トランプ大統領「AI」の名称使用を禁止の方針 代わりに「SI=超知能」の使用を求める大統領令に署名 「AI使う者はすべて敵」
アメリカのトランプ大統領は「AI=人工知能」の名称の使用を禁止する方針を明らかにしました。
トランプ大統領は27日、「間もなく、全ての関連文書やあらゆる場面において、AI=人工知能という用語を公式に禁止することになる」とSNSに投稿しました。
トランプ氏はこれまでに「人工という単語がフェイクのように聞こえる」などとAIの名称を批判。政府の文書や発表などで代わりとしてSI=超知能の名称使用を命じる大統領令に署名したほか、「AIという用語を使う者はすべて敵だとみなしている」などと主張しています。
この日のSNSへの投稿でも、アメリカの主要紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」について、「いつになったらAIではなく、SIという名称を使い始めるのか」などと批判しています。
「AI」の呼称禁止を表明したトランプ大統領--「超知能:SI」への言い換えが隠すもの
20世紀初頭の辞書をひもとくと、「computer」という語は算術計算を仕事とする人、つまり計算する人間を指していた。20世紀半ばには、その意味は電子計算機へと変わった。この意味の変化をもたらしたのは、上からの命令ではなく、労働と技術の変化だった。
いまや私たちは、大統領が英語を取り仕切る新世界に足を踏み入れたようだ。そこでは、言葉は実際の使われ方によって定まるのではなく、権力を行使する手段として上から押し付けられる。Donald Trump米大統領は米国時間10月27日、「人工知能(AI)」を「非常に悪く、不正確な名称」と呼び、「関連するすべての文書やその他あらゆるもの」で、この用語を「正式に」禁止すると述べた。代わりに使いたい名称は、引き続き「超知能(super intelligence)」だ。
この禁止の予告は、Trump政権が9月下旬に出した大統領令から、さらに踏み込むものだ。この大統領令は連邦政府機関に対し、すべての公式な発信や政策で「超知能」を使うよう義務付けている。雇用喪失や人類滅亡を招く恐れのあるこの技術に対し、嫌悪感や不信感が高まる中、ホワイトハウスは、この名称の方がAIの「将来性、潜在力、急速に進歩する能力」を的確に表すと説明した。
「超知能」という言葉には、AIを好意的に見せる狙いがある。言語学者で「Reader Bot: What Happens When AI Reads and Why It Matters」の著者でもあるNaomi Susan Baron氏は、こうした定義のし直しを「現実を見ない楽観論であり、危険でもある」と評した。
さらに10月初めには、赤狩りの手口を連想させる別の不穏な発言もあった。Trump大統領はSNS「Truth Social」で、自身の望む呼称を使わない人は誰でもホワイトハウスの「敵」とみなすと述べた。これは、報道機関を含む組織が「人工知能」という言葉を使い続ければ、不利益を被りかねないという含みを持つ。この言葉は至る所で使われている。
ジャーナリストや研究者、現実を正確に伝えることを重視する人は誰であれ、AIを一律に「超知能」と呼び換えるべきではない。それは政治的な運動に屈し、幅広い分野で人間を上回るシステムを指す概念を当てはめることで、この技術の限界やリスクを見えにくくする行為だからだ。
言語学者たちは、言葉は社会での使われ方と現実の環境が相まって変化し、用語の変化には、正確な表現を求める人々の共通の要求が反映されると指摘する。
「言語は、それを使う共同体のものだ」と、計算言語学の教授で、AI倫理の分野でも著名なEmily Bender氏は述べた。
報道の世界でも、編集基準の土台となるのは定着した用法であり、権力に統制された言葉ではない。記者や編集者は、一貫性と正確さ、分かりやすさを確保するため、AP通信が発行する「AP Stylebook」や各媒体独自の用字用語ガイドを参照する。
AP Stylebookは2023年に人工知能を扱う独立した章を初めて設け、2026年にはこれを大幅に拡充、更新した。APの指針は、単なる語句の選択や細かな表記の問題にとどまらず、倫理的な考え方に基づいている。AIの技術的限界を批判的に検証し、企業の誇大宣伝にとらわれず、人間が作ったAIツールの仕組みや、そこから利益を得るのは誰か、社会にどのような影響を与えるのかに目を向けるよう、記者に求めている。
正確さを欠く言葉の使い方
AIの技術分野では、1語でつづる「superintelligence(超知能)」は、人間の認知能力をはるかに上回る仮説上のマシンを指す。ただし、その定義については専門家の間でもまだ合意がない。業界が描く発展段階では、自動化されたシステムが幅広い分野で人間の能力に肩を並べ、真に推論を行えるようになるという理論上の段階である汎用人工知能(AGI)の、その先に位置する。
これらの用語を混同すると議論が曖昧になり、AI技術が実際よりもはるかに強力であるかのように聞こえてしまう。もっとも、AIという用語自体も定義が曖昧で、その言い方だけで誤解を招く面がある。
Bender氏と共著者のAlex Hanna氏は、2025年の著書「The AI Con: How to Fight Big Tech’s Hype and Create the Future We Want」で、さまざまな技術を「AI」という包括的な名称でひとくくりにすると、それぞれの違いが消え去り、人間に似た能力があるかのように過大に売り込まれると指摘した。「人工知能」という用語で呼ばれているのは、パターン照合を行うソフトウェアシステムやロボット技術、特定用途の自動化ツール、統計モデルや生成モデルなど、性質の異なるさまざまな技術だ。
こうした曖昧な言葉で技術をくくることには、狙いがある。企業がありふれた技術を革新的なものとして売り込めるだけでなく、説明責任を回避することもできる。「政策文書で定義をきちんと固めておかなければ、その政策は実効性を持ち得ない」と、Bender氏は筆者に語った。
もう一方の「intelligence(知能)」という言葉にも問題がある。歴史的に人種科学や優生学に根差しており、根本的な欠陥を抱えた言葉だとBender氏は指摘する。同氏と分散型AI研究所(Distributed AI Research Institute)の同僚たちは、シリコンバレーと優生学的な思想の深いつながりを指摘している。機械が人間より賢いかどうかで序列をつけることは、人間の知能や価値を単一の直線的な尺度で測れるという、優生学の前提を受け入れることになる。
政治的なビジョンを売り込む
「超知能」は、言葉によって忠誠心を試す役割を果たしている。メキシコ湾を「アメリカ湾」に、オンタリオ湖を「アメリカ湖」に改称するよう命じた過去の大統領令とよく似ている。これらのケースでは、巨大IT企業のGoogleとAppleはすんなりと従った。最近では、Trump大統領は大西洋を「アメリカ洋」または「トランプ洋」に改称する案も持ち出し、Googleの最高経営責任者(CEO)であるSundar Pichai氏に思いとどまるよう説得されたと述べている。
今回、「AI」という用語を全面的に禁止するとTrump大統領が宣言したことで、忠誠心を試す意図はいっそう露骨になった。大手テクノロジー企業の幹部の中には、すでに政権の「超知能」というブランディングに足並みをそろえていた人もいる。NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏はデータセンターを「超知能工場」と呼び、Elon Musk氏はSpaceXAIをSpaceXSIに改称すると述べた。
シリコンバレーとホワイトハウスの協調は、双方に利益をもたらす。テクノロジー業界の幹部たちは政治の中枢への接点を得て、連邦政府との契約を確保する。そして、AIを社会を一変させる技術であり、企業の自主規制に委ねるのが最善だと描くことで、投資家の意欲をかき立てる。
「超知能」という用語は、誤りの多い技術に後光を差すようなものだ。エリートたちがAIをめぐって築き上げた幻想的な物語は、結局のところ、金銭的な利益のために利用されてきた。AI関連株やインフラ投資は、この技術が際限なく拡大し、進歩し続けるという期待と密接に結び付いている。「超知能」と呼ばれるもののために、半導体や電力、サーバー群に数兆ドルを注ぎ込むと言えば、巨額の賭けではなく、堅実な投資に聞こえる。
この呼称変更には、世間の目をそらす効果もある。資源を食い荒らすデータセンターや、いつ崩れるとも知れない経済バブル、高まる安全性への懸念から、人々の関心をそらすのだ。
それだけではない。米国では約2800万人が医療保険を利用できない状況にある一方、AnthropicのDario Amodei氏によれば、AIは「5~10年以内に人間の病気の大半を治せるようになる」という。米国の成人の半数超は小学6年生の水準を下回る読解力しか持たないが、OpenAIのSam Altman氏によれば、AIは「教育にとって素晴らしいものになる」。消費者物価は2020年以降、約29%上昇しているが、Trump大統領によれば、AIは地域社会に「成功と豊かさをもたらす」という。
明確な思想的要素もあり、米国ではこうしたことにある種の伝統があるとBaron氏は筆者に語った。第1次世界大戦中には、反ドイツのプロパガンダによって、ハンバーガーが「リバティーサンドイッチ(自由のサンドイッチ)」と呼ばれた。2003年には、イラク戦争に反対したフランスへの抗議として、米議会の食堂がフレンチフライを「フリーダムフライ(自由のフライ)」に改称した。
Trump大統領が国防総省を「戦争省」と呼び換えることで好戦的な姿勢を打ち出そうとしたように、「超知能」という呼称には、並外れた技術力と支配力、急速に進展する最先端技術の時代というイメージを打ち出す狙いがある。米CNET編集部は、議会が変更を決めるまでは法律上の名称を使うよう明示したAP Stylebookの指針に従い、引き続き「国防総省」を使っている。
言葉が持つ重み
言葉は、社会での使われ方と技術的な正確さに基づいて変化する。大統領が使うよう命じたから変わるのではない。
Bender氏は筆者に、言葉の変更を求める動きがあれば、言語学者はいつも、その目的を問うことを重視すると語った。それはプロパガンダやナショナリズムに資するものなのか。それとも、例えば特定の名前や代名詞の使い方のように、人々の理解を深めたり、相手への敬意を示したりするのに本当に役立つものなのか、ということだ。
「私たちが関心を持っているのは、人々がどのように話しているかであり、どう話すべきかを指図することではない」(Bender氏)
ジャーナリストである私たちの仕事は、権力者の好む用語を繰り返すことではなく、読者が現実を理解できるよう手助けすることだ。政治家やテクノロジー企業の経営者がどう考えようと、現在のこの技術は人間より優れているわけではない。それが現実だ。そして、その意味を、いわば「人工的に」変えることはできない。
