アップル「AirTag」レビュー。便利なところ、不満なところは?
アップルは4月30日、同社にとって新しい製品カテゴリーとなる紛失防止スマートトラッカー「AirTag(エアタグ)」を発売する。AirTagがどういう製品なのか実機に触れながら紹介してみたい。
■3,800円から買えるAirTag
iPhoneにiPad、Apple Watch、AirPodsなどアップルのデバイスには、プリインストールされている「探す」アプリを使って紛失を防いだり、万一の置き引きなど盗難にあった場合に遠隔地からも探せる便利な機能がある。
そしてBluetooth対応の小さなスマートトラッカーAirTagをバッグや財布、デジタルカメラ、傘といった大切にしている持ち物に付けておくことで、この「探す」アプリを使って探索できるようになる。
AirTagは1個3,800円(税込)から購入できる。アップルのプロダクトの中ではとても安価であることも魅力的だと思う。iOS 14.5以降をインストールしたiPhone、iPod touch、またはiPadOS 14.5以降をインストールしたiPadからユーザーのApple IDに登録して使う。1件のApple IDに対して複数のAirTagが登録できることから、4個セットのパッケージも12,800円(税込)で販売される。
■AirTagは「探す」アプリで探す
AirTagを装着したアイテムが近くに見当たらない時は、iPhoneなどで「探す」アプリを立ち上げて「持ち物を探す」を開くと、マップ上にAirTagのロケーションが表れる。
AirTagを付けたアイテムが、例えば自宅などBluetooth圏内で行方不明になっている場合には「探す」アプリを開き、「サウンドを再生」をタップするとAirTagから聞こえてくるビープ音を頼りに場所を特定できる。AirTagには本体の白いドーム型の樹脂製カバーを振動させて音を鳴らすアクチュエーターユニットが内蔵されているのだ。
AirTagにはアップルが独自に設計した超広帯域無線通信のためのU1チップも内蔵されている。ユーザーが所有するスマホが同じくU1チップを搭載するiPhone 12シリーズ、またはiPhone 11シリーズである場合には「正確な場所を見つける」機能により、AirTagの現在位置がより正確にトラッキングできる。
「探す」アプリの「持ち物を探す」タブから探索したいアイテムを選び、「探す」をタップする。U1チップによる超広帯域無線(UWB)通信は約10mの範囲内で誤差の少ない位置検出ができるとされている。
「正確な場所を見つける」機能を立ち上げると、iPhoneのディスプレイにはカメラやARKit、加速度センサー、ジャイロスコープにより読み込んだデバイスまでの距離情報などが表示される。通常はグレーで表示される画面は、iPhoneを紛失したデバイスの方に向けると緑色に変わる。デバイスのある場所にたどり着くとiPhoneが小刻みに振動して知らせてくれる。
なお、「正確な場所を見つける」機能を含むAirTagのユーザーインターフェースはiOS標準のアクセシビリティ機能にも対応している。例えばVoiceOver機能を使うと、視覚に障がいのあるユーザーのため音声を使ってAirTagの場所をナビゲーションする。
■セットアップはiPhoneで簡単
AirTagは電源に広く普及するコイン型電池「CR2032」を採用している。1個の電池で約1年間は交換せずに動き続けるという。
購入したばかりのAirTagにはバッテリーを絶縁するためのフィルムが貼られている。これをはがすとピロピロっとかわいいビープ音が鳴ってAirTagに通電する。そのままiPhoneに近づけるとAirPodsシリーズのようにセットアップメニューがポップアップする。
複数のAirTagを区別しながら使い分けられるように1台ずつ名前を付けておこう。ハンドバッグやカメラなどプリセットのほかに、ユーザーが任意に決めた名前も登録できる。
AirTagの本体はIP67等級の防塵・防水対応だ。アウトドアスポーツ用のバックパックや傘など雨に濡れるアイテムに装着して使うこともできるし、日常的な使い方の範疇で簡単に破損しないよう十分な耐久性能も持たせている。
しかしながら、AirTagは家の外に “おでかけ” もするペットの見守り用途に使うアイテムとしては推奨されていない。また後ほど詳しく説明するが、ユーザーのApple IDにひもづいているiPhoneと距離が離れている状態でAirTagが移動すると、デバイスが正しい使い方をされていないとみなされてビープ音が鳴る。
■本気で紛失したらどうやって「探す」?
「探す」アプリを開くとマップ上にAirTagの位置情報のほかバッテリー残量が表示される。画面右上の「i」アイコンをタップすると、地図の表示を平面図、航空写真または両方のミックスから選べる。マップ情報はOpenStreetMapとTomTomから提供を受けたものだ。
「悪い事」のために使えない
AirTagを装着した大切なアイテムを身の回りで探してはみたものの、いよいよ見当たらない時には、「探す」アプリのアイテムページを開いて「紛失モード」を有効にして、見つけてくれた誰かから連絡がもらえるように電話番号を登録しておこう。
AirTagは他のアップルのデバイスと同様に、アイテムの持ち主から遠く離れたBluetooth圏外にある場合でも、世界中にあるアップルのデバイスどうしが安全なBluetooth信号により互いに通信を交わしながらつながる広大な「探す」ネットワークの網に検知された時に、位置情報を伝えてくれる。
「探す」アプリの設定から「検出時に通知」をオンにすると、紛失したアイテムが近くにある場合、または誰かが近づいた時に位置情報とともに通知が届く。
ユーザーのAirTagには位置情報とその履歴は記録されない。また「探す」ネットワークとの通信はEnd to Endで暗号化されている。結果、AirTagのユーザーだけが「探す」アプリのマップから探し物の現在地がわかるようになっており、探す手伝いをしたデバイスの情報はアップルを含む誰にも知られることがないようプライバシーは厳重に保護される。
■AirTagが付いた落とし物らしきものを見つけた時の対処方法
もし誰かが紛失したと思われるアイテムにAirTagが装着されていた場合は、NFC機能を内蔵するiPhone、またはAndroidスマホをかざすと、ブラウザに持ち主が紛失モードを有効にする時に登録した電話番号が表示される。
もちろんこちらに電話をかけて、見つけたことを直接伝えてあげることが親切だと思うが、電話をかけることに抵抗感があるという方もいるだろう。紛失モードに切り換える際、電話番号以外にメールアドレスも登録できれば、海外旅行の際に紛失、あるいは盗まれたものが返ってくる可能性も高くなりそうな気がする。
「落とし物にAirTagが付いていたら、NFC搭載スマホをかざすと連絡先が調べられる」ということを、アップルが自社のデバイスに関心のない人にもウェブサイトや、コマーシャルなど媒体を通じて広く知らせることも大切だと思う。「探す」ネットワークのことを把握してサポートしてくれる仲間はなるべく多い方が良いからだ。
■AirTagは「悪い事」のために使えない
AirTagは、ユーザー自身が大切な持ち物の紛失に備えて使うためのスマートトラッカーだ。ところが悪意を持つユーザーが他者の行動を追跡・監視したり、不正な用途に使おうとすることもあり得なくはない。
AirTagは不要な追跡に使われないように設計されている。iPhoneなどiOSデバイスの側にもまた、ユーザーのApple IDにひも付けられていないAirTagを検知できる機能がある。例えば知らぬ間に服のポケットやバッグの中にAirTagを入れられて、行動を監視されていたということが発生しないように、自分のものではないAirTagを身に着けて一定時間移動するとユーザーのiPhoneに通知が届く。もしユーザーがiOSデバイスを持っていない場合は、AirTagが音を鳴らして注意を喚起する。
不審なAirTagにNFC機能を搭載するスマホをかざすと、ブラウザが立ち上がってデバイス固有のシリアル番号と、即座にAirTagを無効にするための対処方法として「電池の外し方」のガイダンスが画面に表示される。不審なAirTagが自分に付けられていることを知った瞬間は気が動転して本体ごと捨ててしまうかもしれない。後に警察等に届け出る際に犯人を探すための貴重な資料にもなるので、いったん落ち着いてシリアル番号が表示されている画面をキャプチャしたり、メモを取ってから近くの交番に持ち込んで相談しよう。
このように登録されているユーザーの側を離れてAirTagが動き回った場合にビープ音が鳴ってしまうことからも、ペットなど動物の現在位置を把握したり、離れて暮らす高齢の家族を見守るための用途にはAirTagが不向きということになる。家族を見守る用途であればApple Watchのファミリー共有機能を使うか、またはiPhoneなどスマホを使って連絡を取り合う手段がベターだ。
■AirTagに感じた不満点
AirTagは「シンプル・イズ・ザ・ベスト」をコンセプトとする製品なので、これ以上の機能追加は本来望むべきではないかもしれない。わかったうえで、あえてひとつリクエストしたいことは、せっかく音が鳴らせるデバイスなのだからビープ音を複数のパターンから選べるようにしてほしい。
「探す」アプリからユーザーが自身で「サウンドを再生」を選択すると、現在はかわいらしいビープ音が数回鳴って止む仕様になっている。例えばAirTagを付けたハンドバッグをひったくられてしまった場合、もっと大音量でけたたましい音のブザーを素速く鳴らせればもしものとき役に立ちそうだ。
■今後は「探す」対応のアクセサリーも増える
アップルは今年の春、Made for iPhone(MFi)プログラムの一環として『「探す」ネットワーク対応アクセサリプログラム(The Find My Network Accessory Program)』を立ち上げる。「探す」ネットワークに対応するサードパーティのデバイスやアクセサリーを増やすためだ。アップルが定める厳しいプライバシー保護の基準を満たす製品であれば、外部パートナーのメーカーはカテゴリーを問わず、「探す」アプリによるトラッキングが可能な製品を作って販売できるようになる。対応する製品はパッケージ等に「Works with Apple Find Myバッジ」を付けることもできる。
既にサードパーティの製品ではChipoloのスマートトラッカー「Chipolo ONE Spot」や、VanMoofの電動自転車「S3」、Belkinのワイヤレスイヤホン「SOUNDFORM Freedom True Wireless Earbuds」が「探す」ネットワークのエコシステムに対応する機能をビルトインした製品の発売を予告している。
世界にはiPhoneをはじめとするアップルのデバイスを使う多くのユーザーがいる。また特に日本にはiPhoneユーザーの人口比率が多いと言われているだけに、密度の濃い「探す」ネットワークによって、AirTagを装着した大切な持ち物が見つかりやすいかもしれない。
そもそもアップルの「探す」アプリは便利なのに、自分はモノを紛失する心配はないと高をくくって、アプリの実力を引き出せていない人も多くいるだろう。3,800円から購入できるAirTagが、アップルのデバイスを使うユーザーに「探す」ネットワークの価値を再認識させる役目も担うことになりそうだ。