【エンジン車の終焉は近い?】新車市場シェアがついに「50%割れ」――1920年代以降初! EVは世界で主役の座を奪うのか
エンジン車半数割れの転換点と勝筋
1886年にカール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーがガソリン車を世に送り出して以来、1世紀以上にわたり自動車産業の主役はエンジン車だった。その長い歴史が今、大きな曲がり角を迎えている。
日本経済新聞の2026年10月1日の報道によると、2026年1~6月の世界新車販売(モビリティ・グローバル集計、一部大型車除く)では、ハイブリッド車(HV)などの電動車を除いたエンジン車の販売台数が前年同期から10%減少し、2025万台にとどまった。新車販売に占めるシェアは前年同期から3ポイント低下して49%となり、自動車が一般に普及した1920年代以降、初めて半数を割り込んだ。
中東情勢の緊迫化にともなう原油価格の高騰や燃料供給への不安からエンジン車の需要が落ち込む一方、市場で成長を続ける電気自動車(EV)では中国メーカーが先行する。ただ、現在の世界市場は
「EVかエンジン車か」
というふたつの選択を迫られているわけではない。地域ごとに異なる速さで進む電動化のなか、各社が投資に回せる資金をどう振り向けるかを競う段階へ移りつつあるのだ。
本稿では、エンジン車が半数を割り込んだ転換点を多面的に検証し、変化の激しい市場環境で今後の勝筋を探る。
中国や欧州で目立つ新車市場のEV逆転劇
世界的なガソリン価格の高騰などを背景にエンジン車の需要は落ち込んでおり、地域別では中国で前年同期比26%減、欧州でも13%減と大幅に縮小した。代わって販売を伸ばしたのがEVだ。
世界販売台数は同12%増の687万台に伸び、シェアも17%(3ポイント上昇)に達した。中国市場では2026年1月からの購入税減免措置の縮小で一時的に冷え込み、EV販売は前年同期比3%減の344万台となった。それでも世界全体のEV販売の約半数を中国勢が占めている。
中国に続いてEV市場をけん引する欧州も、前年同期比32%増の181万台と好調に推移した。欧州自動車工業会(ACEA)がまとめた乗用車31か国対象のデータによれば、2026年1~6月の欧州におけるEV販売台数は前年同期比35%増の160万8200台に達した。各国の補助金や減税政策が後押しし、ガソリン車の販売台数(16%減の159万767台)を約1%上回り、半期ベースで初めてEVがガソリン車を逆転した。2025年同期はガソリン車がEVを59%上回っていたことを踏まえると、急速な構造変化が進んでいることがうかがえる。
新興国をはじめとする他の地域にも電動化の波は広がり、2026年1~6月のEV販売台数は東南アジアで前年同期比81%増の35万台、オセアニアで同2.2倍の11万台と大きく伸びた。これに対し米国市場では、トランプ政権による連邦EV購入税額控除の失効や撤回を受け、EV販売が前年同期比15%減と低迷している。地域による普及の差が目立つようになった。
EV推進に影響を及ぼす米国の燃費基準緩和
半期ベースで世界市場の過半数を割ったエンジン車だが、今後も需要が先細りし、すぐに主役の座をEVへ明け渡すのだろうか。
国際エネルギー機関(IEA)の長期展望(Global EV Outlook 2026)によれば、2035年に全世界の乗用車販売に占めるEVシェアは約50%に達すると予想される。中国や欧州では90%超へ達する見込みに対し、米国や日本などでは20%程度にとどまると分析されており、地域差は今後さらに広がる見通しだ。
今後の普及を大きく左右するのは、世界第2位の市場である米国だ。ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、ステランティスといった米大手(デトロイトスリー)に加え、トヨタやホンダなどの日本メーカーにとっても重要な市場だが、直近の政策転換が各社の戦略に大きな影響を及ぼそうとしている。
米運輸省(NHTSA)は2026年9月28日、2031年までの企業平均燃費(CAFE)基準を大幅に緩和する最終決定を発表した。バイデン前政権下の規制案では、クリーンエネルギーへの移行とEV技術における米国の主導的地位確立を目指し、2026年モデルで年率10%、2027~2031年モデルで年率2%の引き上げを行い、2031年モデルでフリート平均50.4 mpg(約21.4km/L)の達成を定めていた。厳しい燃費目標を通じて、メーカーに実質的なEV増産を迫る内容だった。
莫大なコスト削減が生む投資余力と健康被害
これに対しトランプ政権が打ち出した新基準は、2031年モデルまでの引き上げ率を年率0.25%~0.5%(または年率1%)に抑え、2031年モデルの目標値を34.9 mpg(約14.8km/L)へと大幅に引き下げる内容だ。これにより自動車メーカーは、高度な排出ガス低減システムの追加や、急激なEV増産要請という重い負担から解放される。
NHTSAの推計によると、この緩和により2031年までに自動車業界全体で合計606億ドル(約9兆円)もの技術コストが削減される。1台あたり約1289ドル(約20万円)のコスト減に相当する。
個別の削減額試算では、GMが204億ドル、ステランティスが66億ドル、フォードが58億ドルの恩恵を受けるほか、日本勢のトヨタで45億ドル、ホンダで41億ドルの技術投資を抑えられる見込みだ。
一方で、この方針転換には社会的コストとのトレードオフも指摘されている。車両価格の低下によって安全な新車への買い替えが進む効果が期待される一方、NHTSAの分析によれば、排ガス増加にともない、2050年までに緊急外来受診297件、急性気管支炎733件、心血管疾患による入院140件、早期死亡524件などの健康被害増加が予測される。
北米市場のHV需要急増で攻勢に出る日本勢
足元の北米市場では、ガソリン価格高騰の影響を受け、燃費性能と利便性を両立したHVへの需要が急増している。
日本車メーカー6社(トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダ、三菱自動車)の2026年7~9月期における米国新車販売台数は、前年同期比3.1%増の154万7553台となり、2四半期連続の増加となった。トヨタ自動車は同0.6%増の63万3223台で、SUV「RAV4」やセダン「カムリ」などのHVモデルが販売をけん引している。
2026年9月単月におけるトヨタブランドの電動車比率は61%と過去最高を更新した。ホンダも同9.3%増の39万2341台を記録し、HV販売が過去最高となった。主力車種のHV比率は「CR-V」で54.5%、「アコード」で47.4%に達し、在庫不足が生じるほど強い需要が続いている。
2026年1~9月期の累計実績でも、日本車6社の米国販売は前年同期比1.0%増の459万6858台と4年連続で前年を上回った。内訳はトヨタ187万6614台、ホンダ114万9261台、日産71万6283台、スバル47万5878台、マツダ31万268台、三菱6万8554台となる。
これに対し、大型車が主力の米大手デトロイトスリーは苦戦を強いられている。GMの2026年7~9月期米国販売は前年同期比5.5%減の67万974台に減少した。調査会社コックス・オートモーティブの予測では、デトロイトスリーの米新車販売シェアは同四半期に36%超と過去最低水準へ沈む見通しだ。
未来の勝敗を分ける二段構えの資本配分戦略
日本勢はHVに圧倒的な強みを持つが、目先の需要増に甘んじず、将来を見据えた周到な戦略が求められる。これまでのデータから読み取れるのは、世界の自動車産業が明確な二極化の構図に直面しているというより、地域によって電動化の進み方が異なるということだ。
環境変化に対応するための勝筋は、短期から中期的には需要が旺盛なHVや高効率エンジン車で手堅く収益を得る体制を固めることにある。同時に、米国の規制緩和などで浮いた莫大な技術資金(余剰資金)を、長期的な競争軸となる次世代EVプラットフォーム、バッテリー技術、ソフトウエア開発へいかに効率よく投じるかが問われている。日産が今秋、北米市場向けに独自のハイブリッド技術「e-POWER」を搭載した新型「ローグ」を初投入し、HV需要の取り込みを急ぐのも、足元の収益力を固める一手と言える。
エンジン車が初めて世界販売の過半数を割ったことは、エンジン車の終焉をただちに意味するものではない。来るべき2030年代に向けて各社の明暗を分けるのは、目先のEVシェア獲得競争だけではない。地域ごとの普及速度を見極めながら、適切なパワートレインで収益の柱を築き、その利益を次世代技術へ柔軟に配分する
「二段構えのキャピタル・アロケーション(資本配分)」
だ。転換期に各社がどのような戦略を展開していくのか、今後の動向を注視したい。
