地球最後の2頭になったキタシロサイ、マンモスを復活させる「脱絶滅」技術で救えるか

地球最後の2頭になったキタシロサイ、マンモスを復活させる「脱絶滅」技術で救えるか

9月22日は「世界サイの日」、絶滅動物の復活に挑む企業が遺伝子技術で協力、取り組みには異論も

 地球上のキタシロサイは、現在、2頭のメスしか残っていない。このほど、絶滅の危機にあるキタシロサイを救おうと奮闘する科学者たちの国際的なコンソーシアム(共同事業体)「バイオレスキュー」が、米国のバイオテクノロジー企業「コロッサル・バイオサイエンシズ」に協力を求めた。コロッサルは、ケナガマンモス、ドードー、フクロオオカミといった絶滅種の復活を試みていることで知られる。

 バイオレスキューのリーダーで、ドイツ、ライプニッツ動物園・野生動物研究所の野生動物繁殖の専門家であるトーマス・ヒルデブラント氏は、当初はコロッサルとの協力に乗り気ではなかったと打ち明ける。

「マンモスを復活させようとしたり、そうした試みを保護プロジェクトと呼んだりすることは、今でも好きではありません」と氏は言う。それでも、健全なキタシロサイの群れを野生に戻すためには、コロッサルが開発したツールが必要かもしれないと考えるようになったのだ。

「キタシロサイは、アフリカ中央部の複雑な生態系で重要な役割を果たしていました。私たちは、この生態系の要となる種を救いたいのです」とヒルデブラント氏は言う。「キタシロサイを復活させるにはまだ時間がかかりますが、10年後か20年後には最初の野生への再導入を実現したいと思っています」

 コロッサルは絶滅動物を復活させる「脱絶滅(de-extinction)」の取り組みに2億2500万ドル(約330億円)を投資している。同社の創業者で最高経営責任者(CEO)のベン・ラム氏は、自分たちがキタシロサイの保護プロジェクトに参加することで、同社の取り組みが絶滅の危機にある現存種の保護にも役立つことを示せると言う。

「保護活動のほとんどは、生息地の保全や密猟の防止に重点を置いています。しかし2頭のメスしか残っていないような状況では、より先進的な技術が必要になります」とラム氏は言い、絶滅した動物を復活させるコロッサルの技術が、現存種を守ろうとする世界中の保護団体や政府に利用されるようになることを期待している。

迫るタイムリミット

 サハラ以南のアフリカに生息するシロサイは、ミナミシロサイとキタシロサイの2つの亜種に分かれている。

 サイの角は、古くから伝統薬や彫刻の材料として珍重されてきた。サイの個体数の減少を受けて角の取引が禁止された今でも、闇市場では高額で売買されており、密猟者は角を求めてサイを殺している。

 ミナミシロサイは、19世紀後半には20頭ほどしか残っていなかったが、保護活動が実を結び、今ではアフリカ東部と南部に約1万6000頭が生息している。一方、キタシロサイは2008年に野生絶滅となり、動物園に数頭が生き残っているだけになった。

 2009年には、飼育下にあった最後の繁殖可能なキタシロサイ4頭(メス2頭、オス2頭)が、チェコのドブール・クラーロベー動物園から、ケニア山のふもとにあるオルペジェタ自然保護区に移された。サイを自然の環境に戻せば、繁殖する可能性が高くなるのではないかという期待もあったからだ。24時間体制で武装警備員が監視する中、サイたちは交尾をしたが、メスは妊娠しなかった。

 2013年にはオスの「スニ」が心臓発作で急死した。その直後、ヒルデブラント氏はメスの「ナジン」とその娘の「ファトゥ」を診察して、残念な事実を発見した。どちらのサイにも病気があって、妊娠は望めそうにないことが明らかになったのだ。

 2018年にも悲劇が起きた。世界最後のオスのキタシロサイ「スーダン」が、45歳という高齢と脚の感染症のために立つこともできなくなり、オルペジェタの人々は安楽死という苦渋の決断をせざるをえなくなったのだ。

最後の希望

 オルペジェタの保護責任者であるサミュエル・ムティシャ氏は、「この時点で、キタシロサイを救う唯一の希望は体外受精ということになりました」と語る。

 2019年8月22日、ヒルデブラント氏と獣医師チームは、ナジンとファトゥから卵子を採取することに成功した。キタシロサイから卵子が採取されたのは、世界初だった。

 採取された卵子は、動物の繁殖を専門とするイタリアの民間研究所「アバンテア」に速やかに運ばれ、研究所の設立者である科学者のチェーザレ・ガッリ氏が、動物園で飼育されていたキタシロサイのオスから生前に採取しておいた凍結精子を使って人工授精させた。その後も卵子が採取され、ガッリ氏は最終的に29個のキタシロサイの胚(受精後まもない段階)を作り出すことができた。

 バイオレスキューのチームは、2025年までに健康な子サイを誕生させることを目標に、1個の胚を代理母となるミナミシロサイに移植しようとしている。子サイが生まれたら、遺伝学的にはキタシロサイとみなされることになる。

 ヒルデブラント氏は、「最後の2頭となったキタシロサイの言語や行動などの社会的遺産を守るため、早く子サイを誕生させなければなりません。それらをミナミシロサイから学ぶことはできませんから」と言う。

脱絶滅の技術

 では、コロッサルの出番は? 彼らの強みはゲノム技術にある。例えば、同社のケナガマンモス脱絶滅プロジェクトでは、ゾウのDNAにマンモスの特徴(寒冷な気候への耐性や長い毛など)を持たせる遺伝子を組み込もうとしている。

 そして最終的には、マンモスに似たゾウの胚を、代理母となるゾウに移植したいと考えている。

 これに対して、キタシロサイのプロジェクトは「遺伝子レスキュー」だとラム氏は言う。つぎはぎの種を作るためではなく、現存するキタシロサイから失われた遺伝的多様性を、胚のもととなる細胞に再導入するために遺伝子編集ツールを使おうとしているのだ。そうすることで、将来生まれるキタシロサイを病気やその他の脅威から守ることができる。

 そのために同社は、アフリカ各地の博物館に保管されているキタシロサイの標本からDNAを採取して、失われた遺伝的多様性を明らかにしようとしている。

 コロッサルのマット・ジェームズ氏は、「時間のかかる仕事です」と言う。「けれども、この技術を開発すれば、個体数をより速やかに増やせます。私たちが生きている間に、キタシロサイが生息域に戻るのを見ることもできるでしょう」

魔法の解決策はない

 絶滅寸前の種を救ったり、絶滅した種をよみがえらせたりするために、こうした極端な手段を使うことには批判もある。はるかに少ない費用しかかからない従来の方法によって救える絶滅危惧種がいるのに、それらのために人々が注げる時間と関心と資源を奪ってしまうというのだ。

 野生動物の絶滅と保全管理の専門家である米デューク大学のスチュアート・ピム氏は、「試験管の中で生かしておけるのだから種が絶滅しても構わない、という口実を人々に与える」ことを理由に、脱絶滅プロジェクトには強く反対している。

 氏はキタシロサイを救おうとする努力には共感するが、懸念も抱いている。 「この技術がうまくいったとしても、その動物をどうやって野生に戻すつもりなのでしょうか? キタシロサイがいなくなったのは、私たち人間が彼らの生息地を破壊し、密猟したせいだというのに」

 コロッサルのジェームズ氏は、キタシロサイや、今後絶滅が危惧されるほかの種を救うための同社の取り組みは、絶滅を防ぐ「魔法の解決策」ではないと言う。「私たちは絶滅の回避に欠かせない革新的なツールを提供しますが、それは従来の保護活動とじかに結びつかなければなりません」

 ピム氏も、地球からキタシロサイが失われることは悲劇だと言う。

「私はこれまでに野生動物のさまざまな姿を見てきましたが、2頭のサイが戦う姿は、なかでもすばらしい光景の1つです。サイは途方もなく大きく、すばやく動き、信じられないような激しさで戦うのです。足元で地球が揺れているような感じでした」

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