珍獣サイガが奇跡の回復、絶滅寸前から190万頭に、IUCNが一挙に3段階評価を引き下げ

珍獣サイガが奇跡の回復、絶滅寸前から190万頭に、IUCNが一挙に3段階評価を引き下げ

保護活動実り科学者ら喜ぶ、「多くの人々の20年におよぶ懸命な努力が報われました」

 中央アジアの寒帯のステップ(大草原)に生息するサイガは、巨大な鼻が特徴のウシ科の動物だ。密猟と病気の蔓延により、カザフスタン、モンゴル、ロシア、ウズベキスタンのサイガは、2003年には最も多かった時代の6%まで減少していた。しかし、12月12日に発表された最新の推定によれば、現在ユーラシア大陸には190万頭が生息しているとされ、国際自然保護連合(IUCN)は、レッドリストの分類を野生での絶滅の一つ手前である「近絶滅種(Critically Endangered)」から「近危急種(Near Threatened)」に変更した。

【動画】珍獣サイガ、懸命な保護活動

 科学者たちはサイガの驚異的な回復を喜んでいる。「一般に保護活動には見通しの暗いものが多く、成功例はあまり注目されません」と、英オックスフォード大学の自然保護科学者で、英国を拠点とするサイガ保護連合の共同設立者であるE・J・ミルナー・ガランド氏は言う。「けれども今回は、多くの人々の20年におよぶ懸命な努力が報われました」

 ほんの20年前まで、私たちはサイガのために「弔辞」を書く必要があるかもしれないと思っていた。2015年には、世界のサイガの半数以上が謎の血液疾患で死亡するという悲劇もあった。

「驚くべきニュースです」とコメントするのは、米コロラド州立大学の生態学者で、米国ニューヨークに本部を置く野生生物保護協会の上級科学者であるジョエル・バーガー氏だ。「サイガはもっと注目されるべき動物です。多くの種や集団の個体数が急激に減少している今、私たちは、サイガの数がここまで回復したことを祝わなければいけません」

サイガの試練

 サイガの保護活動を見守ってきた人々は、これが非常に険しい道のりだったことを知っている。

「20年前、サイガは哺乳類としては最も急激に絶滅の危機に陥りました」とミルナー・ガランド氏は言う。「ほんの数年で90%以上も激減し、そのまま近絶滅種に指定されたのです」

 いったい何が起きていたのか? ミルナー・ガランド氏は、サイガの急減にはいくつかの要因があったと説明する。まず、中国、シンガポール、ベトナム、マレーシアでは、サイガの角は伝統薬の原料として大きな価値がある。そして、この需要と旧ソ連の崩壊が相まって、サイガの密猟が激増した。

「当時、旧ソ連構成国の経済は基本的に崩壊していました」と氏は言う。「人々はステップで過酷な生活を強いられていました。だから密猟に走ったのです」

 さらに、カザフスタンとウズベキスタンの国境沿いに設置された柵がサイガの移動ルートをはばみ、インフラ開発もサイガの生息地に食い込んでいった。そしてついに、サイガの特徴的な鼻に昔から生息していた微生物が何らかの引き金によって病原性を発揮し始め、大量死を引き起こしたのだ。

 今回、数は回復したものの、サイガがIUCNのレッドリストから完全には外されなかった理由はこうした点にある。

「サイガを近危急種としておくのは適切です。次の大量死がいつ起きても不思議はありません」とミルナー・ガランド氏は言う。「彼らは非常にもろいのです」

「地元の人々はサイガを本当に愛しています」

 サイガは植物の種子を散布し、ステップの草を食べる動物として、植物の多様性に大きく貢献してきた。サイガへの脅威が多面的だったように、サイガを保護する努力も多面的だった。

 例えば2006年には、サイガが生息している国、サイガを原料とする製品を伝統的に消費してきた国、そして米国をはじめとする関係国が協力して、サイガの保護、生息地の回復、持続可能なレベルでの捕獲制限に関する覚書を交わした。

 カザフスタン政府は、取り締まりの強化など、密猟対策に力を入れている。サイガ保護連合は、風が吹きすさぶカザフスタンの過酷なステップで暮らすレンジャーのために、ガソリン、制服、バイク、シェルターなどの購入資金を提供した。

 税関も、違法な野生生物取引の一環として、輸出されるサイガ製品の摘発を強化した。カザフスタン政府はさらに、国内の複数の生息地をサイガ保護区に指定し、その面積は合計約4万8000平方キロメートル(九州地方の約1.2倍の広さに相当)におよぶ。

 サイガが生息する国々の経済状況が落ち着き、地元の人々が自分たちの生き残りとサイガの保護のどちらかを選ぶ必要がなくなった今、サイガへの支援は劇的に変化している。

「地元の人々はサイガを本当に愛しています」とミルナー・ガランド氏は言う。「サイガはステップの象徴であり、独立と自由の象徴なのです」

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