月の年齢は44億6000万歳と判明、定説より4000万年上だった、最新研究

月の年齢は44億6000万歳と判明、定説より4000万年上だった、最新研究

私たちが知る月が始まった瞬間、地殻ができた最後の段階の年代を証明

 人類が月に降り立ってからすでに半世紀が過ぎたが、当時採取された月の岩石からは今でも、この柔らかい光を放つ地球の隣人について、重要な情報が得られることがある。そして、1972年に採取された岩石によって、月はこれまで考えられていたよりもはるかに古いことが、学術誌「Geochemical Perspectives Letters」に10月23日付けで発表された論文によって証明された。

 月が形成された時代から残る最古の鉱物のひとつにジルコンがある。その結晶に閉じ込められた原子を調べ、科学者らは、月が少なくとも44億6000万年前のものであると突き止めた。この値は、これまでの定説より4000万年も古く、太陽系が誕生したとされるおよそ45億7000万年前にさらに近づいた。

 月の年齢を正確に知ることは、太陽系の形成初期に何がどのような順序で起こったのかを把握する助けとなる。

「タイミングが何より重要です」と語るのは、英グラスゴー大学の宇宙化学者で、米シカゴ大学の大学院生時代に同プロジェクトに携わった筆頭著者のジェニカ・グリア氏だ。「太陽系には長い歴史がありますが、真にダイナミックなプロセスの多くは、最初の数千万年の間に起こりました」

 太陽系が若かったころ、幼い地球は衛星を持っておらず、原始の太陽の周りを一人ぼっちでぐるぐるとまわっていた。ただし、当時の地球を取り巻く環境が静かだったとは言い難い。この惑星が生まれて間もないころには、火星サイズの天体との衝突があったはずだと、科学者は考えている。

 衝突で生じた熱により、若い地球とそこにぶつかってきた天体はどちらも液体と化し、その結果ひとつに融合した。この塊から飛び出した溶岩の小さな粒が、安定した軌道を巡るようになり、やがて冷えて月になった。

 月の内部は、マントルと地殻という別々の層に分かれて固まった。そのときに新たな鉱物が結晶化し、いちばん最後に形成された鉱物のひとつがジルコンだった。ジルコンの結晶の中に捉えられているのは、月の地殻ができた最後の段階であり、今日私たちが知る月としての始まりの瞬間だ。

時を刻む鉱物ジルコン

 ジルコンは頑丈なため、科学者からの人気が高い。大きさ数マイクロメートル程度のジルコンの結晶は、何十億年にもわたって風化することなく、それが誕生した当時の化学的、地質学的な情報を保持している。ジルコンはまた、形成される際、周囲の環境からウランを取り込んでおり、それがジルコンが結晶化した瞬間からスタートするタイマーの役割を果たす。

 ウランは予測可能な速さで崩壊して鉛になる。できた鉛原子と、残ったウラン原子の数から、研究者らは、そのジルコンが冷えて固まって以来、どのくらいの時間が経過したのかを割り出せる。

 論文の著者らは、1972年にアポロ17号ミッションで採取された月の岩石サンプルに含まれていたジルコンを調査して、原子の3Dマップを構築した。鉛同位体の数を集計したところ、月の地殻が形成された年代としては定説より古い44億6000万年前という値が導かれた。

 この値は、ビドン・チャン氏、オードリー・ブービエ氏を中心とするグリア氏の共同研究者たちによって、2021年の時点で示されていたが、その論文には懐疑的な反応が寄せられた。批判者らは、鉛原子は移動して偏る傾向があるという事実を指摘した。つまり、調べる場所によっては、ジルコンの年代を間違える可能性があるというのだ。

 そうした疑念を払拭するために、ブービエ氏はグリア氏のチームに対し、前回の研究よりもはるかに詳しく岩石を分析できる手法で再度原子の数を数えるよう提案した。それなら、鉛の原子の偏りを特定できるからだ。しかし、そうした領域はひとつも見つからなかった。

「ジルコンの内部ではすべてが均一でしたから、これについてはそもそも気にする必要もなかったのです」と、米フィールド博物館とシカゴ大学に所属する宇宙化学者で、同研究の著者であるフィリップ・ヘック氏は言う。この結果によって、以前に測定された44億6000万年前という年代が確定した。

「これはとてもすばらしい研究です」と、米アリゾナ州立大学の地球化学者メラニー・バーボニ氏は言う。氏はこれまでに、月のジルコンに含まれる別の原子を調べ、月の内部に初めて明確な層が形成されたのが45億1000万年前であると発見している。これは、今回の研究によって示された地殻ができる最後の段階よりも前に起こった出来事だ。

 バーボニ氏は、新たな研究は自身が発見した内容と矛盾しないと述べている。「多くの論文では、月が形成されたのは43億年前など、もっとずっと遅い時期だとされています。こうした数字は、今回の研究データをもとに考えればあり得ないものです」

月は「正直なパートナー」

 月が固まった時期が特定されれば、将来の研究者たちは、それを月の進化をモデル化する際の基準点にできる。「年代を明確にすることによって、あらゆる出来事を文脈に当てはめることができるのです」とグリア氏は言う。「そうすれば、今起こっているプロセスを理解できるようになります」

 月の形成期に何が、いつ起こったのかを知ることは、地球の衛星がなぜ今のような姿をしているのかを説明するうえで役立つだろう。

 月を研究することの真の醍醐味は、月が地球について何を教えてくれるかという点にある。共通の起源を持つ仲間として、地球と月の運命は結びついている。しかし、地質学的に活発な地球は、まるで狡猾な犯罪者のように、過去の出来事の証拠を埋めたり、破壊したりしてしまう傾向にある。

 月はその点、より正直なパートナーだ。地殻の活動がないため、地表の地質学的記録が何十億年にもわたって維持されるからだ。

 科学者らは、月に残る証拠を調べて、同じ時期に地球では何が起こっていたのかを推測することができる。たとえば、月が形成されたあの運命的な衝突において、すべての水は沸騰して消え去った可能性があると、グリア氏は言う。

 もしそうであるならば、水はどこかの時点で地球に戻ってきたはずで、おそらくは地球に衝突する小惑星によってもたらされたものと考えられる。その痕跡は月にも残されているだろう。

 今回の研究では、月が形成されたのは少なくとも46億6000万年前であることがわかったが、内部にある一部のマグマが冷えて固まるまでには、数億年かかるという研究もある。ジルコンが示すのは、月に広がっていたマグマの海の最後の痕跡、すなわち強烈な出来事に満ちた月誕生の最終章と、より平穏な時代の到来だ。

 ヘック氏もバーボニ氏も、将来の研究者がより古いジルコンを発見し、それによって月の年齢がさらに古いものであることがわかったとしても驚かないだろう。もしかすると、NASAが所有する月の岩石の中には、もっと古い結晶が存在するのかもしれない。

 だが、ヘック氏によると、そうした結晶は希少なものだという。あるいは今後、人類がまだ足を踏み入れていない月面のどこかから、より多くの結晶が見つかるかもしれない。

 現在、複数のミッションで、月面上のだれも行ったことのない場所からサンプルを持ち帰ろうとしている。

 中国は、2024年に月の裏側からサンプルを持ち帰るロボットミッションを打ち上げることになっており、NASAのアルテミスIIIミッションは、2025年12月に人類を月の南極に着陸させることを目指している。

 そうした場所で採取される新たな岩石からは、月の起源の物語をさらに詳細に知る手がかりが得られるかもしれない。

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