新説:アカシュモクザメは深海で息を止める、「完全に予想外」と研究者も驚き

新説:アカシュモクザメは深海で息を止める、「完全に予想外」と研究者も驚き

冷たい海での狩りに有利になる可能性、同じような行動をする魚はほかにもいる?

 アカシュモクザメ(Sphryna lewini)は、冷たい深海に潜るときには息を止めているようだ。2023年5月11日付けで学術誌「サイエンス」に発表された発見は、暖かい海に生息するサメが低温の深海で狩りをするときに、息を止めて体温を調節している可能性を示唆している。

「完全に予想外でした」と、研究チームを率いた米ハワイ大学でサメを研究者するマーク・ロイヤー氏は語る。「深海に潜る魚類でこのような行動が観察されたことはありませんでした」。もしかすると、同じように息を止めて深海に潜る魚が、ほかにもいるのかもしれない。

 現在、アカシュモクザメは国際自然保護連合(IUCN)の近絶滅種(critically endangered)に指定されている。彼らは通常、泳ぎながら海水をエラに送り込んで、呼吸に必要な酸素を取り込んでいる。しかし、イカなどの獲物を捕らえるために水深数百メートルの深海に潜るときには、冷たい海水が代謝や心機能や視力などに影響を与え、うまく狩りができなくなるおそれがある。

 そんなときにエラや口を閉じて息を止めることができれば、臓器が冷たい海水にさらされるのを防げるはずだ。

 クロマグロやアオザメなどには、低温の水の中で体温を保つための特殊な体のしくみがあるが、アカシュモクザメにそのような構造はない。

 そのため一部の科学者は、アカシュモクザメは単純に「熱慣性」を利用して体温を維持していると主張していた。

「感謝祭のごちそうに、重さ7kgの冷凍七面鳥を冷蔵庫から出して解凍することを想像してみてください。解凍が終わるまでには長い時間がかかるでしょう? それが熱慣性です」と、米フロリダ・アトランティック大学でサメの動きを研究している生物学者のマリアンヌ・ポーター氏は説明する。大きいものは熱しにくくて冷めにくいため、大きい魚は冷たい深海に潜っても熱を失いにくいというわけだ。なお、ポーター氏は今回の研究には参加していない。

 しかし、研究チームがおとなのアカシュモクザメに取り付けた小さなセンサー(ロイヤー氏はこれを「サメ用ウェアラブル健康管理端末」と呼ぶ)は、深海での狩りの際に彼らの体温を保つしくみは熱慣性ではないことを示唆していた。

浮上中に下がる体温

 研究チームは、6匹のオスのアカシュモクザメの小さな群れにデーターロガー(記録装置)をつけ、その泳ぎと深さと位置に関する情報を詳しく分析した。サメたちは、ハワイ周辺の海域で数週間の間に100回以上深海まで潜っていた。

 夜間に潜水を繰り返すサメの筋肉の温度を分析した結果、サメが水温約26℃の海面付近にいるときも、水温が5℃まで下がる水深800mの深海にいるときにも、体温はほぼ一定であることがわかった。

 意外だったのは、いちど深海に潜ったサメが半分ぐらいの深さまで浮上してきて、周囲の水温がやや高くなったタイミングで、体温が下がったことだった。これはおそらく、必要な酸素を得るためにエラを開いたせいだろう。サメが熱慣性で体温を維持しているなら、こうはならないはずだとロイヤー氏は言う。その場合は、もっとコンスタントに温まったり冷えたりして一定の温度に落ち着くはずだ。

 なお、研究チームはサメが実際にエラを閉じる様子を観察したわけではない。ロイヤー氏によると、息止め仮説を完全に立証するためには、アカシュモクザメにカメラを取り付けて、サメが潜水する際にエラが開閉する様子を観察する必要があるという。

 体長3.5mのアカシュモクザメがどのようにして息止めの技術を身につけたのかは謎だ。ロイヤー氏は、潜水中の仲間との交流から学んだか、同じように深海に潜って獲物を捕食するほかの動物を真似た可能性があるとしている。

説得力のある根拠と、「驚くべき」意味

 息止め仮説を裏付ける証拠は、ほかにもある。遠隔操作型無人潜水機がタンザニアの水深1000m以上の深海で撮影した映像では、大人のアカシュモクザメがエラを閉じた状態で泳いでいたし、アカシュモクザメが普段生息している深さではエラを開いた状態で泳いでいる姿が撮影されているのだ。ロイヤー氏のチームがアカシュモクザメの死体を温水と冷水の水槽に入れて熱の伝わり方を調べた実験の結果も、この仮説を裏付けている。

「この論文には、息止めが起きている可能性を示唆するさまざまな根拠が示されており、説得力があります」とポーター氏は評価する。「私は、アカシュモクザメが息止めをしていることを確信しています」

 ポーター氏によると、アカシュモクザメのメスも深海に潜るので、今回の研究ではオスしか調べていないものの、妊娠していないメスも息止めをするのではないかという。

 オーストラリア、西オーストラリア大学のマーク・ミーカン氏とマードック大学のエイドリアン・グリース氏は、論文とともに「サイエンス」誌に掲載された解説記事で、アカシュモクザメの息止めには「驚くべき」意味があるとしている。

 彼らは、アカシュモクザメの個体数は急激に減少しているが、深海で息を止めて狩りをすることができれば、近年世界中の海で増えている低酸素海域にうまく適応できるかもしれないと指摘する。実際、アカシュモクザメはすでにメキシコのカリフォルニア湾の低酸素海域に多い。新たに発見された息止めの技術は、その理由を説明できるかもしれないという。

 一方ポーター氏は、アカシュモクザメが低酸素海域で短時間生き延びることができるのは事実だが、長期的には生きられない可能性が高いという。「常に低酸素海域で暮らさなければならないとしたら、彼らはどうなるのでしょうか?」

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