1億6000万年前のヤツメウナギの化石を発見、驚異的に良好な状態、すでに「恐ろしげな口」

1億6000万年前のヤツメウナギの化石を発見、驚異的に良好な状態、すでに「恐ろしげな口」

肉を食らい生き血を吸う、謎の多いユニークな生物の進化史をひもとく重要な発見

肉を食らい、生き血を吸う水中の生きもの、ヤツメウナギ。その1億6000万年前の見事な化石が中国の遼寧省で発見された。ヤツメウナギには顎がなく、歯がびっしりと並んだ吸盤状の口を持ち、現生種の多くはこの口で獲物にがっちりと食らいつく。発見された2体の化石は大型の絶滅種で、獲物の肉をえぐり取るための特殊な口器を備えていた。元々体の小さかったヤツメウナギが、印象深い捕食者に進化していった過程を示す貴重な発見だ。論文は10月31日付けの学術誌「Nature Communications」に発表された。

カナダ自然博物館の古生物学者である宮下哲人氏は、この研究には関わっていないが、「恐竜時代のヤツメウナギの化石で、あの恐ろしげな口器がここまできれいに保存されているものはほかにありません」と話す。

 化石は、遼寧省にあるおよそ1億6000万年前の岩から発見された。この場所はかつて湖だったという。2体はいずれも新種で、吸盤状の口から尾びれの先まで完全にそろっている。

「初めて見たときは、本当に感動しました」と、論文の筆頭著者である中国科学院所属の古生物学者、呉飛翔氏は言う。特に、口と歯が状態よく保存されていたことに、呉氏は注目した。

以前の化石は体長数センチの小さな種のみ

 先史時代のヤツメウナギをこれほど詳しく分析できる機会はめったにない。3億6000万年以上前から存在しているというのに、「ヤツメウナギの化石はほとんど見つかっていません」と宮下氏は言う。見つかっているものでも、ほとんどは最初の2億年間における体長わずか数センチの小さな種ばかりだ。

 その頃のヤツメウナギが何を食べていたのかはよくわかっていない。小さな獲物か、あるいは藻類ですらあったのかもしれない。

 いずれにせよ、これらの小さな化石には、他の魚の血を吸ったり肉を食べたりするような特殊な口器はついていなかった。そのため、この口器がある新種の化石が、ヤツメウナギの進化の過程を知るうえで重要な手がかりになると期待されているのだ。

 2体の化石のうち、体の大きい方はYanliaomyzon occisorと名付けられた。体長は60センチ以上と、これまでに発見された化石のなかで最も大きい。現生種のなかでも最大の部類に入る。もっと古い近縁種と比較すると何倍も大きく、その恐ろしい歯は何がヤツメウナギをここまで大きくしたのかについて、手がかりを与えてくれるかもしれない。

「現生のヤツメウナギの成体には、他の魚に寄生する種としない種がいます」と、宮下氏は言う。Yanliaomyzonの大きさは、魚に寄生して捕食し、普段は海で暮らして産卵のために川に戻る現生の大型種に相当する。Yanliaomyzonは、こうした生態をもつヤツメウナギとしては今のところ最古の化石だ。

 口の中は、鋭い歯がびっしりと並び、ピストンのように舌を動かす特殊な構造をしている。呉氏によると、これは肉食のフクロヤツメという現生種によく似ている。つまり、ヤツメウナギは1億6000万年前にはほぼ最大級の大きさに進化し、アイスクリームをすくうように魚の肉をえぐり取っていたと考えられる。

 Yanliaomyzonのうち1体の腸には、食べた獲物の骨の断片まで残っていた。獲物を骨ごと塊でかじり取って食べていたであろうことを示している。化石のヤツメウナギが現生のフクロヤツメと似たような能力を持っていたとすれば、獲物の頭骨を破壊することもできただろうと、呉氏らは書いている。

魚のうろこが変化してヤツメウナギが進化した?

 ヤツメウナギはなぜこうした肉食へと進化していったのだろうか。

 ヤツメウナギがまだ小さかった頃、周囲の魚は大きく、体は硬いうろこで覆われていた。小さなヤツメウナギの歯では、かじりつくこともできなかっただろう。

 しかし1億6000万年前になると、「薄いうろこを持った魚がたくさん現れました」と、呉氏は説明する。それが、ヤツメウナギの新たな食料源となった。こうしてヤツメウナギは、狩りの名人となり、肉を食べ、やがて現代の吸血種へと進化していったことが、新たな化石によって示唆されている。

 ヤツメウナギの一生はいくつかのステージに分かれているが、いつ頃そのように進化したのかについてのヒントも、この化石から読み取れる。

 化石は2体とも、腹にリボンのような長いひれを持っていた。呉氏らによると、このひれは流れる水のなかを泳ぐためのものだという。つまりYanliaomyzonは、大型の現生種と同じように、やはり成長したら川を遡及して産卵し、生まれた幼生は、しばらく淡水で餌を漉し取って食べていたと考えられる。その後海へ出て行って狩りをするようになり、新たなライフサイクルが始まる。

 この先また新たな化石が見つかれば、硬いうろこをもった魚の世界で、小さかったヤツメウナギがどのように劇的な進化を遂げていったかがさらに詳しくわかるかもしれない。「他の脊椎動物と比べると、ヤツメウナギの化石記録はかなり少ないほうです」と、米シカゴ大学の古生物学者であるマイケル・コーツ氏は言う。

 コーツ氏はこの研究に関わっていないが、新たに発見された化石は多くの新しい情報をもたらす「非常に魅力的な研究材料です」と話す。太古のヤツメウナギについては、それまでに発見されていたわずかばかりの口の化石から推測するしかなかった。それが今では、ジュラ紀には既に立派な口器を進化させていたことが明らかになったのだ。

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