【11年連続輸入車首位】なぜ日本人はそこまで「ベンツ」を好むのか? ブランド神話が生まれた背景と、現代の課題
なぜ日本人は「ベンツ」を好むようになったのか?
日本におけるメルセデス・ベンツは、単なるプレミアムブランドを超えて、高級車、あるいは輸入車の代名詞的な存在として君臨しています。
メルセデス・ベンツの歴史は、1886年にカール・ベンツ氏によって誕生した「パテント・モトール・ヴァーゲン」によってはじまったとされています。
パテント・モトール・ヴァーゲンは世界初の自動車のひとつであり、その歩みは自動車の発展と深く結びついています。
そこから140年が経過した現在、メルセデス・ベンツはグループ全体で200万台超を販売する世界有数の自動車メーカーへと成長しています。
ただ、メルセデス・ベンツブランドの販売台数だけで見れば、同じくドイツのプレミアムブランドであるBMWやアウディと大きな差があるわけではありません。
一方、日本国内においては、2015年以降11年連続で輸入車販売台数1位を記録しています。
なぜ、日本のユーザーはこれほどまでに「ベンツ」を好むのでしょうか?
ヤナセが作り上げた「ベンツ」のイメージ
ある業界関係者は、日本におけるメルセデス・ベンツの歴史について次のように話します。
「日本にはじめてメルセデス・ベンツが上陸したのは、大正天皇の御料車として『カルダン・ヴァーゲン』が輸入された1912年のこととされています。
その後、1952年にウエスタン自動車によって本格的な輸入が開始され、1954年にヤナセへと総代理権が引き継がれました。
現在の日本におけるメルセデス・ベンツのイメージを構築したのは、この時代のヤナセによるところが大きいと思います。
当時の日本は、国内の自動車産業を育成するために輸入車に対して高額な関税を課していたことから、単なる『移動手段』としてメルセデス・ベンツを位置づけてしまうと、割高感を与えてしまうことが避けられませんでした。
そこでヤナセは、メルセデス・ベンツを手に入れることは『上流階級』への仲間入りを果たすことと同義であるというマーケティングをおこないました。
言い換えれば、クルマそのものを売るという発想ではなく、クルマを通じて特別な体験を売ることにしたわけです。
そして、豪華なショールームや丁寧な接客から得られる優越感が、そのまま日本におけるメルセデス・ベンツというブランドの価値となったと考えられます。
こうしたヤナセのマーケティング戦略が、日本のユーザーが『ベンツ』を好むようになった最大の理由だと思います」
「歴史と伝統」が重荷になる可能性も
一方、前出の業界関係者は「現代ではそうした過去のイメージが『重荷』になっている側面もある」としたうえで、次のように続けます。
「メルセデス・ベンツがもつ長い歴史や伝統は、ビジネス面においては弱みになる場合があります。
現代の自動車産業においては、メルセデス・ベンツのようなプレミアムブランドでもしっかり販売台数を伸ばしていくことが求められます。
そのためには、新たな顧客、特に若い世代の顧客を開拓しなければなりません。
しかし、若いユーザーの多くは、歴史や伝統よりも先進性を好むものです。
また、メルセデス・ベンツが高級車の代名詞となったことは、若いユーザーにとっては『自分には手の届かないブランド』というイメージを与えかねません。
そうした距離感を縮めるため、近年のメルセデス・ベンツは未来的なデザインや最新の機能装備を最大限にアピールしています。
ただ、最大の市場である中国では現地のブランドに押されつつあり、販売台数を大きく落としているのが実情です」
いまだからこそ注目される「メルセデス・ベンツの資産」
前出の業界関係者は「それでも、メルセデス・ベンツが積み上げてきた歴史が大きな資産であることはたしか」と話します。
「誤解を恐れずに言えば、一定の資本さえあれば、それなりのクルマを開発・生産することは難しくありません。
実際、中国では総合家電メーカーのシャオミなどが自動車産業に参入してわずか数年でベストセラーモデルを生み出しています。
一方、ブランドイメージの構築は一朝一夕に成し遂げられるものではありません。
メルセデス・ベンツの場合、100年にわたって世界中で高級車を販売し続けてきたという実績が、現在のブランドイメージを強力に下支えしています。
これは、新興の自動車メーカーが逆立ちしても手に入らないものです。
逆に言えば、ハードウェアでの差別化が難しくなっているからこそ、そうした無形の資産を有効活用することが、既存の自動車メーカーに求められることだと思います。
そういう意味で、メルセデス・ベンツの動向は、既存の自動車メーカーすべてと無関係ではありません」
