宇宙エレベーターの仕組みと実現への課題は?山崎直子氏、富野由悠季氏らが議論

「宇宙エレベーター」の仕組みと実現への課題は?山崎直子氏、富野由悠季氏らが議論

 宇宙エレベーター(軌道エレベーター)とは、赤道上から約3万6000キロの静止衛星軌道上からケーブルを上下に延伸し、地球まで到達した下向きのケーブルに昇降機をつけ、人や物資の輸送手段にしようという仕組みだ。20世紀後半まではSFの世界で語られていた宇宙エレベーターだが、ケーブル素材の強度に著しい進展が見られ、実現への期待も少しずつ高まってきた。日本では教科書の題材としても取り上げられるなど宇宙エレベーターへの関心も高く、宇宙エレベーター協会「JAPAN SPACE ELEVATOR ASSOCIATION(JSEA)」も設立されている。宇宙飛行士の山崎直子 氏、「機動戦士ガンダム」などのアニメ監督・演出家として著名な富野由悠季 氏らが、宇宙エレベーターの宇宙エレベーターに関する思いや、将来の方向性などについて活発な議論を交わした。

●宇宙エレベーターはどのような仕組みなのか

 気象観測用衛星の「ひまわり」をはじめとする人工衛星は、赤道上空の高度約3万6000キロメートルに打ち上げられ、静止軌道を回っている。地球が1日で1回転するのと同じスピードで地球の周りを回っているので、止まっているように見え、これが「静止衛星」と呼ばれる理由である。

 宇宙エレベーターの仕組みは、この静止衛星と同様である。静止衛星から地上に向けてワイヤーやリボン状の紐(ケーブル)をたらし、これを伸ばして地上に近づけていく。

 しかし、ケーブルの重さで全体の重心が地球に近くなってきて落ちてきてしまうため、地球と反対側にもケーブルを伸ばしていく。全体の重心が上手く釣り合うように両方に伸ばし続けると、最後には地球に伸ばしたケーブルは地上に届くのだという。

●宇宙エレベーターで実現される未来とは

 宇宙エレベーターによって、どのような未来が実現されるのか。現時点では、次世代の宇宙大量輸送機関になり得る可能性があるのだという。

 大野氏は「現在の静止軌道への輸送コストは、H2Bロケットで1キログラムあたり130万円以上だ。スペースXのロケットでも50万円はかかる」と宇宙における輸送コストの高さを説明する。

 これが、もし宇宙エレベーターが実現した場合、最小サイズ(13トン)の実証用でも、1キログラムの輸送コストは11万円ほどで済むといわれている。より大型化した宇宙エレベーターを数百台ぐらい建設できれば、さらにコストを約100分の1まで下げられるかもしれない」と、未来の輸送手段として期待が持てるというのだ。

 また、宇宙エレベーターの実現によって、エネルギー問題も解決できるかもしれない。

 いま地球の人口は毎日20万人ほど増えているため、彼らが利用するエネルギーを賄っていく必要がある。大野氏は「そこで米国や日本では、宇宙空間にメガソーラーを置く『宇宙太陽光発電』によって、地上よりも20倍以上の効率で発電し、エネルギーをマイクロ波で送電しようというアイデアも出ている」と語る。

 またレアメタルなどの鉱物資源を、地球上でなくて小惑星に求める「アストロ・マイニング」の話もあり、米国では政府も法的に承認し、いくつかのプロジェクトが動いている。

「惑星には鉱山採掘に関する所有権の概念がなく、早い者勝ちの世界だ。宇宙条約で国が所有することはできないが、市民や企業ならば所有権を認められている。いずれ宇宙に資源を求める時代が訪れるだろう。そのときにロケットでなく、宇宙エレベーターが役に立つものと考えられる」(大野氏)

 宇宙エレベーターは地球のみならず、月や火星にも建設できると言われている。そうなると、重力圏から出入りする道具としての機能だけでなく、「SPACE Slingshot」として真価を発揮できるだろう。

 地球の自転とともに回転する宇宙エレベーターからモノを放てば、ハンマー投げと同じ原理で、いろいろなモノを飛ばせるようになるのだ。

 大野氏は「地上5万2000キロメートルからタイミングを計って、宇宙船や貨物船を投げれば、火星まで飛ばせる『宇宙パチンコ(宇宙ハンマー投げ)』も実現する。そうなれば、太陽系の大物流網がつくれるかもしれない。惑星間で宇宙エレベーターが建設でき、惑星間でモノを投げあって、資源の開発も可能になる。これが宇宙エレベーターの真価だと思う」と強調した。

●宇宙エレベーターは本当に実現できるのか

 宇宙エレベーター協会の「GSPECキックオフミーティングイベント」では、顧問やフェローメンバーが集まり、宇宙エレベーターに関する思いや、将来の方向性などについて活発な議論が行われた。

 モデレータは元朝日新聞の久保田裕 氏が務めた。まず各パネリストが、宇宙エレベーターに関する個人的な見解について語った。

「機動戦士ガンダム」などのアニメ監督・演出家として著名な富野由悠季 氏は、次のように宇宙エレベーターに関して持論を述べた。

「(宇宙エレベーターは)まだ夢物語的な視点もあるが、すでに人類は月まで到達し『認知革命』が始まっている。宇宙から人類が地球を振り返れば、太陽系を生活圏とすることも不可能ではないだろう。ぜひ若い人にも宇宙エレベーターの課題を真剣に考えてもらいたい。

 ロケットは乗り物としては危険なので、宇宙エレベーターの考え方も悪くはないと思う。これを起点に、今後100年をかけて、宇宙進出の意味や方法論などについて、具体的な研究や実証を行っていく必要がある」

 実際に宇宙に行った経験がある宇宙飛行士の山崎直子 氏は、自身の体験に基づいて発言した。

「私は地上400キロメートルの宇宙で実験を行ったが、せっかくなら友達や家族と一緒に行きたい。それにはスペースコロニーが必要だ。地球は『水の惑星』だが、実は日常で使える淡水は少なく、木星や土星の衛星のほうが、地球より水が多い場所もある。

 水資源を活用すれば酸素もつくれ、現地で食物を生産できる。宇宙エレベーターは輸送コストの低減が主な目的だが、まだ技術的な課題も多い。

 しかし火星に都市をつくろうと考える国もあるぐらいなので、宇宙エレベーターも実現が不可能というわけではないと思う。大きな目標をもてば、技術も追いつく」

 昨年、無重力を体験したという東海大学の佐藤実 氏は期待感を示している。

「無重力状態は楽しい。宇宙エレベーターは加速度(G)があまりかからず、普通のエレベーターに乗れる人ならば問題ない。もしも宇宙エレベーターができれば、そこに宇宙ステーションの都市が生まれ、人が暮らすようになる。いま宇宙は探検・冒険の時代だが、やがて技術者が出張して長期滞在できる開発の時代になる。宇宙エレベーターという選択肢を排除するには、まだ早計すぎると思う」(佐藤氏)

 九州大学名誉教授の八坂哲雄 氏も、宇宙エレベーター実現に期待を寄せる。

「学生に『宇宙に聞きたいか?』とたずねると、3分の2が『大金をかけても行きたい』と答える。人には冒険心が内在している。宇宙エレベーターの技術障壁はケーブルの強さだ。しかし宇宙には巨大建造物がつくれる。宇宙エレベーターはその最たるもの。高度10万キロメートルから建設すると、100トンの重量になる。1基あたり、10兆円のコストは必要だ。こういった宇宙エレベーターの知識を、多くの人に知ってもらいたい」(八坂氏)

●宇宙エレベーター実現で予想できない問題も

 一方で大野氏は、宇宙エレベーターが実現される未来における「課題の変化」にも気を配る必要があると指摘する。

「資源やエネルギーの問題は現在の問題だ。未来の人々には、違う問題がある。宇宙エレベーターが数多く建設されると、宇宙でなければできないことや、逆に地球でなければできないことが生まれ、音楽・絵画などの芸術においても、新しい文化が育まれていくのではないか」(大野氏)

 また佐藤氏は、宇宙エレベーターが実現するということはコミュニケーションの断絶が起こりかねないと警鐘を鳴らす。

「いま我々は、全世界の人々に対して瞬時にコミュニケーションが取れる稀有な時代に生きている。宇宙に人が進出すると、現在のようなコミュニケーションは難しくなるだろう。太陽系でメールをやり取りしても、数時間はかかるため、対話が成立しない。地球レベルの文化の限界で、それを超えたときにどうなるのか、想像がつかない」(佐藤氏)

 富野氏は「人類が宇宙に出る資格があるのか?」という観点から、「我々が宇宙体験を本当に身に着け、地球を振り返られるようになれば、『宇宙船地球号』を実感し、政治や経済などの社会を徹底的に見直す機運が生まれるかもしれない」と希望を述べる。

「私は宇宙エレベーターを全否定はしない。これから100年をかけて、それを基盤に実用化に向けた研究開発を進めていくべきだろう。そのうえで、政治家に惑星資源の所有権など、法的な問題も含めて再検討してほしい」(富野氏)

 さらに富野氏は「いま宇宙エレベーターは工学論のみで語られているが、環境論も必要だ。工学を支えるだけの経済論もないと絶対に成立しない。それを突破していくことが求められている」と課題を指摘した。

 山崎氏は「将来的に宇宙に人が行くことによって、いまはバラバラに見えている経済や政治や文化が、我々が生きる領域の根源に関わるような『理性的な欲求』になってくる。現在のロケットでは、このようなことは生まれないだろうが、宇宙エレベーターで大量に人が宇宙に飛び出すようになれば、初めて革命が起きてくるかもしれない」とまとめた。

 いずれにしても、将来的に宇宙エレベーターが実現できたとき、人の認知革命が起きて、新しい視野をもった「ニュータイプ」のような人類が登場する可能性も否定できないだろう。まだまだ実現には時間がかかるとされている宇宙エレベーターだが、技術進歩によって建設的な議論が行える段階まで来ているのだ。

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「宇宙エレベーター」を目指せ 実現すればコストはロケットの100分の1

 近年、日本にも「宇宙ベンチャー」が数多く登場している。一方で非宇宙系企業の宇宙ビジネス参入も近年のトレンドだ。大手ゼネコンで宇宙分野の研究開発実績のある清水建設と大林組の取り組みを紹介する。

 清水建設は1987年に宇宙開発室を設置。同年、宇宙関連の情報収集を担う子会社「CSPジャパン」も創設した。宇宙開発室の機能は90年代に入って技術研究所に移管し、これまでに月太陽発電(ルナリング)構想などを提案している。

 ルナリング構想は、月面の赤道上にリングのように太陽電池を敷き詰めて発電。この電力を地球に向けてマイクロ波やレーザー光に変換して伝送する。無限に近いクリーンエネルギーを供給する夢の発電施設だ。

 同社は4月に新設した「フロンティア開発室」に宇宙開発部を設置。技術開発にシフトしていた宇宙部門を、事業創出を図る部署に再編成した。ベンチャーを含む他社との協業も既に推進中。宇宙開発部の金山秀樹部長(56)は、ゼネコンが宇宙ビジネスに参入する利点をこう話す。

「宇宙という極限環境でのインフラ整備にチャレンジすることで、地上にフィードバックできる技術も磨かれます」

 一方、大林組は「宇宙エレベーター建設構想」に取り組む。有志社員が1年がかりで練り上げたアイデアが社内外で評価され、技術実証研究開発チームが2012年に発足した。

 同構想は地球の赤道上に発着場を設置。宇宙から総延長9.6万キロのケーブルでつなぎエレベーターを運行させる。地球上の建築物は自重によって壊れる限界点がある。しかしこの高さになると、ケーブルは地球の自転とともに周回することで強い遠心力がかかる一方、地球からは重力で引っ張られる。このため理論的には実現可能という。高高度から自転とともに回転するスピードで弾みをつけ宇宙へ放出すると、ロケットの推進力で地球の重力を振り切る必要がなくなり、100分の1のコストで人や物資を宇宙へ搬送できるようになる。

 課題はケーブル素材。有力視されるのが、カーボンナノチューブだ。幅5センチ、厚さ1.4ミリのテープ状で引っ張り強度は鉄鋼の約20倍あるが、現状は長さ数センチの生産が限度という。同チームの石川洋二幹事(63)は「当社が後押しして材料メーカーなど幅広い業界の力を結集させ、技術力をブレークスルーしたい」と意気込む。

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