iPS視細胞、移植後2年の「安全」確認…異常なく生着も機能改善は限定的
目で光を感じる細胞をiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作り、難病「網膜色素変性症」の患者2人に移植した世界初の臨床研究について、手術を行った神戸市立神戸アイセンター病院などのチームは、2年間の経過観察で安全性を確認できたと発表した。今後は治療効果の向上が課題となる。論文が国際科学誌に掲載された。
網膜色素変性症は、光を電気信号に変える網膜の「視細胞」が徐々に減り、視野が非常に狭くなる難病。進行すると失明の恐れがあるが、有力な治療法はない。
チームは2020年、健常な人のiPS細胞から、視細胞のシート(直径約1ミリ)を作り、各3枚を60歳代女性(当時)の網膜に移植。21年には40歳代男性(同)にも移植した。免疫抑制剤の投与は移植後半年で終えた。
チームの栗本康夫院長によると、いずれも拒絶反応や過剰な増殖などの異常は確認されず、シートが生着していることが確認できた。
シートを移植した目と移植しなかった目を比較すると、病状の進み方は同等か、穏やかになっていた。目の前で手が動くのが分かる程度だった女性は、1年後には大きな字がいくつか判別できるようになったが、2年後には、ほぼ元の状態に戻った。男性の視力はほとんど変わらなかった。
栗本院長は「3枚のシートで覆える範囲は網膜全体の数%にすぎないので効果が限定的だったのだろう。今後はシートを大きくするなど、視機能の改善につながる方法を検討したい」と話している。
岩手大の冨田浩史教授(視覚神経科学)の話
「患者以外の人から作った視細胞が2年間安全に生着していることが分かったのは、非常に重要な成果だ。視機能の改善のためには、網膜の細胞の間で起きる情報伝達を再生できるかどうかが大きな課題だろう」