122匹のエイが延々と渦を巻く求愛行動、初の報告、5時間ぐるぐる回りっぱなし

122匹のエイが延々と渦を巻く求愛行動、初の報告、5時間ぐるぐる回りっぱなし

「実に素晴らしい経験」「保護にとって大きな意味を持つ」と研究者、ムンクイトマキエイ

 海面に上がる水しぶきが、その下で何かが起こっていることを知らせている。波の下では、100匹以上ものイトマキエイがぐるぐると渦を巻き、めまいのするようなダンスを何時間にもわたって続けているのだ。

 この「求愛の渦」は、ムンクイトマキエイ(Mobula munkiana)の過去に報告例のなかった行動であり、保護活動の非営利団体(NPO)「マンタトラスト」が実施した調査において、今回初めて映像に収められ、2023年11月18日付で学術誌「Marine Biology」に論文が発表された。

 メキシコのバハ・カリフォルニアの海で撮影された新たなドローン映像には、122匹のエイが5時間にわたってこの行動に参加している様子が映っている。その間、中心の大きな渦には、いくつもの求愛グループが加わったり出ていったりを繰り返している。

「イトマキエイの渦を見られるというのは、実に素晴らしい経験です」と、イトマキエイの保護活動組織「モビュラ・コンサベーション」の共同設立者マルタ・D・パラシオス氏は言う。氏が筆頭著者である今回の論文は、ムンクイトマキエイのほか、イトマキエイ(Mobula mobular)、ヒメイトマキエイ(Mobula thurstoni)という3種のイトマキエイ属の求愛・交尾行動についての研究の成果だ。

 イトマキエイの仲間は食事や休息の際に渦を作ることが知られているが、交尾のために渦を作るのが報告されたのは今回が初めてだ。円を描く動きは、通常よりもゆったりとしていた。エイたちは互いに触れあっており、顔の前にある角のようなひれを広げて餌を食べているわけでもなかった。

 研究者らはまた、オスのエイたちが交尾をしようと一匹のメスを追いかけ、列車のように一列に並んで泳ぐ「求愛列車」を作って、大きな渦に出たり入ったりしている様子も確認している。

 渦を作ることにより、エイは交尾相手をより早く選べるとパラシオス氏は言う。「求愛列車に連なっている場合、オスは同じメスを何時間も、ときには何日も追いかけることになります」。一方、渦の中であれば、オスは30~40匹のメスの中から最適な相手を選ぶことができる。

「イトマキエイの仲間については、詳しいことはほとんどわかっていません」と、保護団体「マリン・メガファウナ財団」の上級研究員ステファニー・ベナブルズ氏は言う。氏は今回の研究には関わっていない。「繁殖行動は、彼らの生活史の中でも特に重要な側面ですから、こうした発見はエイの保護にとって非常に大きな意味を持つことになるでしょう」

おんぶ跳躍

 今回の研究ではまた、これまでイトマキエイの仲間では記録されたことがなかった「おんぶ跳躍」と呼ばれる新しい行動も、ムンクイトマキエイで観察されている。これは、求愛列車の先頭にいるオスがメスの上に乗りかかり、尾を上げてクラスパー(交尾器)を勢いよく突き刺すというものだ。

 ある一匹のメスに対しては、この行動が135回以上行われた。「海面を泳いでいるときに、後ろからだれかが何度も何度も飛びかかってくるという状況を想像してみてください」とパラシオス氏は言う。

 以前は、オスは交尾の前にメスの胸びれに噛みつく必要があると考えられていたが、今回そうした行動は見られなかった。

 おんぶ跳躍が行われると、メスの背中に擦り傷ができるとパラシオス氏は言う。この発見は今後、メスが性的に成熟しているかどうかを見分ける印として利用できる可能性がある。

 ただし、これを成熟のしるしとして利用するためには、まずはこの擦り傷とそれ以外の擦り傷との区別をつけられるようになることや、擦り傷が体にどの程度の期間残るのかを知ることが必要だとベナブルズ氏は指摘する。

 イトマキエイの仲間は非常に臆病なので、通常は人間に近づこうとせず、すぐに驚いて逃げてしまう。

 しかし今回の遭遇では、「エイたちは研究者の存在を気にせず、彼らにぶつかってくることさえありました」とパラシオス氏は言う。「交尾に夢中になっている間は、外の世界のことなど目に入らないのでしょう」。そしてそのせいで、観光客、漁船、行き交う船などの脅威に対して無防備になってしまうと氏は指摘する。

保護への懸念

 こうした大集団を形成したときには、すべてのエイが脆弱な状態になるとパラシオス氏は言う。なぜなら、一つの脅威の影響が及ぶ範囲が、一匹のエイだけ留まらないからだ。「同じ網に、10匹どころか数百匹のイトマキエイがかかってしまうこともあり得ます」

「漁師にとって、あの小さな渦の周りに網を張ってすべてのエイを捕まえるのは簡単でしょう」とベナブルズ氏は言う。

 今回の研究ではまた、カリフォルニア湾南西部のこの海域が、絶滅の危機にある3種のイトマキエイ属の繁殖地であることも判明した。国際自然保護連合(IUCN)は、ムンクイトマキエイを危急種(vulnerable)に、イトマキエイとヒメイトマキエイを絶滅危惧種(endangered)に分類している。

「成熟した交尾中の集団の周りに網を張るということは、そのエイを奪うだけでなく、生まれてくる子どもも奪うことを意味します」とベナブルズ氏は言う。今回の調査結果は、特に交尾の季節において、このエリアでの漁業を規制することがいかに重要かを物語っている。

地元の変化を保護の成功例に

 この海域はかつて、マンタやイトマキエイの主要な漁場だった。パラシオス氏によると、当時は何百、何千匹という数の死骸が浜辺に横たわっていたという。

 漁を禁じる新たな法律が導入されると、一帯は観光地として生まれ変わった。エイを捕まえるのをやめた地元の人々は、今度は旅行者にエイと一緒に泳いでもらうことにしたのだ。

 ただし、適切な規制がなければ、こうした観光業は脅威にもなり得る。保護活動家は、地元のガイドたちにエイとの適切な接し方を教え、旅行者がエイの自然な活動、特に繁殖行動に影響を与えることなく、責任あるやり方で見学を行えるよう目を配っている。

「繁殖への妨害行為は、群れの健全さに直接的な影響を及ぼします」とベナブルズ氏は言う。「特に求愛行動は、絶対に邪魔してはなりません」

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