「三角形」への挑戦。
お掃除ロボットの開発着手から30年の時を越え、
2015年3月、パナソニックは家庭用ロボット掃除機をこの世に送り出す。
「固定観念に縛られなかったメンバーだからこそ、実現できた」という
三角形の「ルーロ」、その開発の背景を紹介する。
第一章「30年越しの解」へ
滋賀県・琵琶湖の東南方向に位置する東近江市。
長閑な風景の中を走る近江鉄道の八日市駅を降り、さらに車で15分ほど
走ったところに、パナソニックの八日市工場はある。
40年以上にわたって、日本国内・海外、家庭用・業務用の掃除機を
つくり続けてきた場所だ。
また、生ごみ処理機や空気清浄機など、
数々の新カテゴリー商品を開発してきた場所でもある。
「八日市工場は開発部署と製造部署が同じ敷地内にそろい、皆で一体となって商品を生み出す風土があります」とクリーナー開発チームの吉川。
この一枚岩の結束力が、新カテゴリーの商品をスピーディに開発する原動力になっている、という。
「ルーロ」の場合、プロジェクト発足は2013年10月。8ヶ月後の2014年5月には大まかな仕様が決まり、そこから1年足らずで発売へとこぎつけた。
「無茶苦茶、短かったですよ」と苦笑いする渡部。三洋電機在籍時代から掃除機を手がけているシステム設計者だ。
「何が課題か見つけるところからのスタート」(渡部)だった中、基板、回路、制御ソフト、デザイン…すべてのメンバーが同時に走りながら、連携をとって進めていった。工場のメンバーにも、開発段階からめいいっぱい参画してもらったという。
「センサーの検証のために金型品を先に作ってもらい、チェックした上で金型品の変更を依頼したり(笑)。こんな動きができたのも、八日市工場だからこそ」と吉川。
「ロボット掃除機、サイクロン、スティック…と掃除機市場は新しいカテゴリーも続々登場し、多様化しています。そこで『なんとかしなくては』という危機感を抱いているのは皆同じ」。
強い思いを、温度差なく全員が共有していた。だからこそ、皆が同じ方向に向かって同時に走ることができた、と振り返る。
工場のスローガン、「やることはやる やるときにはやる やりきるまでやる」を、まさに地でいくプロジェクトだった。
30年前からの課題
パナソニックのロボット掃除機開発のスタートは1985年にまで遡る。
1986年、八角形形状でサイドブラシを搭載したお掃除ロボットのパテントを取得。1993年には羽田空港に納める業務用を開発。その特許と技術を生かした「世界初の家庭用お掃除ロボット」を発表したのは2002年のことだ。
それから13年の月日が流れ、「ルーロ」誕生へ。
なぜ、今なのか。それは、「お客様が納得できる掃除性能を実現できる技術環境が、十二分に整った」からだ。
家庭用掃除機の場合、家の構造や周囲環境、床面、ゴミの量は千差万別なので、きめ細やかに対応できる性能が必要となる。ただ単に「自動で動いて掃除する」だけでは用をなさないのだ、少なくとも、掃除機メーカーであるパナソニックが出すロボット掃除機としては。
お客様が納得できるレベルの掃除性能を、お客様の代わりに叶える。
それが、パナソニックが目指すロボット掃除機であり、非常に高いハードルだった。中でも難関は「部屋の隅」だった。
パナソニックが調査したところ、ロボット掃除機使用者のほぼ半数が「隅の掃除に不満を抱いている」ことが判明した。
「隅が課題だ、ということは1986年時点で認識されていたようです。」と、吉川。
円形も検討した。滑らかに走行するためには、限りなく円に近づけたい。しかし円では部屋の隅にぴたりと届かない。だから、本体を八角形にして、サイドブラシで隅を攻める、という構想だ。
一方2002年の試作機は、キャニスター掃除機の本体を、そのままロボット化したような形状だ。サイドブラシはなく、四角形の底面に大きなノズルを組み込んでいる。部屋を端から端まで雑巾がけするように走行し、隅・壁際へのアプローチをはかる。
30年前から認識されていた「隅」問題。半数以上の人が不満と言うことは、いまだ抜本的な解決策がこの世に生まれていない、ということだ。
今回誕生した「ルーロ」は、円形でも八角形でも四角形でもない三角形。はたして、過去30年の蓄積はどのように受け継がれているのか。
「今回の開発には、昔のことを知っているメンバーはいません」と渡部。「だから大変だったし、良かった面もある。 “ロボット掃除機の素人”だったから、固定観念に捉われることなく、三角形に挑戦できたのだと思います」。
それはつまり、“ロボット掃除機の玄人だったら、三角形には挑戦しなかった”ことの裏返しだ。一体いつ、今の形状に辿り着いたのだろう。
長年、一般掃除機の床ノズルの要素開発を担ってきた吉川にとっても、「隅の掃除」は大きな課題だった。
もっとノズルを、隅にぴたりと寄せたい。そして思い至る。
「ルーローの三角形が使えるのでは?」
「ルーローの三角形」とは、正三角形の各辺を膨らませた定幅図形。回転した時に、円のように径が変わらず、頂点があるので角や隅に届きやすい形状だ。
一般のキャニスタータイプの掃除機のノズルにルーローの三角形を使えば、より掃除性能が上がるのではないか。何度も試作を作ったが、目立った効果は得られなかった。一般の掃除機のノズルではある程度の吸引力があれば、隅のごみは吸い取れるからだ。
そして2013年10月、ロボット掃除機開発プロジェクトが発足した時に「隅のごみをどう掃除するか」が、再び課題となった。
吉川は提唱した。
「ルーローの三角形を活かした形はどうでしょう。どこもまだ、出していない形です」。
こうして、一人の技術者が長年温めていたアイディアが、具現化に向けて走り出した。
この時点ではメンバーは、どれほどの難問が待ち構えているのかをはっきりとは知らなかった。
「やることはやる やるときにはやる やりきるまでやる」。
ただ、それだけだった。
第二章「この世になかったもの」へ
「三角形」と聞いたメンバーは皆、頂点を前にして進むと思っていた。
「隅をしっかり掃除する形だ、と聞いていたのでなおさら。
矢印みたいに前を向いて、隅っこを狙うのかと」と松本は当時を振り返る。
彼女も、三洋電機在籍時代から掃除機の設計に携わってきた技術者だ。
ルーロでは機構設計 *(ルーロの躯体設計)を担当した。
三角形は、直観的に「隅に届きそう」と感じさせる形状だ。
では実際には、どういう動きをさせるのが良いのか。頂点を先頭にして進ませたなら、隅を狙った後の方向転換はどうするのか。壁際の掃除はどうするのか。
「三角形は走らせるのが難しい」と、渡部は懸念していた。
三洋電機在籍時代にロボット掃除機量産化の検証に携わったことがあり、円形状のもの以外は、走行が難しいことを実感していたからだ。
「円なら回転してもあたらないし、方向転換もさせやすい。ルーローの三角形は、回転してもあたらないのだけど、実際に動かすのは難しい。隅掃除のための三角形だから、隅ぎりぎりまで走行させたい。方向転換するときは少しバックさせる必要がある。その動かし方の加減が課題でしたね」。
壁の横を走行するときは、本体サイドの近距離用の赤外線センサーで距離を測り、超音波センサーで前方の壁を検知する。
横の壁と前の壁、両方があると判断したら「ここが隅だ」と認識して、ぎりぎりまで進んで首振りをして隅を掃除する。そして少しバックして、方向転換する。
「ルーロは、上手に壁や隅を見つけないといけないんです」と渡部。
「“こういうときは隅じゃないよ”とか、“こういうときはやめるよ”とか、“隅でゴミが見つかったから、往復して掃除するよ”とか…。自分で掃除機を動かすならカンタンなことですが、これをロボットにさせるためには、非常に複雑な制御が必要なのです」。
「センサーには得手不得手があります。大まかにいえば、超音波センサーは前面を幅広く見えるが、音を吸収する素材が苦手。赤外線センサーは近づいた距離を正確に見えるが、光なので、透過するものが苦手。ルーロは2つのセンサーを組み合わせることで、壁・隅を認識しています」。
そう語るのは、2008年入社の重藤。渡部と共に、ルーロの回路設計*を担当した。紙パック掃除機のハウスダスト発見センサーは担当してきたが、ロボット掃除機に必要な数々のセンサーの開発は、当然ながら全く初めての経験だった。
上手に壁や隅を見つけるためには、センサーの種類、精度はもちろん、本体のどこに配置するかがカギを握る。
センサー感度が高すぎると、余計なものまで認識してしまう。
三角形のロボット掃除機は世の中にないので、すでにある商品のセンサーの配置は参考にはならない。センサーの種類と数を絞った上で、どのように配置するのが効果的なのか。とくに、横の壁を検知するセンサーは、どこに配置すればよいのか。
重藤は日夜、検証を続け、ひとつの結論に達する。
皆の前で提言した。
「三角形の2つの頂点に、測距センサーをつけたいのです」。
ルーロの走行パターンは、「ラウンド&ランダム走行」だ。
最初に壁や障害物を感知して、ゴミがたまりやすい部屋の隅や壁際をぐるりと回ってラウンド走行し、掃除する。その後は部屋の内部に向かってランダムに走行する。
「色々検証した結果、ラウンド走行時は、前方向のふたつの頂点で壁を検知するのがいちばん安定していたのです」と重藤。
その提案の結果、苦労したのが機構設計の松本だ。
「頂点付近には、サイドブラシを回すモーターがあり、近くにノズルもあり狭いスペースに収めることが難しいのです。毎日のように、回路チームと議論しました」。最終的には「力技で」(松本)押し込んだ。
松本の「力技」は、随所で発揮された。
実はルーロは、開発途中で一度、高さを変更している。
本体高さがあると、家具の下には入り込みにくくなる。
それでよいのか?掃除機メーカーがつくる以上、「掃除もできるロボット」ではなく、「人間の代わりに掃除をする」ロボットにする必要があるのではないか?
機能を掃除性能と走行性能に絞り込んで磨き上げることになった。高さは約1センチメートル削る。センサーにも影響が出るので、センサーの検証も一からやり直し。
開発中、もっとも時間がかかったのはこの行程でしたと松本。
けれども「機構が入りきらないから、デザインを見直してほしい」とは、けして口にしなかった。
「設計者って、『中の機構が成り立たないならデザインを変えてもらおう』と言うときがあるんですよ、たまに。でも、ルーロはまるっこい可愛らしいイメージを崩したくなくて。デザイン優先でいくために、機構を小型化して中に押し込んで調整しました」。
実は2000年ごろには、「ゾウさんの形」のロボット掃除機を研究していたこともあるという松本。
「部屋の中で、こどもが上に乗って遊べたらいいなぁ、と思って」。
松本は、掃除機を単なる掃除道具とは思っていない。
それぞれの家庭で愛され、暮らしの中に溶け込むように存在するものであってほしい、と考えているのだろう。
そして、お客様に愛着を持っていただくためには、掃除機として満足いく性能を備えておくのは当然だ、とも。
そんな彼女が、技術者として挑んだ課題も大きなものだった。
『小型モーターで吸引力の少ないロボット掃除機に、
キャ二スター並みの掃除性能を叶えよ』。
第三章「果てなき追究」へ
掃除性能において、キャニスター掃除機とロボット掃除機の
大きな違いのひとつが、吸引力の差だ。
「キャニスターとロボットでは、そもそも搭載しているファンや
モーターのレベルが違います。
ある程度の吸引力があれば、ごみはそこそこ取れますが、
そのためには大きなモーターを搭載しないといけない。
いかに少ない風量で、ごみを効率よくとるかが大変でした」(松本)。
キャニスター掃除機と同等のノズル性能
上司である吉川から、松本が最初に言い渡された課題は「MC-BR30Gと同等の吸い込み性能にしなさい」ということだった。
「吸い込みパワーを表す数字で言うと、何十分の一のパワーしかないファンで、この何十倍のモーターと同じだけとれるようにしなさい、と。2ヶ月くらいずっと取り組んでいましたね」
吉川も、けして“無茶ぶり”をしたわけではない。2013年に発売した充電式コードレスのMC-BR30Gは、ノズル性能を上げることで、コードレス式の吸引力でも十二分な掃除性能を発揮できる商品だった。
また、渡部が2013年に開発したハイブリッドサイクロンによって、リチウム電池でもパワーと持続力を発揮できることが証明されていた。大容量のリチウムイオン電池と、独自の高性能ノズル搭載で、満足いく掃除性能が実現できるのでは、と考えたのだった。
結果、ルーロに搭載されたのは、フローリング掃除に効果を発揮するマイナスイオンプレート。床面との接点が多くゴミをしっかりかき出すY字ブラシ。 ブラシ全体はV字にして、本体前方の最長辺に配置。本体前面の両側につけたサイドブラシでかきだしたごみを、効率よく吸い込み口に集めて吸い取れるように工夫した。
6条のブラシで構成されたルーロのノズル。
1本がY字のふき、2本がフローリング、
3本がじゅうたん用。
多彩な日本の床材に対応できるようにした。
「ブラシの床面へのあたり具合は、何度も調整しました。あたらないとごみがとれないし、あたりが強すぎるとモーターに負荷がかかり、電池の寿命が短くなる。バランスをとるのが難しかったですね」と松本。
自走するロボット掃除機にとって、大きなノズルは負荷がかかる。走行中にじゅうたんなどに乗り上げやすくもなるので、前へ走らせることだけを考えれば、ノズルはコンパクトな方が、都合が良い。
しかもルーロは、この大きなノズルを、進行方向と逆回転させながら前へ走行するのだ。この動きで、じゅうたんの奥のごみをかき出し、上へ浮いてきたごみをすっと吸い取る。
「この大きなノズルを搭載できたのは、渡部さんがプロジェクト前年に開発されたハイパワーリチウム電池があったからこそ。他社には真似のできないことです」と吉川が微笑む。
キャニスター掃除機とロボット掃除機の掃除性能の違いとして「ハウスダスト発見センサー」も挙げられる。 紙パック式で「ハウスダスト発見センサー」を担当していた重藤だが、ロボット掃除機は少々勝手が違った。
「ゴミが通過するスピードが、全然違うんですよ。一般の掃除機は、早い速度で通過するのを、赤外線で検知しているのですが、ロボット掃除機はゆっくり。感度の調整が必要でした」(重藤)。
センサーの位置を決めるのも一苦労だった。
風の流れが淀む位置につけると、正しく検知できない。必然的に風路形状がストレートになっている位置につけることになるが、小さいボディにあらゆる機構を詰め込んでいるわけだから、なかなかぴったりの位置が決まらない。
回路設計の重藤と機構設計の松本で、何度も何度も、議論を重ねた。
ハウスダスト発見センサーには、もうひとつ課題があった。
「普通の掃除機だったら、お客様が自分で動かして、ランプを見て、『キレイになった』と納得してから、次の場所へ移りますよね。ロボット掃除機の場合、誰が見ても納得する動き方のパターンをどうするのか」と渡部。
ゴミの量が多い場合は、一度下がって二往復する等、動かし方のパターンをきめ細かく設定し、ごみを効率よくとりつつも、「誰が見ても『おおっ』と驚くような動きを目指しました」(渡部)。
お客様目線で厳しく
八日市工場の同じ敷地内に、一軒の家がある。その名は生活研究ハウス。八日市工場で生まれた掃除機はすべてここで、実際の家屋での使用に耐えうるものか否か、厳しい審査が行われる。
「ルーロ」の審査を担当したのは、消費生活アドバイザーの資格をもつ製品審査チーム主事 勝永房江。消費者視点での改善点を提示するため、何日もビデオを回し続けてルーロの動作性を検証した。
「ルーロちゃんは、掃除性能がとてもよかったです。ただ、じゅうたんを滑らかに乗り越えないことが何回かありました。サイドブラシが本体より前に出ているから、ブラシが本体より先にじゅうたんに当たるんです」。
勝永の口からは、自然に「ルーロちゃん」という言葉がもれた。
商品を抱く手にも、優しさを感じる。
じゅうたんへの乗り越えを滑らかにするために、発売直前にサイドブラシの形状を変更。お客様に満足いただく掃除性能を実現するために、最後まであきらめない、それが八日市スタイルだ。
量産移行前にも、責任者中心に、自宅で延べ200時間を超えるモニター検証を行なった。
隅掃除やハウスダスト発見センサー連動動作など、その優れたごみ取れ性能に絶対の自信を抱くところまで、商品が作り上げられた。
「ロボット掃除機は、△が正解だった」。
モニター全員の実感だった。
ようやく生まれた、未だかつてなかった三角形のロボット掃除機「ルーロ」。
開発者たちの感慨もひとしおだ。
「何十年も前から、多くの関係者が開発に携わってきたわけですから、必ず商品化しなければならない、と思っていました。ロボットはいくら掃除しても疲れないから、自分たちの代わりにどんどん使ってほしい」(渡部)。
「本当に難産だったから(笑)、可愛さもひとしお。みんなのおうちで愛されて、可愛がってもらいたいです」(松本)。
「私たちのような、若い共働き・子育て世代に、ぜひ使ってほしい。夢は世界中でルーロが使われることですね」(重藤)。
2015年3月。パナソニックは「ルーロ」をこの世に送り出す。
いったいどれほど多くのお客さまのお役に立てるだろうか?
お客さまの毎日をラクに快適に、楽しいものにできるだろうか?
お客さまに使っていただき、声を聞き、そしてまた次の開発へ。
彼らの挑戦は、終わることはない。
ロボット掃除機ルーロ(RULO)~部屋の隅篇~【パナソニック公式】
ロボット掃除機ルーロ(RULO)~吸い込みの強さ篇~【パナソニック公式】
the sound of RULO【パナソニック公式】
