「人と恐竜は共存できる」科学的で確かな理由
恐竜を復活できる? すると何が起きる? 科学者に聞いてみた
このたび公開される映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』で、人はある道徳的なジレンマに直面する。孤島に閉じ込められた恐竜が、火山噴火によって絶滅の危機にさらされたとき、科学の力で恐竜を救うのか? それとも、再び絶滅させるのか?
その前に、そもそも恐竜をよみがえらせることなど本当に可能なのだろうか? もし可能だとしたら、私たちは古代の動物と地球を共有することになる。すると、いったい何が起きるのだろう? 科学者たちに話を聞いてみた。
6600万年前のDNAを採取できるか
「ジュラシック・パーク」シリーズでは、科学者たちが琥珀に閉じ込められた蚊から、恐竜のDNAを採取する。現実の世界でも、昆虫などの無脊椎動物が琥珀の中から大量に発見されている。その一例が、白亜紀に生きていた吸血性のダニだ。
だが、1993年にシリーズ1作目が公開されたときから比べると、科学は進歩し、現在はフィクションの一歩先を行っている。2016年後半、恐竜の尾が琥珀の中から発見されたのだ。しかも、極めて保存状態が良く、羽毛や皮膚も残されていた。
ただし、たとえ琥珀の中から化石化した恐竜の一部が発見されたり、有機物の痕跡がわかる恐竜の化石がほかに見つかったりしても、無傷のDNAが出てくる可能性は残念ながらほとんどない。
小惑星が地球に衝突し、大量絶滅が起きたのは6600万年前。DNAはこれほど長く残らないと今のところ考えられている。
「化石記録に残っている最古のDNAは約100万年前のものです。そのため、ジュラシック・パークのようにDNAから恐竜を再生するのは不可能です」と、大英自然史博物館の古生物学者スージー・メイドメント氏は話す。
しかしながら、メイドメント氏は次のように補足した。「タンパク質などの軟組織に関しては、もっと古い証拠がどんどん見つかっています。そのため、恐竜の化石からDNAを採取するのは完全に不可能だと言い切れないと思います」
『The Rise and Fall of the Dinosaurs(恐竜の栄枯盛衰)』の著者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーのスティーブ・ブルサット氏によれば、ジュラシック・パークが公開されてからの25年間、世界中の古生物学者が恐竜のDNAを探し続けているという。
「もし最初に発見したら、将来が約束されます。そのため、皆が必死に探していますが、クローンの作成に必要な完全なゲノム、完全に近いゲノムはもちろん、DNAの断片すら見つかっていません」
「DNAは分解が早いため、たとえ100年しかたっていなくても、無意味な断片に分かれてしまいます」と英ブリストル大学の古生物学者マイク・ベントン氏は話す。「これらの断片をつなぎ合わせるには、とんでもない技術を必要とします。つまり、誰かが恐竜のDNAを発見しないかぎり、私たちは何もできません」
飛躍的に進歩する遺伝子技術
米国では、いくつかのチームが、古代のDNAの解読と遺伝子編集技術を使って、失われた種を復活させようと懸命に取り組んでいる。ベントン氏によれば、20年前に絶滅した動物をよみがえらせることでさえ、現時点では不可能な挑戦だという。
ただし、CRISPRと呼ばれる手法を用いた遺伝子編集技術はものすごいスピードで進歩している。ジュラシック・パークの科学者チームが行ったように、さまざまな動物の遺伝子を継ぎ合わせることはすでに実現している。
ジュラシック・パークの1作目では、琥珀の中から発見された恐竜のDNAの欠損部をカエルのDNAで補完した。現実世界でも、米ハーバード大学の遺伝学者ジョージ・チャーチ氏率いるチームが、マンモス復活プロジェクトの一環として、古代のマンモスの遺伝子を現代のアジアゾウのゲノムに挿入しようと試みている。
「恐竜の復活を不可能とは言いたくありません」と、カナダ、トロントのロイヤル・オンタリオ博物館に所属する、よろい竜専門家のビクトリア・アーバー氏は述べている。「多くの科学分野で、絶えず驚くようなブレイクスルーが起きています。恐竜復活のような、今は想像できないことも25年後、50年後、100年後には可能になっているかもしれません」
もし絶滅種のゲノムを操作し、恐竜を復活させるというハードルを越えられたら、『ジュラシック・ワールド/炎の王国』に登場する恐竜「インドラプトル」のように、面白い特徴をもつデザイナー種をつくることすら比較的たやすいだろう。
人と共存できるのか?
それでは、現代に完璧な恐竜をつくり出したと仮定した場合、恐竜は人のそばで生き延び、繁栄できるのだろうか?
私たち現代人とライオン、オオカミ、クマなどの大型肉食動物の関係を考えると、人と捕食者がうまくいかないのはほぼ明白だ。しかも、ほとんどの場合、人が繁栄し、動物が衰退する。
アーバー氏は、装甲に覆われたアンキロサウルスが自然の中を歩き回る世界に暮らしてみたいと述べている。しかし、大型草食動物でさえ、人と共存するのは難しいという。私たち人間が作物の栽培や住宅、居住区に莫大なスペースを使っているためだ。
「私たちは大型動物に領土を侵害されることを嫌います」とアーバー氏は話す。「ティラノサウルスのように巨大な捕食者との共存は想像できません。実際、北米の大部分では、オオカミを受け入れられず、ほぼ一掃してまいました。オオカミの70倍以上もある捕食者とどうすれば共存できるのでしょう?」
しかも、恐竜は現代と似ても似つかない生態系に暮らしていたと、メイドメント氏は指摘する。白亜紀にはまだ草も草原もなく、大型哺乳類も誕生していなかった。
「恐竜は何を食べ、彼らの消化器系はどう対処するのでしょうか? 彼らは哺乳類の捕食者にどう対応するのでしょう? 私たちは彼らをどこで飼うのでしょう? そして、彼らはどのような権利を与えられるのでしょうか? 恐竜のクローン作成は科学的に困難ですが、倫理的な問題も同じくらい難しいと思います」
「私たちの世界では、恐竜は宇宙人のようなものです」とブルサット氏も述べている。「彼らは数億~数千万年前に進化した生物です。地球は今と全く異なる惑星でした。大陸の配置から大気、植物まで、すべて異なっていました。おそらく彼らは今の地球に全く対処できないでしょう」
私たちと恐竜はずっと共存してきた
ただし、ブルサット氏は同時に、シンプルだが確かな事実を思い出すべきだと述べている。鳥という形で、私たちと恐竜がすでに共存していることだ。現代の鳥類は原始的な陸生の鳥の子孫で、6600万年前に全世界の森林が破壊されたとき、鳥たちは生き延びた。
「実際、シチメンチョウやダチョウ、ワシは外見も行動も、ベロキラプトルのような絶滅恐竜とあまり変わりません。つまり、間違いなく、人と恐竜は共存できます」とブルサット氏は断言する。「私たちは恐竜をペットとして飼い、調理して食べ、自然の中や動物園で鑑賞しています。スポーツチームのマスコットにもなっています」
アーバー氏は絶滅種を復活させるための研究を支持しながらも、鳥をはじめ、あくまで現存する種の保護を最優先すべきだと述べている。
「博物館で恐竜の化石を見ると、私たちは感嘆します。絶滅はもう終わりにしたい、今地球を共有している種を守りたいと考えるきっかけになるでしょう」
世界初、恐竜のしっぽが琥珀の中に見つかる
琥珀の中から9900万年前の恐竜の尾が発見されたとする論文が、12月8日に科学誌『カレント・バイオロジー(Current Biology)』に掲載された。尾には、骨や軟部組織だけでなく、羽毛まで残っていたというから驚異的だ。
恐竜が生息していた時代の羽毛が琥珀の中から発見されることはこれまでにもあり、羽毛の痕跡のある恐竜の化石も発見されたこともあるが、保存状態の良い羽毛が恐竜とはっきり関連づけられたのは今回が初めてだ。この発見により、恐竜の羽毛の進化とその構造についての理解が深まることが期待される。(参考記事:「恐竜から鳥へ 羽はどうやってできたのか?」)
中国地質大学の古生物学者リダ・シン氏が率いるこの研究には、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスペディション・カウンシルも支援を行っている。
琥珀の中に保存されていた9900万年前の恐竜の尾の一部。羽毛で覆われているのがわかる。琥珀には白亜紀のアリと植物の断片も閉じ込められていた。
尾が語ること
白亜紀中期のものとされるこの琥珀には、空を飛ぶための鳥の羽毛と恐竜の羽毛が枝分かれして間もない時期の、恐竜の羽毛が閉じ込められている。
それは繊細な羽毛に覆われた動物の尾だ。長さは37mmで、羽毛の色は背側が茶色で、腹側は白っぽい。研究者たちは、化石の尾の構造から、コエルロサウルス類の幼い個体のものだろうと推測している。コエルロサウルス類は、ティラノサウルスから現生の鳥につながる系統まで含む獣脚類の恐竜だ。
マイクロCTスキャンにより、恐竜の尾を覆う繊細な羽毛の存在が明らかになった。
羽毛恐竜は飛べたのか?
尾椎の関節があることから、この尾の持ち主が鳥であった可能性は否定される。現生の鳥や、これに近い白亜紀の鳥は、尾椎骨が癒合して一つの骨(尾端骨)になっており、尾羽をまとめて動かせることを特徴としているからだ。
カナダのロイヤル・サスカチュワン博物館の無脊椎動物古生物部門のキュレーターで、今回の論文の共著者であるライアン・マッケラー氏は、「七面鳥の下ごしらえをしたことのある人なら誰でも尾端骨を見たことがあるはずです」と言う。
今回の恐竜の羽毛は中心の羽軸がしっかりしておらず、尾の両側に並んで生えているように見える。まばらで柔軟な構造を持つ羽毛は、現生の鳥の風切羽よりも飾り羽に似ている(風切羽は羽軸がはっきりしていて、羽軸から羽枝が生え、さらに細かい小羽枝があり、その先端のフック状の構造が全体の形を保持している)。
この研究チームは、今年6月にも、琥珀の中に保存されていた白亜紀の鳥の羽毛を発見したと報告しているが、こちらの羽毛は現生の鳥の風切羽と非常によく似ていた。
恐竜の羽毛はまばらで柔軟な構造を持ち、現生の鳥の飾り羽に似ている。
研究者たちは、恐竜の尾の全体が今回の標本のような羽毛で覆われていたなら、この恐竜は飛べなかっただろうと結論づけている。このタイプの羽毛は合図や温度調節の機能を担っていたのではないかと、マッケラー氏は推測する。
尾の羽毛があまり発達していないことから、シン氏は、白亜紀に生息していたこの尾の持ち主は、獣脚類の進化の系統樹の根に近い方、「おそらく原始的なマニラプトル類」だろうと考えている。マニラプトル類はコエルロサウルス類の一系統で、オヴィラプトルやテリジノサウルスといった恐竜を含む。
宝飾品から標本へ
この琥珀標本の正式な名称は「DIP-V-15103」だが、研究者の間では恐竜学者フィリップ・カリー氏の妻の名にちなんで「エヴァ」と呼ばれている。エヴァは、ミャンマー北部のカチン州にあるフーコン渓谷の鉱山で発掘された。この地域の琥珀は、白亜紀の多種多様な動植物を含んでいることで知られる。
エヴァは、シン氏の研究チームが2015年にカチン州の州都ミッチナーの有名な琥珀市場で購入した琥珀の1つだ。購入したのは12個ほどだったが、ほかの2つの琥珀には、彼らが今年初めに発表した恐竜時代の鳥の翼が入っていた。
ミャンマーの琥珀の大部分は宝飾品や彫刻に利用されるため、エヴァも成形されてしまっていた。けれどもマッケラー氏は、加工には良い点もあったと言う。尾の「すばらしい断面」から露出した表面の化学的性質を分析することができたからだ。
分析の結果、かつて恐竜の軟部組織にあった血液中のヘモグロビンが分解してできた第一鉄(2価の鉄)が存在していることが明らかになった。「鉄が残存しているなら、今後の分析には大きな期待が持てます。皮膚の色などに関する化学的情報が得られるかもしれません」とマッケラー氏。(参考記事:「恐竜に濃淡のカムフラージュ模様、初めて見つかる」)
シン氏によると、ミャンマー政府とフーコン渓谷を支配するカチン独立軍の間では数十年にわたって紛争が続いていたが、この紛争は「終わりに近づいている」という。紛争が終結すれば、科学者が琥珀鉱山に調査に入り、素晴らしい発見が相次ぐことになるだろう。
「完全な恐竜も見つかるかもしれません」と彼は自信をのぞかせる。
