「X線天文学」で見抜く、元素の起源と宇宙の進化

「X線天文学」で見抜く、元素の起源と宇宙の進化

宇宙が誕生したあと、なぜ我々のような人類がこの宇宙に存在できているのか。それを知ろうとするのに、宇宙の観測は、多くのヒントを与えてくれます。近年では、SpaceX など宇宙民間企業の活躍もあり、人工衛星による通信サービス「スターリンク」や民間人の宇宙旅行なども話題です。宇宙にあるX線を観測する「X線天文学」が発展すれば、宇宙の成り立ちを解き明かすこと、そして人類の宇宙進出にも貢献するでしょう。

◇数百万℃を超える超新星の姿を、衛星を使って観る

宇宙の誕生、つまりビックバンの直後は、水素やヘリウムと少しのリチウムぐらいの元素しか、この宇宙には存在していませんでした。酸素も水も鉄分も補給できず、そもそも生命が存在することができません。現在、身の回りにある鉄や酸素は、太陽のように自ら光る星「恒星」の内部や、恒星の爆発時の核融合反応によってつくられています。

恒星は寿命末期に爆発を起こし、太陽の数億倍もの明るさで輝きだします。この状態を「超新星」といいますが、内部や爆発時につくられた元素は、周囲にばらまかれ、宇宙に供給されることで、さまざまな星を誕生させています。すなわち超新星の残骸を調べれば、星や爆発でどんな元素ができ、ばら撒かれたのかを知ることができるのです。

そもそも星は内部構造が見えません。表面にあるものからしか化学情報が得られないため、難しい理論を組み合わせながら予測するしかありません。しかし残骸を見ると、その星が撒き散らした内部情報を観測できるので、死ぬ直前にどういう状態だったか、どんな最後を遂げたのかといった情報を引き出せます。超新星が撒き散らした元素は、X線を見れば、かなり詳しく調べられます。それが私の専門としている「X線天文学」であり、主に観測対象としているのが超新星の残骸です。

一般的にイメージされる天文学は、地上の望遠鏡や天文台で観測をするのものだと思います。これらで観測しているのは目に見える波長の光、可視光線です。しかし可視光線以外は、肉眼では観測できません。それぞれの波長に合った観測機が必要となるわけです。しかも宇宙から来るX線は、大気で吸収・散乱され、地上に届きません。そのため開発した衛星を打ち上げ、宇宙で観測することになります。

では、なぜX線の観測をするのか。光は波長が長い、つまりエネルギーが低い順に、電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ(ガンマ)線に大別されます。単純に、エネルギーの低い光は冷たいものから、エネルギーの高い光は熱いものから出ていて、X線を放つものの温度は、数百万~1億℃という超高温です。超新星爆発は、ものすごいエネルギーを開放した高温で飛び散っているため、X線を見れば、多くのことが観測できるわけです。

超新星はほぼ点源としてしか観測できません。これは、爆発直後はそれほど膨らんでないからです。爆発後1~2年かけて暗くなっていきますが、数百年経った頃には残骸がかなり広がるため、超新星の “形” の情報が見やすくなります。それを調べることによって、どういうふうに爆発し、どんな元素をまき散らしたのかが逆算できる。言うなれば、星の司法解剖をしてるようなイメージです。

◇従来機の20倍以上の性能を持った衛星で、希少な元素まで観測

天文学は紀元前から始まっている学問ですが、X線天文学はかなり新しい分野で、1960年頃にスタートしています。そもそもX線で光る星なんて、あるはずがないと考えられていました。太陽の表面温度は約6000℃で、基本的に可視光で光っています。どんなに重い星、つまりエネルギーの高い星でも数万℃程度。X線を放つとなれば、100万℃を超えなければならず桁違いです。

しかし当時、太陽からもX線が出ていることがわかりはじめていました。そのX線を詳しく観測しようという実験が行われたところ、全く違う宇宙空間からものすごく明るいX線源が見つかったのです。この出来事を契機に、衛星を上げて観測しようと発展していったのが、X線天文学です。パイオニアの一人であるリカルド・ジャコーニは、2002年、X線天体を発見した功績により、ノーベル物理学賞を受賞しています。

私自身も、2018年7月から2020年12月までアメリカに渡り、NASA の「ゴダード宇宙飛行センター」という研究所で、衛星開発と観測研究を行ってきました。このとき開発に携わった衛星が、「XRISM (クリズム)衛星」です。この衛星は、光のエネルギーの測定能力が非常に高く、従来の観測衛星の20倍以上の性能を持っています。エネルギーを高精度に測れるようになれば、さらに細かい構造が見えるようになり、これまで観測できなかった希少な元素も確認することができるようになります。

なかでも着目してるのが、リン、塩素、カリウムなど、軽くて量の少ない元素です。これらがどのような星からできたのか、理論的に予測はできているものの、まだ観測ができていません。何がどこでどれぐらいできたのか、観測できれば実証が可能です。そういった希少な元素を調べることは、とても複雑な物理の問題でもある、恒星の進化や爆発の仕組みを知ることにつながります。この宇宙で、どんな星がどれだけ生まれ、爆発してきたのか。我々の体や身の回りにある、生命の種にもなるような元素の起源がわかり、宇宙に生命が宿った歴史を辿れるようにもなります。

XRISM 衛星は昨年9月に打ち上げ、現在はこの衛星の能力がちゃんと発揮できているかを確認するフェーズに入っています。今後、世界中の共同研究者と協力しながらデータを解析し、1年ほどかけて徐々に成果を発表できればと期待しているところです。また、公募観測も実施されるので、衛星は今後「宇宙天文台」として、世界の天文学者の新たな武器となります。

◇X線天文学の技術は、宇宙での資源探査や医療への応用も期待できる

X線天文学は、観測衛星の開発を行うため、宇宙産業などとも関わりの強い分野です。すでに大学で小型衛星を開発し、宇宙観測をはじめているところもあるなど、さまざまな研究者たちが関わっており、技術の応用も期待されています。

たとえば天文学で使っている装置を、月の資源探査に活用できないかと考えている人もいますし、そもそもレントゲンにも使っているX線による観測技術の向上が、医療の発展に生かせるのではと研究している人もいます。我々自身は、宇宙を見るために可能な限りいいものをつくろうとしていますが、その技術を社会のその他の分野や業界に還元できる可能性も十分にありえます。目的は違えど、生きるところは多種多様なのも面白いところです。

宇宙の開拓という意味では、これから 10~20年のタイムスケールで、月や火星などへの人類の進出が始まってくると思います。また、天文学的な視点で言うと、太陽はあと50億年ぐらい経つと必ず死ぬので、人類はいつか太陽系の“外”に出ていかない限り、滅びてしまいます。社会や人類が発展していくには、天文学、そしてより広く宇宙科学全域の発展が欠かせないでしょう。

生命に必要な元素が、どこでどれだけできたのか、人類はまだ知りません。宇宙誕生から今までの歴史を含め、どう供給され、どう太陽系をつくりだし、どう取り込まれて地球が誕生したのか。多くの分野をつなげて考えなければならないので、非常に難しいですが、各分野の人たちが手を取り合いながら理解していけば、解明に近づいていけるはずです。

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