オオカミはラッコやアザラシを狩る、イメージ覆す驚きの発見、「中世の拷問のよう」

オオカミはラッコやアザラシを狩る、イメージ覆す驚きの発見、「中世の拷問のよう」

魚やブルーベリーも食べる、順応性の高さを示す最新研究

 米国アラスカ州のカトマイ国立公園で、海岸を歩いていた白いオオカミが、ハロ湾に流れ込む小川の河口までやって来た。

 その約1分後、オオカミは水に飛び込み、強力な顎でゼニガタアザラシの尾にかみついた。ゼニガタアザラシは、体重がおとなのオオカミの2倍に達することもある大きな生き物だ。

 オオカミはアザラシを砂州に引き上げ、その後30分間にわたってアザラシが抵抗するなか、かみついた尾をズタズタに引き裂いた。やがてアザラシが息絶えると、オオカミは走り去り、群れの仲間を連れて戻ってきた。

 これは2016年に生物学者のグループによって撮影されたシーンで、オオカミが海洋哺乳類を捕まえて殺す様子が初めて記録された例だ。そして2021年、同じ研究グループが初めて、オオカミによるラッコの狩りを目撃した。子育て中のメスオオカミと、同じ群れのオス2頭が、岩場で休んでいたラッコの成獣を仕留めたのだ。

 オオカミはシカやヘラジカなどの有蹄類(ゆうているい、ひづめをもつ哺乳類)を群れで狩り、粘り強さとチームワークで獲物を消耗させることでよく知られている。だが、10月3日付で学術誌「Ecology」に論文が発表されたこの研究は、従来のオオカミのイメージとは懸け離れた新しい面を明らかにした点で重要だ。

 また、この研究成果は、オオカミはビーバーからサケまであらゆるものを食べ、これまで考えられていたより柔軟性や順応性のある動物だと示唆する最近の研究とも一致する。

「最大の収穫は、厳密に言えば、オオカミは陸上の捕食者ではなく、さまざまな生態系に影響を及ぼしているかもしれないとわかったことです」と、今回の研究論文の筆頭著者である米国立公園局の生物学者ケルシー・グリフィン氏は話す。「彼らは陸上と海洋の生態系をつなぐ重要な役割を担っている可能性があります」

張り込みの成果

 氷河に覆われたフィヨルド、広大な草原と砂浜。カトマイ国立公園の海岸は美しく、信じられないほど人里離れた場所だ。グリフィン氏率いる研究チームは空路でアクセスするしかなかった。

 寒さと霧雨、何度もやって来る嵐など、人間にとっては過酷な環境かもしれないが、カトマイ国立公園は野生動物の宝庫だ。毎年夏には同公園のイベント「ファット・ベア・ウィーク」が、ベニザケがひしめく小川で開催される。そして、ここ数十年、ラッコやゼニガタアザラシの個体数が回復し、数千頭単位で元の生息域に戻っている。

 これまでの研究で、アラスカ州やカナダのブリティッシュ・コロンビア州に生息するオオカミが海洋生物を食べている証拠は見つかっていた。排せつ物を調べた結果、アザラシ、ラッコ、さらにはアシカの遺伝物質が含まれていた。

 オオカミは、目の前に死骸があれば食べる日和見的な腐肉食動物だ。だが、排せつ物に海洋生物が含まれている頻度からすると、海洋生物を食べるのは「彼ら自身が採用している戦略」であることが示唆されたと、今回の研究に参加したエレン・ディミット氏は説明する。米オレゴン州立大学の博士課程で野生生物の研究を行うディミット氏によれば、海岸のすぐ近くに巣穴をつくっていた群れもあるという。

 しかし、オオカミがゼニガタアザラシやラッコを殺す姿が目撃されたことはなかったため、研究チームは海岸で張り込みを行うことにした。カメラトラップを設置しただけでなく、文字通り、カメラを持って海岸に座った。アザラシ狩りを撮影できたのは全くの偶然だ。ハイイログマが食べ物をあさる様子を見ていたとき、白いオオカミが現れたとグリフィン氏は振り返る。

 グリフィン氏らはラッコ狩りを撮影するため、干潮時にすべてを賭けた。潮が引くと、ラッコが泳ぐための水が少なくなり、オオカミは満潮時に島だった場所にアクセスしやすくなる(グリフィン氏によれば、オオカミは泳ぎが得意で、貫禄のある犬かきをするそうだ)。

 2021年、研究チームはついにオオカミのラッコ狩りを見た。とても残忍な光景だった。ラッコは「中世の拷問のように……四つ裂きにされました」とディミット氏は説明する。1頭のオスがラッコの頭部をガツガツ食べ、最終的に残ったのは、顎の断片2つだけだった。別のオスはラッコの毛皮をくわえて走り去った。おそらく巣穴に敷くためか、群れの幼獣に嗅がせて獲物のにおいを教えるためだろう。

 観察するたび、新たな疑問が湧いてくると論文の著者らは言う。例えば、ラッコを襲った群れは好物の肝臓を残した。化学分析の結果、捨てられた肝臓には、貝類がつくるまひ性の毒素が高濃度で含まれていることが判明した。この地域に豊富に生息する二枚貝や軟体動物をラッコがむさぼり食ったため、肝臓に毒素が蓄積されたようだ。

 オオカミは毒素を感知できたのだろうか、それとも、肝臓を残すことを学んだのだろうか? 「実に良い疑問をもたらしてくれました」とグリフィン氏は述べている。

成功した肉食動物

 米ミネソタ大学の生物学者トム・ゲイブル氏はグリフィン氏らの研究について、オオカミが順応性の高い捕食者であることがさらに証明されたと述べている。「オオカミはユニークな食料源を見つけるのがとても上手です」。ゲイブル氏はミネソタ州のボエジャーズ国立公園に暮らすオオカミの食性を研究するプログラムを率いている。なお、氏は今回の研究には参加していない。

 ゲイブル氏らは、5月24日付けで学術誌「Royal Society Open Science」に論文を発表し、オオカミがコイ目サッカー科の淡水魚のホワイトサッカーを捕まえることを示した。シカを仕留める際の苦労とけがのリスクに比べれば、オオカミにとって、魚捕りは「とても簡単」だとゲイブル氏は説明する。産卵期になると、オオカミは「ただ川岸に座り、遡上(そじょう)してくる魚を捕まえます」

 ゲイブル氏らはまた、夏になると、ブルーベリーがオオカミの食事の最大83%を占めることも発見した。ベリーはあまり栄養にならないが、餌の少ない時期には幼獣のおなかを満たし、体重の減少を防ぐことができる。

「オオカミが北半球で成功した肉食動物の一つであるゆえんです」とゲイブル氏は話す。「砂漠、沿岸、森林、平原など、オオカミの生息地は実に多様です。彼らはあらゆる環境で生きるすべを見いだしてきました」

 オオカミの好物が有蹄類だけでないことは納得できるとディミット氏も述べている。「コヨーテやキツネなど、同じイヌ科の動物を思い浮かべてください。彼らはいろいろなものを食べますし、周囲の環境にも柔軟に適応します。今にして思えば、オオカミはシカばかり捕まえていると決め付けていたことがおかしいですね」

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