「隕石」が海面に「超高速」衝突した瞬間、なんとアミノ酸がつくられる…「宇宙飛来」説が考える「生命の起源」がぶっ飛んでいた!
金属なくして、生命の誕生も進化もありえなかった!
鉄やカルシウムが重要なのは常識ですが、私たちの体内には、他にもマグネシウムや亜鉛、銅やマンガン、モリブデンなどの金属元素が含まれています。
これらの金属は、体内にわずか1%以下しか存在しない微量元素ですが、「微量」の名前とは裏腹に、多種多様で、きわめて重要な役割を果たしています。いったいどんな役割なのでしょうか?
そして、「多すぎ」ても「少なすぎ」ても、体調に異変をきたす理由とは?
生命と金属の奥深い関係を解き明かす話題の本『生命にとって金属とはなにか』から、読みどころを厳選してお送りします!
生体分子の「宇宙起源」説
前回の記事では、「生命誕生の地」として深海の熱水噴出孔が有力候補とされていることを紹介した。
一方、最初期の生体分子は宇宙から飛来したと考える学説もある。
1969年、オーストラリアに落下したマーチソン隕石が分析された結果、アミノ酸が検出されて以降、生体分子の宇宙起源説が発表されてきた。その後、ハレー彗星を取り囲む大気やNASA(アメリカ航空宇宙局)のスターダスト探査機が宇宙から持ち帰った「ヴィルト2彗星」のチリの中に有機物質が検出され、新しいデータに基づく新たな考え方が展開されている。
さらに研究は進み、地球に隕石が落下するときに、アミノ酸や核酸塩基などが生成された可能性があるのではないかと主張する最近の興味深い実験を紹介しよう。
地球の誕生から6億~8億年が経過した40億~38億年前の初期の地球には、現在より1000倍以上の量の隕石が降り注いでいたと考えられている。隕石にもさまざまなものがあるが、最もよく知られているのは「コンドライト」で、橄欖石(かんらんせき)や輝石(きせき)などの球状の鉱物集合体や、金属鉄を22〜29%も含む「エンスタタイト・コンドライト[頑火輝石(がんかきせき)]」などがある。
橄欖石は、苦土橄欖石(くどかんらんせき)(Mg₂SiO₄)と鉄橄欖石(Fe₂SiO₄)とが均一に溶け合ってできた固体物質、すなわち固溶体である。
輝石の化学組成はXY(Si,Al)₂O₆であり、Xはカルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、鉄(Fe²⁺)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、Yはクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe²⁺、Fe³⁺)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)などのさまざまな金属元素で構成されている。
隕石落下の衝撃で生成される分子
このころの地球にはまだ大気がなく、地球表面はほとんどが海洋であり、巨大な隕石は超高速で地球に落下しやすかったと推定されている。
隕石が海洋に超高速で衝突すると、その衝撃によって高温の蒸気雲が形成され、液体(水)・気体(大気)・固体(隕石)の3状態が界面で相互に反応すると考えられる。
コンドライトやエンスタタイト・コンドライト、あるいは鉄-ニッケル合金からなる鉄隕石などの金属鉄を含む隕石が衝突すると、高温の蒸気によって金属鉄が酸化され、同時に窒素や炭素が還元されて、アミノ酸などの有機物の生成が期待されると考えられている。
実際に、鉄隕石が海洋に衝突する際に大気中の窒素-水-鉄のあいだに起こる反応を想定して、アンモニアが生成することが衝突実験によって確認されている。
さらに、隕鉄の衝突粉砕粒子の再突入を模擬した加熱実験で、フィッシャー・トロプシュタイプの反応によってメタンの生成も報告されている。
フィッシャー・トロプシュ反応は、1920年代に2人のドイツの化学者フランツ・フィッシャー(1877~1948年)とハンス・トロプシュ(1889~1935年)によって発明された反応で、触媒の存在下で一酸化炭素と水素ガスを反応させて液体炭化水素を合成する方法である(式2−1参照)。
一般的には、鉄やコバルト、ニッケルなどの化合物が触媒として用いられる。
二酸化炭素の役割
また、種々の鉄隕石が衝突すると、多くの水素や一酸化炭素が生成され、磁鉄鉱を多く含む炭素質コンドライトでは主要な生成ガスが二酸化炭素であることもわかってきた。
このような研究の進展のなかで2020年、東北大学の古川善博らが、金属鉄100〜300mg、金属ニッケル10mg、苦土橄欖石(Mg₂SiO₄)200mg、水、二酸化炭素(炭酸水素ナトリウム)と窒素分子を含む系に、実験室内で超高速衝撃(約0.9km/秒)を与えて、アミノ酸のグリシンとアラニンの合成に成功した例が報告された。
これらのアミノ酸の検出と定量には、実験中での混入を避けるために炭素の同位体¹³Cを用いて合成した標準品が使用され、窒素分子からアミノ酸へのモル変換率は約10〜3%と報告されている。
この系にさらにアンモニアを加えると、現在の人や動物の体内に存在するβ-アラニン、α-アミノ酪酸、β-アミノイソ酪酸やサルコシン(N-メチルグリシン)なども合成され、生成量はアンモニアの添加量に比例することがわかった。
隕石が地球に落下して、海洋に超高速衝撃が生じた瞬間にアミノ酸類が生成される場合にも、鉄、ニッケル、マグネシウムなどの金属や金属イオンが触媒的はたらきをした可能性が示されたことは、きわめて興味深い。
生成された生命の原型分子は、さらにこれらの金属イオンによって高分子化することも可能であるかもしれない。