なんと、「紀元前1世紀の沈没船」にコンピュータが積まれていた…!太陽と月、さらに5つの惑星の動きまで予測する「驚愕の精巧度合い」

なんと、「紀元前1世紀の沈没船」にコンピュータが積まれていた…!太陽と月、さらに5つの惑星の動きまで予測する「驚愕の精巧度合い」

 あの時代になぜそんな技術が!? 

 ピラミッドやストーンヘンジに兵馬俑、三内丸山遺跡や五重塔に隠された、現代人もびっくりの「驚異のウルトラテクノロジー」はなぜ、どのように可能だったのか? 

 現代のハイテクを知り尽くす実験物理学者・志村史夫さんによる、ブルーバックスを代表するロング&ベストセラー「現代科学で読み解く技術史ミステリー」シリーズの最新刊、『古代日本の超技術〈新装改訂版〉』と『古代世界の超技術〈改訂新版〉』が同時刊行されました。

 それを記念して、残念ながら新刊には収録できなかったエピソードを短期集中連載でお届けします。第2回のテーマは「世界最古のコンピュータ」。20世紀最初の年、すなわち1901年に沈没船から回収された「謎の機械」の正体とは? 

世界最古の走行距離計

 さまざまな運搬、運送手段が発達した中で生活している現代人と同様、古代人もまた、目的地までの正確な「距離」を知りたがった。

 古代ギリシャには運送業や営利目的の乗り合い馬車も存在していたから、「走行距離計」は必然的な要請によって発明されたものである。古代エジプト人は輪を回転することによって距離が測定できることを知っていたから、その原理を応用する走行距離計の発明は、それほど難しいことではなかったに違いない。

 紀元前3世紀、“ローマに通じる世界の道”の巨大な道路建設計画を進めていたローマ人の命令で、世界最初の走行距離計をつくったのがアルキメデスだったといわれている。

 世界最古の走行距離計を伝えるのは、ローマの建築家・ウィトゥルウィウスの紀元前1世紀の著作である。ウィトゥルウィウスは「道を走っている乗り物に居ながらにして、すでに何マイル旅を終えたのかがわかる装置」として紹介し、走行距離計の歯車のしくみと、乗り物の最上部にある装置が進んだ距離を示す方法について述べている(P・ジェームズ、N・ソープ著、矢島文夫監訳 『事典 古代の発明』東洋書林、2005年)。

走行距離を「1マイル」単位で測る仕掛け

 1981年になって、現代の技術者・スレースウイックによって復元されたウィトゥルウィウスが記した走行距離計を図に示す。

 馬車の車輪の内側につけられた歯によって、一つのギアが1回転するごとに垂直ギアを一段階進められる。馬車の車輪が400回転するごとに水平ギアが一段階進み(簡略化のために、図に描かれた垂直ギアの歯の数は400ではなく72である)、それがローマの1マイルの距離に相当していた。

 水平ギアには穴が開けられ、そこに丸い石が置かれている。

 1マイル進むごとに、1個の石が細長い筒を通って垂直ギアの後ろにある箱に落ちる仕掛けになっており、その石の個数によって走行距離が1マイル単位でわかるというものである。

 この装置において重要なのは歯車とその組み合わせだが、偉大な技術者であったアルキメデスは複雑な歯車連動装置をつくることができた。

沈没船に遺されていた“複雑な歯車連動装置”

 古代ギリシャにおける究極の“複雑な歯車連動装置”は1901年、クレタ島の北西にあるアンティキテラ島沖の沈没船から回収された「アンティキテラの機械」である。

 これが何であるかが判明したのは、1951年にイェール大学のプライス教授が科学的調査を開始してから二十数年後のことであるが、その後の研究成果(たとえば、T. Freeth et al., Nature, 2006.11.30, 2008.7.31)によって、驚くべき精密さで太陽と月に加え、当時知られていた水星から木星までの5つの惑星の動きを予測し、太陽と月のカレンダーを計算する“世界最古のカレンダー用コンピュータ”であることが明らかにされている。

 プライス教授は二十数年の時を費やし、X線投影法などの科学的手段を駆使して複雑なギアの復元図を得ている。その復元図によれば、中心の歯車の回転は太陽年を表し、それより小さい歯車は太陽と月の位置や、いくつかの重要な星が昇ってくる位置を示す。歯車群の全体は木製の箱に納められ、箱の扉を開けると驚くべき仕掛けを見ることができた(Nature, 2006.11.30)。

 2008年には、青銅の表示盤上に古代ギリシャの全ギリシャ(Pan-Hellenic)競技祭典の開催年を示すと思われるギリシャ文字が発見された。競技開催のインターバル(1~4年)、開催地(イストミア、ネメア、オリンピア、ピューティア、ナア)などが記されていたのである。

“世界最古のコンピュータ”もアルキメデス作か

 じつは、この「アンティキテラの機械」に相当すると思われる装置について、キケロが紀元前1世紀頃の哲学対話集『国家論』の中で、太陽、月、当時知られていた5つの惑星の動きを予測する装置について記述しており、その機械はアルキメデスによってつくられたという。

 アンティキテラの沈没船から回収された「アンティキテラの機械」がアルキメデスの手になるものであるかどうかの確証はないが、いずれにせよ、“世界最古のカレンダー用コンピュータ”の製作に、複雑な歯車連動装置を熟知していたアルキメデスが直接的、少なくとも間接的に関与していたことは間違いないだろう。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏