まるでシール、ノーベル賞級の発明…日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト」

まるでシール、ノーベル賞級の発明…日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト」

 脱炭素の潮流の中、軽くて曲げられる「ペロブスカイト太陽電池」が日本発の次世代型太陽電池として注目されている。ビルの壁や窓、電気自動車(EV)の車体に貼れたり、室内で発電できたりすることから「ノーベル賞級の発明」と評される。実用化に向けた研究は加速しており、政府も後押しに本腰を入れる。(編集委員 今津博文)

髪の毛より薄く、柔軟で軽く

 「日本発のペロブスカイトの2025年からの市場投入を始める」。今月3日、岸田首相は首相官邸で開かれた企業幹部との意見交換会で、脱炭素社会の実現に向けて年内に投資戦略を策定すると明らかにした。

 ペロブスカイトとは元々、ロシアの政治家で鉱物学者でもあったレフ・ペロフスキー(1792~1856年)が発見した鉱物の名前に由来する。サイコロ形の結晶の中に別の結晶を斜めに押し込んだような構造が特徴で、同じ構造の物質をペロブスカイトと総称する。

 スズや鉛などの金属と、ヨウ素や臭素、炭素化合物を組み合わせてペロブスカイト結晶を作ると、光を吸収して電子を放出したり、逆に電気を流すと光ったりする半導体になる。この性質を利用したのがペロブスカイト太陽電池だ。

 従来のシリコン太陽電池は、シリコンの結晶に一定の厚みが必要で、割れやすいため丈夫なガラスで保護しており、重量がかさむ。

 これに対してペロブスカイト太陽電池は、髪の毛の直径より薄く柔軟なシート状に加工できる。液体に溶かしてフィルム上に塗り重ね、乾燥させて製造する。非常に軽く、シールのように貼り付けて利用できる。

 環境にも優しい。製造工程でペロブスカイトに加える温度は約150度。溶かす際に1400度超になるシリコンと比べ、排出される二酸化炭素(CO2)の量も大幅に削減できる。

変換効率も向上

 ペロブスカイトは1990年代まで、LED(発光ダイオード)のような「光る半導体」を開発する研究が国内で行われていたが、その後は進んでいなかった。

 「電気を流して光るなら、逆に光を当てれば発電するはず」。そう気づいて試し、2009年に論文発表したのが、桐蔭横浜大の宮坂力・特任教授だ。

 ペロブスカイト層を2種類の異なる素材と電極で挟んで光を当てると、結晶からマイナスの電気を帯びた電子が飛び出し一方の電極へ移動する。電子が抜けた跡(正孔)はプラスの電気を帯び、もう一方の電極に集まる。こうしてマイナス極とプラス極ができ、電流が流れる仕組みだ。

 ただ、宮坂さんが作った太陽電池は光を電気に変換する効率が3・8%と低く、寿命もごく短時間だった。

 転機は12年。韓国・成均館大の 朴南圭(パクナムギュ) 教授が変換効率9%超、英オックスフォード大のヘンリー・スネイス教授が同10・9%を達成したと、それぞれ発表した。スネイス教授の論文には宮坂さんも名を連ね、一躍脚光を浴びた。

課題は耐久性

 一方、京都大化学研究所の若宮淳志教授はムラが非常に少ないペロブスカイトの膜を作ることに成功。変換効率20%超を実現し、性能面でもシリコン太陽電池に追いついた。18年にはスタートアップ(新興企業)を設立。今年6月にトヨタ自動車と、10月には三井不動産レジデンシャルと共同研究の開始を発表し実用化にまい進する。

 ペロブスカイト太陽電池は、従来はパネルが重くて設置できなかった倉庫や工場の屋根、ビル壁面、車体などで発電でき、広大な敷地は不要になる。

 課題は耐久性だ。シリコン太陽電池は20~30年もつとされるが、ペロブスカイト太陽電池のフィルムは傷などに弱く劣化しやすい。それでも現在の寿命は10~15年に延びているという。

 中国や欧州では量産が始まっており、世界の市場は22年の320億円から、35年には1兆円に達するとの試算もある。若宮さんは「この技術は電力問題のゲームチェンジャーになり得る」と自信をみせる。

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