10分間のきつめ運動で記憶力アップ…筑波大教授ら実証
筑波大学体育系の征矢英昭教授らの共同研究グループが、ヒトにおいて初めて、短時間の中強度運動が記憶の成立に不可欠な「類似記憶の識別能力」を高めることを実証した。10分間のややきついと感じる程度の運動で、脳の海馬に有益な効果が見られたという。
研究は、筑波大学体育系の征矢英昭教授、大学院生の諏訪部和也氏、米国カリフォルニア大学アーバイン校の Michael A.Yassa准教授らの共同グループが行ったもの。
脳の中でも学習や記憶をつかさどる海馬については、これまでも多くの動物実験が行われ、運動が有益な効果を持つことが明らかにされてきた。しかし、海馬は脳の中心部に位置する非常に小さな領域であることから、ヒトでの検証は進んでいなかったという。そのような中、今回の研究では記憶の成立に不可欠な海馬の機能「類似記憶の識別能力」を評価できる特別な記憶テストを用い、短時間の運動後にテストの成績が高まるかどうかを検証した。
実験では、健常成人21名を対象に、10分間の中強度のペダリング運動後に記憶テストを行う「運動条件」と、10分間の座位安静後に記憶テストを行う「対照条件」の2回の実験を無作為に割り当てられた順序で実施。
記憶テストは「覚える問題」と「思い出す問題」の2つのパートで構成し、覚える問題で出題した物体と「同一」「類似」「無関連」の物体を提示、参加者にどれにあたるか回答してもらった。その中から、類似物体に対する正答率に着目し類似記憶の識別能力を評価した。
結果、類似度が低~中程度の簡単な問題に対する正答率は、運動した場合としなかった場合で差は見られなかったが、類似度が高い難しい問題では運動後の方が高い正答率となり、短時間の中強度運動が類似記憶の識別能力を高めることがヒトにおいても明らかとなった。
征矢教授の研究グループが過去に行った研究では、短時間の低~中強度の運動は注意・集中、計画・判断実行に関わる前頭前野の機能を高めることも明らかになっている。短時間の運動は、認知機能に重要な海馬と前頭前野の双方に有益な効果をもたらすことが期待されることから、今後高齢者などほかの対象者でも同様の効果が得られるか、どのような条件がもっとも効果的かなど、研究成果を社会に還元する運動プログラムの開発などが期待される。
脳内の「やる気スイッチ」を発見、慶應義塾大ほか共同研究グループ
慶應義塾大学と生理学研究所は2月2日、「脳内にあるやる気スイッチを発見した」と発表した。共同研究グループが、マウスを用いた実験で意欲障害の原因となる脳内の部位を特定した。意欲障害の治療法につながる成果だという。
研究成果を発表したのは、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の田中謙二准教授、三村將教授、生理学教室の岡野栄之教授、北海道大学大学院医学研究科の渡辺雅彦教授、防衛医科大学校の太田宏之助教、大学共同利用機関法人自然科学研究機構 生理学研究所の佐野裕美助教らの共同研究グループ。
意欲障害は、いわゆる「やる気がない」という症状で、認知症や脳血管障害、脳外傷など脳の障害では、高い頻度で認められる。だが、原因やメカニズムは、脳が広範囲に障害を受けたときに起こること以外わかっていなかった。
共同研究グループでは、運動制御や報酬を計算する脳部位である大脳基底核・線条体を構成する細胞集団、ドパミン受容体2型陽性中型有棘ニューロン(D2-MSN)に注目。D2-MSNだけに神経毒を発現させて細胞死させたマウスと正常なマウスを比較して、意欲評価の実験を行った。
その結果、線条体腹外側という脳領域の限られた細胞集団が障害を受けるだけで意欲が障害されること、この細胞集団が健康でないと意欲を維持できないことを発見した。やる気を生むためには、ほかにもいくつかの部位が必要であると想像されているが、今回の研究では初めて、やる気を維持する脳部位・細胞種を明確に示せたという。
今後は、意欲障害モデル動物を用いて、これまで治療法がまったくわかっていなかった脳損傷後の意欲障害における治療法や改善する薬剤を探索することが可能になるという。
研究成果は、2月1日に総合科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。
