「肉」はあまり食べず「魚」と「野菜」はしっかり食べているのに、なぜ「日本人」の「大腸がん」は多いのか

「肉」はあまり食べず「魚」と「野菜」はしっかり食べているのに、なぜ「日本人」の「大腸がん」は多いのか

日本人には、日本人のための病気予防法がある!  同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説! 

*本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

日本人の「弱点」は?

 魚は少し増やすほうが良いにしても、食物繊維は足りている。肉は食べてはいるが欧米ほどじゃない。野菜も十分摂取できている。こんな日本で、なぜ大腸がんが減らないのでしょうか? 

 大腸がんの原因が単純でないのは、一つには大腸そのものが複雑だからです。先に書いたように、部位によってがんの発生率が違い、がんの発生原因が異なる可能性もあります。たとえば結腸がんと直腸がん。日本では、以前は直腸がんが多かったのが、次第に結腸がんが増えて、今では結腸がんのほうが発症率が2~3倍高くなっています。発生原因にも違いがあって、直腸がんは塩分の取り過ぎが関係することが知られています。このことから直腸がんは、結腸がんの性質と胃がんの性質の両方を持っていると指摘する専門家もいます。

 さらに、大腸がんは発生する道筋も一つではありません。図8-6をご覧ください。道筋は大きく分けて二つあり、ここでは簡単に、「ポリープありルート」と「ポリープなしルート」と呼ぶことにしましょう。

 図の左から右に向かって、がんが進行します。上の図が、全体の8割を占めるポリープありルートで、がんの発生に先だって良性のポリープができ、これが次第にがん化します。下の図はポリープなしルート。これは正常な大腸の粘膜から直接がんが発生するものです。このどちらの道筋にも、さまざまな遺伝子の異常が関係しています。

 ポリープありルートでは、まず1個のがん抑制遺伝子に変異が起きて、良性のポリープができます。次に、がん遺伝子が作用すると、ポリープの細胞が異常な増殖を開始し、さらに、もう1個のがん抑制遺伝子が正常に働かなくなると、がんが発生すると考えられています。ここまで早くて5年、たいていは10年から、ときには20年くらいかかります。

 このとき遺伝子に目で見てわかる異常が起きていなくても、その遺伝子のオン、オフが変わる現象がありました。そう、エピジェネティクスですね。下のポリープなしルートを含めて、ほとんどの大腸がんにおいて、多数のがん遺伝子とがん抑制遺伝子にエピジェネティクス変化が起きていることが観察されています。

「悪いエピジェネティクス」

 とくに日本人に「悪いエピジェネティクス」を起こすと考えられているのが飲酒です。大規模なコホート研究から、日本酒に換算してアルコールを1日2合以上飲む日本人男性は、まったく飲まない人とくらべて大腸がんに2倍なりやすいことがわかりました。アルコール飲料に含まれる純粋なアルコールの量をもとに換算すると、第2章で書いたように、日本酒1合は、ビールなら中びん1本、焼酎なら0・6合、ワイン4分の1本、缶チューハイ1・5缶に相当します。

 そして、2005年までにおこなわれた5件の調査を総合的に分析したところ、男性も女性も、1日に飲む量が増えるにつれて大腸がんの発症率が上がり、男性は最大で3倍高くなることも明らかになりました。この傾向は、結腸がんでも直腸がんでも認められます。

 さらに、この研究結果を欧米でおこなわれた調査と比較すると、飲酒による影響は、欧米人より日本人のほうが深刻なことが確認されました。日本人を含む東アジア人の約半数が、肝臓でのアルコールの分解にかかわる遺伝子に生まれつき変異があるからです。こういう人は、変異がない人とくらべて、アルコールを16分の1しか分解できないことがあります。欧米白人とアフリカ系には、この変異を持つ人はいません。

 図8-7の世界地図に、遺伝子変異を持つ人の割合を描きました。米国には、さまざまな人種が住んでいるため、アメリカ先住民についてだけ調査しています。同じ黄色人種でも東南アジア人やアメリカ先住民はアルコールに弱い人が少なく、この遺伝子変異を持つ人の大部分が東アジアに集中していることがわかります。アルコールに弱い人も、若いころから続けて飲んでいると次第に飲めるようになりますが、飲む量が同じなら、欧米人より高い確率で、食道、のど(咽頭、喉頭)、膵臓、大腸、肝臓、乳房などのがんが発生します。

 日本人のアルコール依存症患者の大腸を調べると、半数以上でポリープが見つかります。また依存症患者と健康な人では、便に含まれる細菌の種類や数が明らかに異なり、アルコール依存症でタバコも吸う人は、この傾向がさらに強まることがわかりました。大量の飲酒と、喫煙により、腸内環境が変化するようです。

 研究者らは、この原因は飲酒や喫煙によって体内に発生する活性酸素ではないかと考えています。活性酸素は動脈硬化のところで出てきました。強い酸化力でDNAの材料になる物質を破壊してしまうので、DNAを合成したり、キズついたDNAを修復したりできなくなって、がん化につながるのではないかと推測されています。

 飲酒に喫煙が重なると大腸がんの発症率が上がるのは、アルコール依存症患者だけではありません。日本人男性が日本酒に換算して1日2合以上アルコールを飲み、タバコを吸うと、飲酒も喫煙もしない人とくらべて大腸がんの発症率が3倍になります。男性は、年齢で調整した大腸がんの発症率と死亡率が、ともに女性の2倍高いことが知られており、直腸がんに限ると男女差はさらに広がります。飲酒、喫煙する人の割合が高いからでしょう。

 そのため専門家らは、日本人男性がはじめから飲酒も喫煙もしなければ、大腸がんの半数近くが予防できると試算しています。タバコの煙にはさまざまな発がん性物質が入っていて、煙に直接ふれることのない大腸の粘膜からも発がん性物質が検出されます。喫煙により、肺だけでなく、あらゆるがんの発症率が上がるのもうなずけます。

 ところが、欧米を含む海外では、喫煙が大腸がんの発症率を高めるという報告があまりありません。喫煙が大腸がんの発生と関係するのかさえ、不明なままです。もしかしたら、ここにも人種差があって、日本人の大腸は、アルコールだけでなく、タバコにも弱いのかもしれません。

 飲酒、喫煙に加えて、大腸がんを招くのが机に向かう仕事、デスクワークです。なかでも結腸がんの発症率が上がります。オーストラリアの研究者らは、デスクワークを10年間続けた人は、デスクワークについたことがない人とくらべて、大腸がんの発症率が2倍高いと述べています。

 また、日本でおこなわれた研究で、立ち仕事の人とデスクワーク中心の人を比較すると、立ち仕事の人は、大腸がんの発症率が70%以上低かったと報告しているものがあります。そして、日本人約6万5000人を対象とした大規模な調査によると、立つ、歩く、走る、重いものを持つ、激しいスポーツなど、すべてをひっくるめた身体活動が多い男性は、結腸がんの発症率が40%以上低くなりました。女性については、はっきりしたデータが得られていません。

 大腸がんは、北海道、東北、山陰という、冬に雪が積もる地方で多い傾向があり、国立がん研究センターによる2016年の全国推計値で死亡率が最も高かったのは青森県でした。これも、体をあまり動かさない生活と大腸がん発生の関連を裏づける証拠の一つと言えます。机に向かう時間が長いと結腸がんが増える原因については、肥満になりやすいこと、腸の動きが悪くなって、発がん性物質の影響を受けやすくなること、胆汁分泌の乱れ、免疫機能の低下などが考えられています。

 日本で大腸がんの発症率が上がり始めた1960年代は、会社でデスクワークにつく人が増え、乗用車が普及した時期と一致します。これらは糖尿病増加の原因でもありました。先のデータでモンゴルの発症率が低かったのは、運動量の違いによるのでしょうか。大腸がんは欧米病と言うより、現代病なのかもしれません。

 さらに連載記事<「胃がん」や「大腸がん」を追い抜き、いま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」>では、日本人の体質とがんの関係について、詳しく解説しています。

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