世界初、単層グラフェンにおける巨大な反磁性の観測に成功

世界初、単層グラフェンにおける巨大な反磁性の観測に成功

~グラフェンのトポロジカル物性・新機能開拓に道筋~

2021年12月14日

日本電信電話株式会社

【概要】

日本電信電話株式会社(NTT)とパリ・サクレー大学、CEA、ネール研究所、国立研究開発法人物質・材料研究機構は共同で、世界で初めて単層グラフェンにおいて巨大な反磁性効果を観測することに成功し、幾何学的位相(トポロジー)(※1)が果たす役割に関する新たな実験的な知見を得ることに成功しました。反磁性とは、外部から印加した磁場に対し逆向きの磁化が生じる現象です。グラフェンはグラファイトを1原子層まで薄くした物質であり、グラフェン中の電子の持つエネルギーと運動量との間にディラックコーンと呼ばれる三角錐が一点で接した特殊な関係(図1)があります。この接点(ディラック点)が幾何学的な特異点として振る舞い、巨大な反磁性を生じることがこれまで理論的に予言されていました。本研究では、極めて清浄なグラフェンにおいてディラック点で生じる反磁性を、巨大磁気抵抗(GMR)効果(※2)を用いた高感度な磁気センサを用いて観測することに成功しました。本成果はグラフェンにおける幾何学的位相が果たす役割の重要性を実証したものです。また本測定手法はグラフェン以外の様々な他の物質への応用が可能なことから、近年注目を集めているトポロジカル物質(※3)を始め、同様の幾何学的位相を持つ物質の新奇物性の開拓に貢献することが期待されます。

 本研究は、12月10日米国科学誌 Science にオンラインで掲載されました。

1.研究の背景

グラフェンのディラック点における巨大な反磁性は60年以上前から理論的に予言されていました。理論では、温度ゼロかつ不純物が存在しない理想的なグラフェンで、反磁性がディラック点において無限大になることが示されていました。一方、実際の実験は必ず有限温度で行われ、また素子には必ず不純物が存在することから、その実証には至っていませんでした。近年の物性物理における理論研究の進展により、物質の持つバンド構造(※4)によって作り出される幾何学的位相は、トポロジカル物質など新奇物質群においても重要な役割を果たしていることが明らかにされてきています。このため、量子物性現象での幾何学的位相が重要な役割を果たしている代表例として、グラフェンにおける反磁性の実験的観測が待ち望まれてきました。

2.研究の成果

共同研究グループは、六角窒化ホウ素によりグラフェンの両面を保護することにより、極めて清浄なグラフェン素子を作製しました。このグラフェン素子を、GMR効果を利用した磁気センサの上に配置し、反磁性応答の測定を行いました。反磁性応答が生じると、グラフェン内の電子軌道の回転による磁場が作り出されますが、この磁場のグラフェン面に平行な成分がGMR素子に用いられている強磁性体薄膜の磁化の向きを変化させます。GMR素子では、素子を構成する2層の強磁性体薄膜の磁化の相対的な向きにより抵抗が変化するため、反磁性応答を電気信号の形で観測することが可能です(図2)。実際の測定ではグラフェンに垂直方向の磁場を印加しながらGMR素子の抵抗変化を測定することで、グラフェンの反磁性応答により作り出される磁場を電気的に観測しました。測定結果から、ディラック点での極めて大きな反磁性応答が生じることを証明することに成功しました(図3)。また、この測定結果は実際の実験系を考慮した理論モデルと明瞭に一致することが分かりました。

3.技術のポイント

原子レベルで平坦な六角窒化ホウ素でグラフェンを両面保護することにより、極めて清浄なグラフェン素子を作製しました(図4)。また、反磁性応答ではグラフェンの面に対して垂直な磁場が作り出されるため、面直方向の磁場を観測するのが適切であると直感的には考えられますが、反磁性を引き起こすために印加する外部磁場に埋もれてしまい、その精密測定は困難です。GMR素子を用いた高感度磁気センサにより面直方向ではなく面内方向の磁場を測定することで、グラフェンから発生する反磁場の観測に成功しました。

4.今後の展開

グラフェンにおける反磁性応答の観測に成功したことにより、物性現象における幾何学的位相の果たす役割の重要性が実験的に証明されました。今後、トポロジカル物質を始めとした他の新奇物質群に本手法を応用することにより、新奇物性の発見・解明を加速させていきます。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏