EVシフトが進み、中国EVにシェアを奪われるトヨタ。自動車産業が凋落すれば日本経済も凋落する!

EVシフトが進み、中国EVにシェアを奪われるトヨタ。自動車産業が凋落すれば日本経済も凋落する!

2026年3月期の連結決算で売上収益が前期比5.5%増の50兆6849億円となり、「日本企業として初めて50兆円の大台を突破」と華々しく報道されたトヨタ。しかし、世界の自動車市場を見ると、今後のトヨタに伸び代はない。EVシフトが進むなか、世界各国・各地域の市場でシェアを落とし続けている。

 本稿は、その状況をまとめ、日本の自動車メーカー(トヨタを中心に)の将来を考える。なお、私はこの業界の専門家ではない。自動車そのものには詳しくない。ただ、経済とビジネスの面から、日本経済の「最後の砦」とされる自動車産業を見ていきたい。

■純ガソリン車を駆逐し、EVシフトが急速に進む

 まず、大前提として、もはや純ガソリン車は過去の遺物になったということを述べたい。

 2026年上半期(1〜6月)の世界の新車販売市場において、純ガソリン車の比率は49%に低下し、自動車の普及以来100年以上の歴史で初めて5割を割り込んだ。その一方で、今後のクルマの主役、EVの比率は17%と、前年比で3ポイント上昇。急速にEVシフトが進んでいる。

 テクノロジーが市場にどのように普及していくかを体系化したイノベーター理論によれば、EVのシェア17%は、「アーリーアダプター」(初期採用者)の領域を完全に脱し、メインストリームである「アーリーマジョリティ」(前期追随者)のステージへ突入したことを意味する。市場シェア16%が「普及のキャズム」(深い溝)だからだ。

 つまり、EVはそれを飛び越え、もう後戻りすることはないステージに入った。

 

 ちなみに、日本国内のEV比率は約3%。トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーは、EVシフトにもっとも遅れている。

■世界最大の市場・中国で日本勢は壊滅的なマイナス

 ではまず、世界最大の自動車市場、中国から見ていこう。 

 いまや中国の自動車市場は、アメリカを含む北米市場をはるかに引き離し、世界シェアで約34%を占めている。

 OICA(国際自動車工業会)の発表に基づく、2025年の世界の新車販売台数の国別ランキングは次のようになっている。

 1位 中国:3439万9621台、2位 米国:1667万5488台、3位 インド:551万7594台、4位 日本:456万5777台、5位 ドイツ:320万7713台

 

 日本の約450万台の約8倍、約3500万台という巨大な中国市場で、数年前まで日本車はシェアの約4分の1を占める絶対的な存在だった。それが、2020年をピークに減り続け、昨年はシェア1桁台まで急落した。

 そして、今年の上半期(1〜6月)において、日本勢のシェアは9%台まで低下。主要メーカーの販売台数は、トヨタが前年同期比17.1%減、日産が15.0%減、ホンダが34.7%減と、いずれも壊滅的なマイナスを記録している。

■新車販売でBYDの4分の1に激減したトヨタ

 中国には、NEV(新エネルギー車)という独自のカテゴリーがある。EV、PHEV、FCVがこのカテゴリーに入り、HEVはガソリンのみを燃料として走行するため入らない。

 このカテゴリーを踏まえて、最新の9月の新車販売比率を見ると、NEVは67.1%に達している。

 このNEV中心の市場を牽引しているのは、いまやEVで世界最大のメーカーとなった比亜迪(BYD)である。BYDの9月の新車販売台数は前年同月比16.98%増の46万3561台で、そのうちEVは27万3143台、PHEVは18万3570台である。これに対して、日本勢の筆頭のトヨタは、8月(9月の確定値発表前のため)で前年同月比 22.8%減の11万8400台。BYDの4分の1以下である。

■「動く機械」から「ITディバイス」への変化に対応できない 

 トヨタの全方位全方位戦略(マルチパスウェイ戦略)は、いまや中国ではまったく通用しなくなったと言っていい。窮地に立たされたトヨタは、9月に中国の合弁会社である「一汽トヨタ」と「広汽トヨタ」の運営・体制を事実上一本化してスリム化を図っている。

 ちなみに、EVはこの先、自動運転機能の標準搭載が進むので、従来のクルマとは別物になる。それは、「ソフトウェア・デファインド・ビークル」(SDV)と呼ばれ、「動く機械」と言うより、スマホと同じ「ITディバイス」になる。

 この流れに、日本のメーカーは大きく立ち遅れている。

■金城湯池のASEAN市場で次々とシェアを失う

 かつて圧倒的なシェアを誇っていたASEAN市場でも、日本車は急激にシェアを落としている。

 コロナ禍後の2023年、ASEAN市場全体での日本車のシェアはまだ68%あった。それが昨年には57%と、わずか2年で10ポイント以上も下落した。

 かつてシェア9割を占め、日本車の「金城湯池」とされたタイでは、2025年に69.3%と、ついに7割を割り込んだ。トヨタ単体では、37.0%である。

 日本勢のシェアを奪ったのは、BYDやAION(広州汽車)といった中国EVである。

 こうした流れに、スズキは2025年末までにタイの四輪工場での生産を停止し、米フォードへ売却。ホンダはタイの生産工場を1カ所に集約することになった。

■インドネシアとベトナムのEVシフトの状況

 インドネシアもまた、かつて新車販売の約9割以上を日本車が占める日本の牙城だったが、政府のEV優遇策により、中国EVが急速に販売台数を伸ばしている。

 その結果、2025年のトヨタの年間販売台数は25万431台で前年比13.3%減と大きく落ち込み、日本勢のシェアは83.9%まで低下した。

 

 ベトナムの自動車市場は、他のASEAN諸国とはまったく違い、国産EVの「ビンファスト」が、市場を牽引し、新車販売に占めるEV比率が40%に達している。これに続くのが中国EV。

 ベトナムの自動車市場の規模(販売台数)は、2025年が前年比22%増の60.4万台。今年は70万台に達するのは確実で、このうちビンファストは2025年に17万5099台を記録。今年も絶好調で、1〜8月の累計販売台数は15万4000台を突破した。

 日本車は、2025年にトヨタが約7.2万台、三菱自動車が約4.4万台を記録しているが、EVシフトの勢いにシェアを急速に落としている。

■欧州市場では中国勢が日本勢6社を初めて上回る

 では、次に欧州市場を見る。

 欧州もEVシフトが進み、歴史的転換期にさしかかっている。とりあえず、HV、PHEVへのシフトが進むのと並行してEVが急速に伸びている。

 その結果、今年の5月、欧州主要31カ国における新車販売統計で、BYDやジーリーをはじめとする中国メーカー5社の販売台数が、トヨタを含む日本メーカー6社の合計を初めて上回った。中国勢のシェアは12%を超え、勢力図は完全に塗り替わった。

 最新の2026年8月の欧州新車販売動向を見ると、EVは前年同月比62.7%増と急伸している。とくに北欧では、どの国も普及率80%を超えている(ノルウェーはなんと98%)。そんななか、トヨタはなんとか前年同月比1.0%増を維持したが、ニッサンは1.0%減、スズキは9.6%減など、日本勢はシェアを落としている。

 その結果、ニッサンは、英国サンダーランド工場の生産能力の半分を事実上中国メーカーに譲ることになった。

■インド、ブラジルのEVシフトの現況

 東南アジア、欧州と同じく、中国EVがトヨタをはじめとする日本勢を駆逐しつつ、シェアを伸ばしている国は多い。

 まずは、インド。日系メーカーのシェアは、49%とまだ圧倒的で、マルチ・スズキ(スズキの現地法人)が単独で約39.3%を占め、続くのがトヨタ。

 しかし、EVシフトの波は押し寄せ、四輪乗用車に限るとEV普及率は3〜4%程度だが、「電動二輪・三輪車」では爆発的に伸びている。

 地元のマヒンドラやJSW MGモーター(中国系資本)が急成長しているほか、マルチ・スズキ(eビターラ)やテスラ、ベトナムのビンファストなども続々と参入して、戦国時代になっている。

 続いては、ブラジル。ブラジルは欧米系メーカー(フィアット、フォルクスワーゲン)が伝統的に強く、日本車はそれに続くという市場だったが、新車販売(乗用車・小型商用車)に占めるEVのシェアは、2025年、初めて10%超えた。

 牽引しているのは、やはり中国BYDで、ブラジル政府は輸入EVに対する関税を段階的に引き上げてきたため、中国メーカーは現地生産を進めている。そして、直近の 今年7月、ブランド別新車登録数でBYDがトヨタを抜いて4位に浮上した。

 ちなみに、南米でもっともEVシフトが進んでいるのがウルグアイ。新車販売の20〜40%がEVとなっている。 ウルグアイは、国内の電力構成の約99%が再エネのため、電気代が安い。そのため、必然的にEVシフトが進む。

■オーストラリア、中東にも押し寄せるEVシフト

 オーストラリアは、クルマに関しては100%輸入国。市場シェアではトヨタが約20%で、マツダ、三菱、ニッサン、スバルなども上位の常連であり、これまではASEANと同じく日本車の金城湯池だった。

 しかし、EVシフトは年々進み、シェアは10%目前まできている。そんななか、今年6月に中国勢が初めて日本勢を抜いて首位となり、8月には、EVの販売台数がガソリン車・ディーゼル車を逆転した。

 日本車は中東の産油国でも、これまでは断然に強かった。たとえば、UAEでは、トヨタがシェア 2割を超え、日産、三菱の3社だけで市場の半分以上を独占する「日本車天国」だった。しかし、EVシフトの波が押し寄せ、EVのシェアは今年になって10パーセントを超えた。

 牽引しているのはテスラとBYD。UAE政府は2050年までに全車両の50%をEVにする目標を掲げている

■中国EVを締め出した米国で日本勢がトップ

 こうして、最後はアメリカとなるが、「温暖化はフェイク」というトンデモ大統領トランプにより、アメリカは世界でもっとも遅れた自動車市場となった。

 テスラの本家でありながら、EVの販売シェアは頭打ちで、HEVだけが伸びている。

 すでに中国をターゲットに安全保障の観点から、2025年以降には中国製のソフトウェアや部品を搭載した車両の販売自体を禁止している。さらに、米議会は、「中国車の販売・輸入を恒久的に禁止する法律」を制定しようとしている。

 このアメリカの規制は、HEVを得意とするトヨタなどの日本メーカーには追い風。実際、アメリカの自動車市場における日本勢(主要6社合計)の新車販売台数は、2026年1〜9月累計で、前年同期比1.0%増の459万6858台を記録し、シェアでは約40%を占めている(マークラインズ販売速報データ)。このうち、トヨタは15.7%である。

 

 ただし、ガソリン車は販売台数を落とし、HVやPHVなどの電動車比率は61%となっている。

 

■日本EVは、多くの素材、部品を中国に依存している

 このままアメリカが中国EVを完全に締め出すと、日本の自動車メーカーはどうなるか?

 短期的には、日本メーカーにアドバンテージが得られる。

というのは、この間に、EVシフトへの時間的な余裕ができ、EV開発や電池工場の建設を進められるからだ。

 しかし、これはじつは「いばらの道」でもある。というのは、サプライチェーンの「脱中国」に伴う巨額のコストを賄わなければならないからだ。中国車をいくら締め出そうと、トランプ以後は、さすがのアメリカも温暖化対策にためにEVシフトを進めるはずだ。ただ、中国車規制は続く。となると、そのEVは「脱中国」でなければならなくなる。

 

 日本メーカーは、バッテリーの主要素材である黒鉛(グラファイト)やレアアース、電子部品などを中国に依存している。これらを北米製や他国製へ切り替える必要がある。

 そして、そうしながら、米国外の世界市場では、中国勢との死闘に臨まなければならない。その死闘を左右するのは、次世代の「全固体電池」とされている。

 

 これは、現在のEVの弱点である「充電時間の長さ」と「航続距離の短さ」を根本から解決するとされ、トヨタでは「10分以下の充電で1000km以上走るEV」を目指し、開発・生産を進めている。ただ、実装は2027〜2028年という。

 また、車載OS「Arene」(アリーン)」によるSDV化も急速に進めている。これが完成すれば、自動運転のアップデートやアプリ連携など、テスラに劣らない「走るスマートフォン」になるという。

■雇用者数は約550万人で就業人口全体の約8%

 はたして、トヨタはEVシフトの波を乗り切り、世界一の自動車メーカーの座を守れるのか?

 現在、日本の自動車産業全体がもたらす経済効果は、日本の名目GDPの約10%、金額にして約50兆〜60兆円に上るとされている。

 また、全製造業の出荷額の約2割が自動車部門であり、日本の総輸出額において、自動車(完成車および自動車部品)は全体の約20%〜25%を占め、金額ベースでは年間約15兆〜20兆円に上っている。さらに、自動車産業全体の雇用者数は約550万人で、就業人口の約8%に上る。

 この日本を支える産業が凋落すれば、貿易赤字が定着し、経常収支はマイナスに転じ、円はさらに安くなる。トヨタの凋落は、日本経済の凋落である。

「大企業にもっと課税しろ」という声があるが、そんなことを言っている場合ではない。

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