「お前らさー、NISAでオルカンに投資とか、恥ずかしくないの?」36歳“意識高い系”課長代理が職場の懇親会で放った一言。後輩たちを見下す発言が、周囲の失笑を買ったワケ
世の中には、言葉は立派でも実態が伴わない「意識高い系」と呼ばれる人たちがいます。そして、そんな彼らは投資の世界にも一定数存在するようです。環境や社会貢献を掲げる企業を持てはやす一方、軍需や石油、ギャンブル関連の企業を排除しないインデックスファンドを「思考停止だ」「倫理観に欠ける」と批判する人たち。しかし、その主張を冷静に紐解くと、現実のサプライチェーンを無視した表面的で矛盾に満ちたロジックであることも……。ある職場の事例から、耳障りのよい正論に踊らされ、高コストな金融商品のカモにされないための資産防衛の視点を紐解いていきましょう。※プライバシー保護のため、事例は一部脚色しています。
意識高いシゴデキ男性が「オルカンなんかに投資しない」と語る理由
「オルカンなんて、自分の利益しか考えない残念な人間の投資だね」
組合主催の中堅社員以下が参加する懇親会でそう言い放ったのは、都内の専門商社に勤めるハヤトさん(仮名/36歳)です。
参加者のなかでも年長の彼は、役職は課長代理、独身で可処分所得が多いこともあり、職場ではブルーボトルコーヒーを飲み、ランチはフェアトレードを謳うオーガニック素材の食品にこだわった弁当を持参。また、社内外の各種ビジネスセミナーに参加するなど、自他ともに認める(と本人は思っている)「意識の高いシゴデキなビジネスパーソン」です。
懇親会での発言のきっかけは、新NISAの話題でした。
参加者の多くは20代から30代で、新NISAを始めた社員が多かったこともあり、投資の話題に花が咲きます。彼らの多くは、オルカンなどのインデックスファンドに投資し、なかには「NISA貧乏」と揶揄されるほど生活を切り詰めている若手社員もいましたが、総じて堅実で合理的に資産形成を進めていました。
ハヤトさんの言葉は、そうした若手たちの話が一区切りついたタイミングで投げかけられました。
「なぜ、オルカンに投資することが残念なんですか?」
後輩の一人が怪訝そうに尋ねると、ハヤトさんは待ってましたとばかりに、ナチュールワインを片手に語りだします。
「戦争に協力する会社への投資は許せない」
ハヤトさんの主張はこうです。オルカンには、健康被害を出しているタバコ会社やギャンブル依存を生むカジノ運営会社が含まれている。なにより軍需産業で兵器を作っている会社が含まれ、投資したお金が戦争に使われるのは絶対に許せない。――そんな理屈でした。
「俺はな、たとえ一部でも戦争に協力する会社を組み入れているオルカンなんて、恥ずかしくて投資できないよ。自分の利益だけじゃなくて、もっとよく調べて投資したほうがいいぞ、仕事でも投資でも『みんながやっているから』は思考停止じゃないか?」
ハヤトさんはそういって、社会に役立つ素晴らしい会社だけを選んだファンドを探して投資しているのだと、誇らしげに周囲へ説いていました。
後輩からの指摘で押し黙った「投資はNGで利用はOK」の矛盾
上から目線で語り終わったハヤトさんに対し、少し間を置いて、別の後輩が口を開きました。
「そこまで厳密に投資をしないということは、それらの会社の製品も利用しないってことですか?」
「俺はタバコもギャンブルもやらないし、そもそも軍需産業なんて縁がないからな」
「当然だろ?」といわんばかりのハヤトさんに、その後輩は苦笑いしながら問いかけました。
「でも、ハヤトさん、先週福岡への出張で飛行機に乗りましたよね?」
思いがけない質問にハヤトさんが戸惑っていると、後輩が説明を始めます。日本の航空会社が使う旅客機のほとんどは、米国のボーイング社か欧州のエアバス社製です。そして両社はいずれも戦闘機などの兵器を造る軍需産業の企業でもあります。つまりハヤトさんは、軍需産業が製造した航空機を自ら利用して移動していたわけです。
それだけではありません。アメリカと戦争状態にあるイランは、米軍を支える企業群として18社を名指しで攻撃対象としていますが、そのなかにはGoogleやApple、Microsoftやメタ、エヌビディアなどのIT関連企業が含まれています。攻撃対象を特定し、精密に誘導するにはこれら企業の製品やサービスが使用されているからです。
「ほんのわずかでも軍需産業に投資しない」という倫理観を徹底するなら、それらの企業の製品やサービスを日常から完全に排除しなければ筋が通りません。しかし、いまの日本社会でこれらを使わないで暮らすことは、仕事を含め制約が大きすぎて不可能でしょう。そもそも、現代の戦争は、兵器を組みたてている軍需企業だけでなく、数多の部品やIT技術から物流まで幅広い企業が関わっているわけではないのです。
論理の矛盾を突かれたハヤトさんは、押し黙ってしまいました。
「意識高い系」が陥りがちな罠
実のところハヤトさんの発言は、ネットで見つけたセミナーで講師のFPが話していた内容の受け売りにすぎませんでした。その講師が語る「いかにもな正論」を真に受けてよく調べもせず、すっかり感化されてしまったのです。
そして、それをきっかけに投資した「社会に役立つ素晴らしい会社だけを選んだ」ファンドのリターンは、彼が否定したオルカンの数十倍の手数料にもかかわらず、大きく劣っています。耳障りのよい正論に感化され、他人の投資方法を人格否定まがいの言葉で批判したハヤトさんでしたが、周囲の反応は「いつものことだね(苦笑)」と冷ややかです。本人はシゴデキを自負していましたが、普段の仕事でも同じように、発言だけは立派な「意識高い系の口だけ番長」と評されています。
仕事でも、投資でも意識が高いこと自体は悪いことではありません。しかし、自分自身で背景を深掘りすることもなく、表面的なところだけを見て正論を振りかざすと、周囲からは残念な人として距離を置かれてしまいます。なにより、そういった人は実績で劣るアクティブファンドを売る金融機関や、商売のネタを探している金融セールスのいいカモになる可能性が高くなります。
ハヤトさんのような人はどの職場にも一人二人はいるものですが、彼らに感化されて耳障りのよい話のカモにならないように気をつけたいものです。
