AirPods 4にみる「アップルがオーディオ業界を変え続けている」理由

AirPods 4にみる「アップルがオーディオ業界を変え続けている」理由

アップルはiPhoneの最新シリーズiPhone 16および16 Proシリーズを発表し、それとともにApple WatchとAirPodsの新製品も投入した。

もちろんiPhoneは年間を通してテクノロジー業界全体にとっても、アップルにとっても極めて重要な製品である事は間違いない。しかし、実際の新製品を使った中でもっとも「腑に落ちる」感覚があるかといえば、それはAirPods 4だ。

アップルは音楽産業とオーディオ業界に対してテクノロジーを通じて、大きな変革影響与えてきた。完全ワイヤレスイヤホンを初めて製品化し、音楽への没入だけではなく聴覚を通じたコミュニケーションツールとしての提案を行い、空間オーディオ技術を音楽と映像作品を楽しむ際に当たり前のものとして定着させた。

アップルはなぜ、オーディオ業界の常識を変え続けることができているのだろうか。その理由は、この製品を掘り下げていくと見えてくる。

生活の中に自然に馴染む設計コンセプト

初めてのAirPodsが登場した時、左右の耳に白い細長いデバイスが装着されているのを見て、極めて不自然に感じた人は多かったようだ。日本では耳から「うどん」が出ている、海外では耳から「パスタ」が出ているといった表現が使われたほどだ。

アップルがAirPodsで目指したのは、音楽を聴くためだけのデバイスではなく、常に生活の中で装着しておきながら、iPhoneと連携して聴覚を通じた新しいエンターテインメントやコミュニケーションのスタイルを確立することだった。

そのために左右完全独立したワイヤレス技術を採用し、耳の穴を遮蔽しないオープンデザインを採用し、誰もが簡単に使いこなせるようiPhoneとの密な連携が図られた。その後の開発で、着信したメッセージの読み上げ機能や、異なるアップルデバイス間でのシームレスな接続など、現在では当たり前のように捉えている利用スタイルを提案し続けてきている。

振り返ってみると、彼らが目指していたのは音楽を聴くために没入するだけではなく、生活の中の様々な場面で、スマートフォンとともにオーディオ技術を活用するスタイルを確立しようとすることだった。

厳密に言えばイヤーカフ型のAmbieなど、没入とは逆方向のコンセプトで作られた製品はあったが、完全ワイヤレス化と「iPhoneのユーザインターフェースを聴覚の領域にまで広げる」コンセプトは、他社に真似のできないものだった。

現在では、開放感のあるフルオープン型のパーソナルオーディオ機器は珍しい存在ではなく、どころか一つのトレンドにもなっているほどだ。

しかし、それでもAirPodsが少し特別なのは、iPhoneと統合された設計により、スマートフォンに集まる情報を聴覚で感じ取れるようになっているからだ。空間オーディオに関しても、個人差を吸収した上で、音楽から映像作品までにシンプルにその魅力を感じさせる製品は他にない。

それらの特徴は、iPhoneユーザの心を確実に捉え、アップル製デバイスの中でも最も好調で、売り上げを伸ばす製品ジャンルに成長している。

そう、忘れがちだがこの製品は、単なるイヤホンではない。iPhoneの機能を拡張するデバイスであり、その長所を生かせるのはアップルが販売している端末と接続している時のみだ。

開放型設計でのノイズキャンセリングを実現

前置きが長くなったが、ここでやっと製品の紹介に移ることにしよう。製品の特徴や新しい機能に関しては、すでに明らかになっている通りだ。

AirPods 4最大のトピックはアクティブノイズキャンセリング(ANC)搭載モデルが、非搭載モデルに加えて追加されたことだ。ANC搭載モデルは税込2万9800円、非搭載モデルは税込2万1800円だが、この価格差ならば圧倒的に前者がオススメだ。

ANC搭載モデルはノイズキャンセルするだけではなく、外音取り込み機能で周囲の音、まるでAirPodsを装着していないかのように聞かせる機能も備えている。ワイヤレス充電や「探す」アプリに対応したケースも、ANC搭載モデルのみだ。

耳を完全に塞がないAirPodsだけに、ノイズキャンセリング機能があるといっても、耳を密閉するイヤホンやヘッドフォンと比較すると、その効果は低い。

アップルによると、同社製品での比較で半分程度だという。

とはいえ、実際に使ってみると高音域の低減効果は低いが、中低域から低域にかけては予想以上に働く。ノイズキャンセリングで「静寂と没入」を確保したいのであれば、AirPods 4は確かに向いていないだろう。しかし生活の中での喧騒から距離を取り、周囲の環境から遮断することなく、自分自身の考えに集中したり、音楽より自然に楽しみたい。そんな使い方にはちょうど良い。これはノイズの「緩和度合い」と言える。

まさに「緩和」という言葉はぴったりで、ノイズを遮蔽してしまうのではなく、より静かな空間に不自然さをともなわずに誘ってくれるイメージと考えていただけたら、大きくは外さない。フルオープン型のイヤホンにおけるANCは、数年前からファーウェイが独自に開発していたジャンルだったが、近年は最新モデルを提供していない。

では、なぜ、あえてアップルはこのジャンルにANCを搭載してきたのだろうか。

それはまさに、AirPods本来のコンセプトに極めて適合するものだからだ。

AIで聴覚を適応的に操るAirPods

言及が少々後になったが、AirPods 4の改良は実に多岐に渡っている。ぱっと見たところは変更がないように感じられるが、充電ケースは極めて小さく、本体の形状も大幅に見直され装着感は耳に引っ掛けるやや頼りないものだった旧モデルに対して、しっかりと耳の中に入って安定する感覚だ。

数千人分の耳型データを分析し、5000万以上の個別ポイントを考慮して設計されたという。筆者の場合、旧型のAirPodsではランニングなどの運動をすると外れてしまっていたが、今回のモデルに関してはランニングをしても、あるいは簡単なウェイトトレーニングのためにベンチに寝そべったとしても、外れることはなかった。

AirPods Pro3に相当するチップとドライバーユニットはこれを可能にしている。内部の音響設計も最新のものだ。その結果、オープンイヤー型としては驚くほど中低域が豊かで、スピード感もあり、広域にかけてのバランスが優れている。細かな情報量などについてうるさいことを言わなければ、極めて高音質なイヤホンと言えるだろう。

実際のところ、この製品を使用し始めてから、すっかりAirPods Pro 2を使わなくなってしまった。もちろん、利用する場面によっても異なるだろうが、筆者の感覚においては、街中で使う場合でも、日常生活の中で聴覚から何らかの通知を受け取りたい場合でも、AirPods 4の方が快適に感じる。

イヤホンを取り外す必要に駆られることがほとんどないためだ。

これはAirPods 4とAirPods Pro 2に共通する機能だが、ANCには「適応型」という動作モードがある。

マイク、加速度センサーなどの各種センサーが検出する情報を機械学習させることで、ユーザーの置かれている状況に合わせ、適応的にANCの効き具合を調整する。他メーカーにも同様の機能が搭載されていることもあるが、環境音やコミュニケーションに必要な聴覚情報とユーザー自身の心地よさと、音楽などのコンテンツを楽しむための能力、それらのバランスが絶妙なのだ。

AI技術の応用という面では、iPhoneから通知される情報に対して、顔を縦横に振るジェスチャーで応答する機能にも機械学習は使われている。電話がかかってきた際に軽く頭を振るだけで応答可能となった。この機能は使い始めると手放せない。

環境音に応じて、人が感じる音量感を自動的に維持するよう音量を滑らかに(おそらく気づかないうちに)調整する機能や、音声コマンドの認識精度が向上しており、会話感知機能も搭載され、ユーザーが会話を始めると自動的に音量を下げ、会話が終わると元の音量に戻る機能など、AI的な技術応用は数多い。

今後、さらにAirPodsとiPhoneの連携が密になるにつれ、これらの利便性は高まっていくだろう。

さらにタイトな統合へ

ここまでの話で、おおむねアップルがこのジャンルを革新できた理由が明らかになっているのではないだろうか。

それまでのイヤホンは、純粋に音楽を楽しむ道具だった。スマートフォンの普及で、そこにマイクを通じた通話機能の重要性が加わり、ANC技術の進歩といった背景も生まれているが、あくまでも追加的な機能にすぎない。

一方でアップルのモチベーションは、iPhoneの価値を高めることにフォーカスが当てられている。これはAirPodsの機能的価値を自社製品に閉じ込める囲い込みという意味ではない。

コンテンツや情報が集まり、常に身につけて歩くスマートフォンの機能を聴覚に拡張し、人々の生活に可能な限り寄り添いながらサポートするツールになることで、アップル製品を使うユーザーコミュニティをより強固なものとすることで、事業全体の持続性を高めているのだ。

AirPodsというアップル製品では最もカジュアルな製品に、単独で「Hey, Siri」を認識する機能を加える必要があったのも、今後、Apple Intelligenceを実装していく上で不可欠だったともいえる。

つまり、アップルが独自の考え方でワイヤレスイヤホンをイノベートし続けているのは、単体の製品ではなく、iPhoneと組み合わせた総合的なシステムとして、聴覚に対するアプローチを行うデジタルデバイスを再構築しているからに他ならない。

今後、現在イヤホン製品に使われているH2チップが更新されるだろう。その際にはさらなる統合が、iPhone本体のチップとの連携で行われ、よりタイトな統合へとつながっていくはずだ。

AirPods 4の機能ではないが、AirPods Pro 2に年内実装予定の聴覚サポート機能にも注視しておきたい。今後iOS 18に追加される「ヒアリングチェック」アプリを使うことで「ヒアリング補助」が追加される。

ヒアリングチェックは、ユーザーが自宅で約5分程度で聴力をチェックできる機能で、個人の聴覚プロファイルが作成される。ヒアリング補助は、このプロファイルに基づいて音を調整し、ユーザーの聴力をサポートする。

この機能は補聴器とよく似た仕組みで聴覚の補助を行うが、補聴器としては扱われない。また、日本において「集音器」として分類されるデバイスでもない新しいカテゴリーになるようだ。医療機器ではないものの、聴力に不安を感じる人々にとって、気軽に利用できる有用なツールとなる可能性がある。

なお、この機能の実装に向けて日本の厚生労働省と密接に協力しており、米国やカナダと同時期にサービスを開始することが見込まれている。

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