴史に関していえば、人類は副次的な産物だと、リーバーマンは指摘する。宇宙のどこか別の場所では話が違ってくると考える理由はないと、リーバーマンは続けた。