アップルはなぜPowerPCを捨てたのか?切り替えの要因はIntelの優れたロードマップ、元IBM幹部、4年後の告白

アップルはなぜPowerPCを捨てたのか--元IBM幹部、4年後の告白

 AppleがPowerPCアーキテクチャから手を引き、Intelのx86系に切り替えていくことを発表してから、この6月で4年がたった。当時AppleとIBMの間の討議にも加わっていた人物が、なぜこのような事態が起こったかについて見解を語った。

 Appleは2005年6月、重大な転機となる発表を行った。それは、IBMおよびMotorolaとの長きにわたる関係に終止符を打つものだった。このときAppleの最高経営責任者(CEO)Steve Jobs氏は、切り替えの要因はIntelの優れたロードマップにあるとしていた。

 Jobs氏は当時の声明で次のように語っている。「将来を見越し、Intelのプロセッサロードマップが圧倒的に強力であると判断した。PowerPCへの移行から10年、Intelの技術がこれからの10年も最高のパーソナルコンピュータを作ってゆくことを助けてくれると考えている」

 よく挙げられる理由の1つは、IBMとかつてMotorolaの半導体部門だったFreescale Semiconductorが供給するプロセッサでは、Appleが必要とする1W当たりの性能を実現できないとAppleが考えたというものだ。言い換えると、Appleは、IBMとMotorolaがノートブック向けに競争力のあるプロセッサを供給する能力があるかどうか不安を感じていた(追記:よく言われるもう1つの理由は、Appleは単にWindowsを稼働できるようにしたかったというものだ)。

 当時IBMに勤めAppleとの話し合いにも参加した元幹部が、先ごろ行われた技術カンファレンスの夕食の席で、自身の見解を語ってくれた。これはあくまでも個人の見解であり、必ずしも事実とは限らないということを強調しておきたい。筆者はこの人物の名前や肩書を公表するつもりはない。

 この人物はAppleが語った公の理由を認めながらも、さらなる理由があったと言う。これは驚くべきことではない。この人物によると、要は、Appleはより安価な価格設定を望んでいたのだという。

 この元IBM幹部の話では、AppleはIBM製シリコンに割増金を支払っており、ジレンマに陥っていたという。IBMはIntelほど規模の経済性がなかったため、請求額を高くする必要があった。しかしAppleは、PowerPCアーキテクチャが証明したように、本質的に優れたRISC設計からもっと得るものがあったと考えていたとしても、より多くの金額を支払いたくはなかった。

 Jobs氏が2003年に語った内容を紹介しよう。同氏は声明の中で次のように述べていた。「PowerPC G5はこれまでのルールを塗り替える。この64ビットのレーシングカーは、世界最速のデスクトップコンピュータであるわれわれの新しいPower Mac G5の心臓部に搭載されている。IBMは世界で最も進んだプロセッサデザインと製造のノウハウを提供しており、これは今後長く続く、実り多い関係のほんの始まりにすぎない」(AppleがIntelに切り替えた後、Jobs氏がIntelについて語ったことと非常に似ている)。

 元IBM幹部によれば、Appleは2003年にはIBMの技術を絶賛していたにもかかわらず、2005年までにはコストの面で競争力がないと考えるようになったという。

 この人物は、IBMにとって、Appleとのビジネスは、資金ばかり食いつぶして利益が出ないものだったと語る。その理由は、チップセット、コンパイラ、その他のサポート技術に多額の投資を必要とするにもかかわらず、PCプロセッサ市場全体でわずかなシェアしか得られないからだとしている。このため、結局利益を上げることは不可能だった。

 なぜプロセッサ市場でわずかなシェアしか獲得できなかったのだろうか。Appleは(IBMとMotorolaの)ダブルソーシングを強く要求していた。このため、初めからIBMには、市場の約半分を獲得できる可能性しか残されていなかった。この元IBM幹部は、これが非常に大きな経済的負担だったと言う。言い換えれば、Intelは単独でこの市場の最大のシェアを持つ企業だったということだ。IBMとMotorolaの2社は、それぞれに巨額の投資を行いつつ、Intelに比べてずっと小さい市場シェアを分け合わなければならなかった。そしてこの人物によれば、Appleは2社を争わせて漁夫の利を得たのだという。

 IBMは高性能なシングルコアPowerPCプロセッサを供給することに重点を置いていた、と同社の元幹部は語る(シングルプロセッサのギガヘルツの数値を徐々に上げていこうとしていたと思われる。目標は3GHzを超えることだった)。この人物によれば、IntelがAppleとの話し合いの中でデュアルコア(マルチコア)プロセッサのロードマップを見せたとき、Appleはこの戦略を考え直したという(下図で示すように、IBMもMac向けのマルチコアPowerPC設計を提供してはいたが、Intelが提案したマルチコア設計とは異なる種類のものだった)。

 興味深いことに、IBMはPowerPCのコストを、「Cell Broadband Engine」によって償却できると期待していた。Cellは現在、ソニーの「PlayStation」、数種のIBMサーバ、IBMの「Roadrunner」スーパーコンピュータで使われているPowerPCベースのチップ設計だ。IBMはAppleをCellに移行させ、そこで規模の経済性を得たいと考えていた、とこの人物は語る。

 Advanced Micro Devices(AMD)と、同社がここ数年Intelとの競争で苦戦していることを例にできるのではないだろうか。そうかもしれない。主要な半導体市場でトップになり、単独で競争力を維持するには研究開発や製造に資金をつぎ込むことが必要だ。そのための莫大な財源を持っているチップメーカーはほとんどない。その証拠に、AMDは2008年に危機を迎え、自社の製造部門を切り離すことでその危機から逃れた。

 そしてAppleは2005年にAMDではなくIntelを選び、以来Macラインへの供給をIntelのみに任せている。

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