「ダークモード」は、本当に“目に優しい”のか? 5つの観点から科学的に検証した結果

「ダークモード」は、本当に“目に優しい”のか? 5つの観点から科学的に検証した結果

標準の白い背景を黒に置き換える「ダークモード」は、健康意識が高いネット利用者たちにとってデファクトスタンダードになった。ダークモードは、ブラインドを下ろしたりサングラスをかけたりするのと似たような感覚で、ドラマ『MR.ROBOT/ミスター・ロボット』のような反体制的な雰囲気に浸ることもできる。実のところブラックを基調としたこの画面は、夜遅くまでコーディングに没頭する開発者が必ず選ぶモードだ。

だが、ダークモードは開発者以外でも利用できる。グーグルの「Android」とアップルの「macOS Mojave」のほか、「Microsoft Outlook」「Safari」「Reddit」「YouTube」「Gmail」などでも利用できる(ダークモードを提供しているウェブサイトのリストはこちら)。

Twitterは2019年はじめ、濃いネイヴィーのダークモードでは暗さが足りないという不満の声に応え、「ブラック」と呼ばれる真っ黒なダークモードを導入している。

ダークモードが人気の理由

ダークモードが人気を集める大きな要因は、その美しさにある。「ナイトモードのTwitterは、普通の表示と比べて1,000パーセント、クールだ」という、あるTwitterユーザーの感想は、ダークモードに対するネットユーザーの代表的なリアクションだろう。

Spotifyが暗い背景色を標準モードにしたのは、さまざまなデザインの背景をユーザーにテストしてもらったところ、このダークな美しさを好む人が圧倒的に多かったからだ。

Spotifyの製品開発ディレクターであるミッシェル・カディールは、『Fast Company』のインタヴューで、「とてもカラフルでアーティスティックな音楽やカヴァーアートの美しさを際立たせるには、このような(ダークモードの)環境が適しているとわたしたちは確信しています」と語っている。

だが、ダークモードの利用が広まるにつれて、一般に言われるダークモードの効果に疑問を投げかける声が続々と出始めている。例えば、集中力が高まるとか、目が疲れにくいとか、バッテリーの寿命が延びるといった効果だ。

はたして、平均的なコンピューターユーザーがこのダークな世界に浸ることで、何か得することがあるのだろうか。ダークモードについてよく言われるいくつかの主張を取り上げながら、どのくらい説得力があるのかを吟味してみよう。

画面を見続けると目が疲れる

ほんの数十年の間に、地球上のありとあらゆる場所にディスプレイが存在するようになった。家庭にも、オフィスにも、そしてわたしたちの汗ばんだ手のひらのなかにもだ。

いたるところでインターネットが使えるようになった結果、さまざまな懸念が生まれているが、目の健康が取り沙汰されることは少ない。しかしそれは、目に悪影響がないことを意味するわけではない。

『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』に18年に掲載された研究論文によれば、コンピューターを使っている人たちの間では、「コンピューターヴィジョン症候群」とも呼ばれるデジタル眼精疲労(DES)の有病率が50パーセントを超えている可能性があるという。

その原因は、画面を見つめていると、まばたきの回数がいつもより少なくなることかもしれない。通常のまたばきは1分間に15回だが、スマートフォンやコンピューターを見つめている間は3.6回にまで減少し、ドライアイを誘発してしまうのだ。米国オプトメトリック協会によれば、DESに関連した症状として、頭痛や目のかすみがあるという。

検証1)ダークモードは目の疲れを軽減するのか?

この問題を解決すると謳うものが、特効薬としてもてはやされるのも不思議はない。そのひとつがダークモードだ。だが、はたしてこれは事実に基づく話なのだろうか。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで人間とコンピューターの相互作用を研究する教授のアンナ・コックスは、この説に異議を唱える。「黒の背景に白の文字という組み合わせが目の疲れを軽減するという確かな証拠を、わたしはまだ見たことがありません」とコックスは指摘する。

ただし、画面を見る行為がもたらす負担の程度は、周囲の状況によって大きく変わる可能性がある。周囲が薄暗く、ディスプレイが主な光源となっている場所では、明るく輝くディスプレイによって引き起こされる目の疲れは大きくなる。

同じくユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで人間とコンピューターの相互作用を研究している教授のアニーシャ・シンは、「暗い部屋ではダークモードのような暗めの色のほうが不快感が少なく、アプリを長時間使いやすくなります」と言う。その反対に、明るい環境では、画面が暗いほうが目に大きな負担がかかる可能性がある。

目の疲れや乾燥が非常に気になる場合は、人工涙液やノングレア・ディスプレイを買ったほうが効果的かもしれない。デヴァイス自体については、コントラストを調整したり、画面の明るさを周囲の環境に合わせて調整することが勧められている。

近くにある光源もチェックするといい。天井照明の光が画面に反射していると、不快感が増すことがある。また、ディスプレイの位置は目の高さに合わせよう。目より高い位置にディスプレイがあると、目の乾燥がひどくなる可能性がある。

最善の解決策は、コンピューターの利用を控えることかもしれない。総合病院のメイヨー・クリニックは、ディスプレイを見る時間を制限することを強く勧めている。「20-20-20ルール」に従うのもいいだろう。これは、20分おきに、20フィート(約6m)離れた場所を、20秒間眺めるというものだ。

検証2)ダークモードは文字を読みやすくする?

コックスによれば、読みやすさにとって重要なのは、配色よりも文字と背景のコントラストを強くすることだという。通常モードでもダークモードでも、コントラストが同じなら、おそらく読みやすさに違いはない。しかしわたしたちは、白い背景に黒い文字という組み合わせに慣れているため、通常モードのほうが、やや読みやすく感じるかもしれないとコックスは話す。

心理学者のコシーマ・ピーペンブロックとスーザン・マイヤーが13年に発表した研究論文によれば、白い背景に黒い文字のほうが、正確さもパフォーマンスも高かったという。実験参加者に視力検査と校正作業を行ってもらったところ、白い背景に黒い文字のほうが読む速度が速く、見つけた誤字脱字の数も多かったのだ。

研究者たちはこの原因を、明るい背景では文字を追うときに瞳孔が小さくなり、視力が上がることにあると考えた。その逆に、暗い背景では瞳孔が大きくなり、文字に集中することが難しくなる。マイヤーらは当初、高齢者では正反対の結果になると予測していたが、そうではないことがわかったという。

ただここには、ダークモードにするとアプリの利用時間が長くなる理由のひとつが隠されているかもしれない。文字が読みにくくなるため、文字を読むのに、より多くの労力が必要になるからだ。

こうした効果は、乱視の人にはさらによく当てはまると、シンは指摘する。乱視の原因は角膜のゆがみで、全人口の半分近くが乱視の影響を受けているとされる。

ただし、羞明(強い光を受けた際に、不快感や眼の痛みなどを生じる症状)や円錐角膜の人、あるいは視力が著しく低下している人など、目が光に対して過敏に反応してしまう場合は、白い背景に黒い字のほうがいいかもしれない。

検証3)ダークモードはバッテリー寿命を延ばすか?

ダークモードのメリットと言われていることのうち、より根拠がありそうなのが、バッテリー消費に関するものだ。ただし、スマートフォンのディスプレイの種類によって話は異なる。

有機EL(OLED)ディスプレイでは、ダークモードにすればバッテリーの節約につながる。有機ELではピクセルが個別に発光する仕組みのため、画面を黒にすれば発光がオフになるからだ。一方、バックライトを発光させる液晶ディスプレイでは、画面を黒にしても発光は止まらないため、このようなメリットはない。

ごく最近まで、ほとんどのスマートフォンは液晶を採用していた。「iPhone X」は、有機ELを搭載したアップル初のスマートフォンである。また、サムスンの「Galaxy S10」やファーウェイの「Mate P30」も有機ELを採用している。これらのスマートフォンなら、ダークモードにすることでバッテリーを確実に節約できる。

iFixitの記事によれば、有機ELディスプレイを採用したAndroidのスマートフォンをダークモードにして「Google マップ」のスクリーンショットを表示したところ、消費電力は通常モードより63パーセント少なかったという。

検証4)ダークモードにすると集中力が高まり、気が散りにくくなる?

ダークモードは、わたしたちの集中力を高めてくれると言われてきた。アップルがmacOS Mojaveのダークモードを発表したときの謳い文句は、「どんなときでも、目に優しく、気が散ることのない作業環境」というものだった。だが、ダークモードが集中力を高めてくれると信じる根拠はあるのだろうか。

シンは、「どちらかといえば、明るい背景のほうが集中力とパフォーマンスによいことがわかっています」と言う。コックスも、ダークモードが集中力を高めるという説に異議を唱え、それが事実であることを示す「いかなるメカニズム」も思いつかないと話している。

シンやコックスがそう説明する理由は、人の気を散らす原因が2種類あることに関係している。ひとつは、電話が鳴り響いたり、誰かに大声で名前を呼ばれたりするといった外的要因。もうひとつは、5年前の恥ずかしい記憶が突然脳に蘇ってくるといった内的要因だ。「残念ながら、外的要因による心の乱れは、色を変えたところでなくなりません。内的要因による心の乱れも、暗いものを見たからといって抑えられません」とコックスは言う。

一方で、ダークモードが集中力を高めるうえで役立つと考えたくなる理由もある。それは画面のちらつきだ。リフレッシュレートが原因で起こるコンピューター画面のちらつきは、集中力に影響することがわかっている。

注意力の変化や視覚認識の神経メカニズムを研究するユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの心理学教授ニリ・ラヴィーは、研究施設でちらつきに関する実験を行ってきた経験から、「たとえ人がちらつきを自覚していなくても、脳はその環境に存在するちらつきに反応することがわかっています」と言う。

それなら背景を真っ黒にすれば、ちらつきの原因が除去され、こうした潜在意識の乱れの要因が取り除かれるのではないだろうか。

しかし、注意散漫に関する実験を続けているラヴィーは、「わたしたちの研究では、いつもダークモードを使用しています」と言う。参加者に同じ画面を1時間以上見続けてもらうという実験で、画面の背景を白くして黒の刺激を提示するのではなく、黒の背景に白の刺激を提示しているというのだ。

「黒い背景のほうが、心に乱れを生じさせやすいことがわかったからです。白い背景はそれ自体で干渉を引き起こし、ほかの刺激からの干渉を減らしうることがわかりました」と、ラヴィーは説明する。

Twitterは、ダークモードを有効にしているユーザーのほうが、アプリに費やす時間が長くなることを発見した。だが、これは集中力が増すためではなく、ベッドに入ったまま画面をスクロールするには、ダークモードのほうが不快感が少ないからかもしれない。

ダークモードは集中力を高め、わたしたちの気持ちを落ち着かせると謳っているアプリはたくさんある。しかし、このモードを搭載する本当の動機は、単にユーザーの利用時間を長くできるからなのかもしれない。

検証5)就寝前はダークモードのほうがいい?

ディスプレイを見る人にとって最大の敵がブルーライトであることは、おそらくご存知のことだろう。このカラースペクトルは、睡眠を誘発する脳内の仕組みに影響を与えて脳を覚醒させ、疲労回復に必要な夜の睡眠を妨害する。

18年には、黄斑変性を引き起こす可能性があるとしてブルーライトをさらに悪者扱いする研究結果が発表され、大きな話題になった。だがその後、米国眼科学会はこの研究結果を否定した。研究手法の信頼性が低く、目の細胞も採取されていなかったというのが理由だ。

シンは、「液晶ディスプレイの光はメラトニンに影響を与えるほど多くの青白い光を生成し、睡眠リズムや概日リズムに影響を及ぼします」と説明する。「液晶のバックライトを使わない本当のダークモードであれば、状況は改善される可能性があります。しかし、ダークモードはまだ登場したばかりであり、さらに多くの研究が必要です」

本当のダークモードは、画面から放出されるブルーライトのレヴェルを減らしてくれる。ただし、目に悪いこうした光を、よりメラトニンに優しいオレンジ色に変えるナイトモードに切り替えたり、色温度を調整したりといった方法でも、ある程度はブルーライトを減らすことができる。

とはいえ、最も効果の高い方法は、眠りにつく1~2時間前には画面を見るのを完全にやめることだろう。

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