スティーブ・ジョブズとイーロン・マスクの「致命的な違い」は何なのか

スティーブ・ジョブズとイーロン・マスクの「致命的な違い」は何なのか

長年シリコンバレーでの取材を続けるIT記者ブラッド・ストーンは、米メディア「ブルームバーグ」にて、テック業界の動向について解説している。

2022年、たびたびその言動が注目されたイーロン・マスクとスティーブ・ジョブスの共通点を見出しながらも、両者には“致命的な違い”があるとして、ストーンはツイッターの今後を危惧している。

超“有望企業”のはずが…

2022年10月下旬、すでに紆余曲折を経たイーロン・マスクとツイッターの物語が新しい章の門出を迎えた。同月27日、米電気自動車(EV)大手テスラ社のCEOを務めるマスクは、シンク(流し台)を抱えてツイッターのサンフランシスコ本社を訪れ、同社に一石を投じる覚悟を比喩的に表現した。

波乱に満ちた二日間でツイッター買収を完了した彼は、同社の上層部を解雇し、自称「チーフ・ツイット(註:ツイッターのトップの意)」の座に君臨した。世界一の大富豪が、世界一の音量が出るメガホンを手に入れたのだ。

ただ、2021年12月期に約2億2100万ドル(約290億円)の最終赤字を出したツイッターは傷物の資産でもある。しかも、平均日間利用者数(DAU)は2億5000万人を突破したことがなく、インドネシアの人口に満たない。10年前には、10億人を突破すると社内で予想されていたにもかかわらずだ。

マスクとジョブズの共通点とは?

マスクとツイッターの絡み合った物語は、いろいろな意味でテック史に前例がない。だが私は、もう一人の「アイコン」がいたことを思い出す──自身が共同創業したアップル社から1985年に追放され、90年代半ばに復帰したスティーブ・ジョブズだ。

現在のツイッターと同様、1990年代のアップルは社会にとって経済的な意味よりもはるかに大きな文化的、政治的な意味を持っていた。

当時、アップルは競合のマイクロソフト社にやり込められ、PC市場に占めるシェアはわずか4.4%だった。ジョブズはよく、1997年に倒産寸前だったアップルをマイクロソフトが救った話をした。自社OS「ウィンドウズ」の独占禁止法問題に直面していたマイクロソフトが、競合他社を支援することで当局の審査を免れようと、アップルに1億5000万ドル(約200億円)を投資したのだ。

マスクと同様、ジョブズはカリスマ的リーダーであり、自分の会社は世界にとって重要であるという救世主的な考えの持ち主だった。1997年の米誌「タイム」のインタビューで、ジョブズは次のように語っている。

「結局、アップルとは何なのか。アップルとは、『既成概念』にとらわれない考え方をする人たちのことであり、PCを使って世界を変える手助けをしたい、ただ仕事をこなすだけでなく、変化をもたらすモノを作る手助けをしたいと考える人たちのことだ」

世間の注目を求めた二人

一方でマスクは、戦々恐々とする広告主をこう言って落ち着かせようとした。

「私がツイッターを買収した理由は、暴力に訴えることなく、さまざまな信条について皆が議論できるデジタルの広場を持つことが、文明の未来にとって重要だからだ」

現在のマスクも当時のジョブズも、必要以上の責任を喜んで引き受ける「マルチタスカー(複数の仕事を同時進行できる人)」として悪名高い。いうまでもないが、マスクはテスラと宇宙開発企業のスペースX社も所有している。

ジョブズは、所有するソフトウェア会社ネクストを経営不振でアップルに売却することになったが、アニメ映画制作会社のピクサーが頭角を現し、その第一作『トイ・ストーリー』が大ヒットしたことで波に乗った。

そして、双方ともせっかちで高圧的な上司だった。ジョブズが97年にアップルに復帰したとき、幹部たちは、ツイッターのパラグ・アグラワル元CEOらと同じような経験をした。つまり、退職を促されたのだ。

ジョブズはマスクと同じく、否定的な報道には激怒しつつも、メディアの注目を浴びることを切望していたようだ。いずれも、父親としては完ぺきではないなど相通じる部分は多い。

最大の違いは「市場のフェーズ」

あれこれ詮索しても仕方がない。もちろん状況は大きく異なる。ジョブズのアップル復帰は、放蕩者(ほうとうもの)の創業者が勝手知ったる会社の舵をふたたび握るようなものだった。

ネクストはマッキントッシュの新しいOS基盤を築き、ジョブズの非の打ちどころのないセンスとハードウェアに関する経験が、アイマック、アイパッド、アイフォーンといったヒット製品を次々と生み出した。これらの製品は歴史的な転換をもたらし、最終的にアップルは世界最大の時価総額を誇る企業に上り詰めた。

ツイッターは、ジャック・ドーシーがCEOに返り咲いた2015年に、創業者の復帰をすでに経験している。マスクはもっとも人気のある偏執的なユーザーとしてしかツイッターを知らない。

ジョブズが復帰したとき、アップルは肥大化して身動きがとりにくく、最大のライバルに大負けしていたが、債務は比較的少なかった。ツイッターはマスクによる買収に伴い、130億ドル(約1兆7000億円)の債務と年間10億ドル(約1300億円)近い利払い負担を抱え込んでいる。

しかし、決定的な違いはこれだ。

ジョブズがアップルに復帰したのは、PC時代の真っただ中で、モバイル革命が目前に迫っていた時期だった。彼はアップルの製品ラインを絞り込み、大胆なリスクを取った。マスクがツイッターを引き継いだいま、ソーシャルメディアは見たところ成長ビジネスではなくなっている。メタ(旧フェイスブック)がそのことを証明した。2022年10月下旬に発表した業績見通しはさえず、株価が4分の1も暴落したのだ。

アップルは愛されていたが…

マスクはツイッター固有の問題や、ソーシャルメディア全般が直面する問題に表面的な理解しか示していない。彼が掲げる「言論の自由」は、多くのツイッター社員が担う社会正義の使命と真っ向から衝突する運命にある。そして、ツイッターを「何でもありのアプリ『X』を作るための加速装置」として利用するというマスクの計画は、良く言っても漠然としている。

また、ペロシ米下院議長の夫が襲撃された事件を巡ってばかげた陰謀説を拡散したマスクのように、ジョブズが無意味な挑発行為に出ることも想像できない。

90年代当時、顧客やメディアまでもがアップルの成功を応援していた。米テクノロジー誌「ワイアード」が表紙で「Pray(祈れ)」と呼びかけたのは有名な話*だ。だが、今回も同じように祈ったほうがいいのかはわからない。

2022年10月末、ツイッター元幹部の一人が私にこう打ち明けた。

「完全に正直に言うと、現段階での私の理想的なシナリオは、ツイッターを完全にたたむこと。彼の手にかかると危険です」

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏