〈NHK受信料に異変〉「訪問営業」が大都市圏で再拡大…スマホでも契約対象に? 未払いには強制執行も
10月に入り、NHKは受信料の契約・収納を担う訪問業務を大都市圏で試行的に拡大している。ネット配信も一定の条件で受信契約の対象となるなか、いま、どのような場合に契約が必要になるのか。
「NHKの人」がまた家に? 訪問業務を5社に委託
「NHKの人が家に来た」――。
かつて、NHK受信料と聞けば、契約を求めて各家庭を回る訪問員を思い浮かべた人も少なくないだろう。
その「訪問」をめぐって、2026年秋、新たな動きがあった。
NHKは10月2日、「受信料の契約・収納業務の委託事業者の拡大について」と題した文書を公表。デジタル、書面、対面、外部企業との連携などを組み合わせる「新たな営業アプローチ」の一環として、訪問による契約・収納業務を「試行的に拡大」すると発表した。
対象となるのは関東、近畿、中部地方の大都市エリアだ。
9月から「サンジュウナナド」が大阪府の一部、「ノービスハイエストサービス」が大阪府・兵庫県の一部で業務を開始。10月からは「クルーガーグループ」が愛知県の一部、「キャリアリンク」が東京都・埼玉県の一部、「パーソルマーケティング」が東京都の一部で業務を始めた。10月2日時点で計5社となる。
ただし、「一度なくなった」NHKの訪問営業が復活したというわけではない。
NHKは2021年度以降の営業改革で、各家庭を何度も訪ねる従来型の営業から、インターネットや郵便、電話、外部企業との連携などを重視する方法へ転換してきた。
2023年3月の衆院総務委員会でも、当時の稲葉延雄会長は、戸別訪問を中心に受信料の支払いを求める形から、それに頼らない営業への転換を進めていると説明している。
外部法人への訪問営業の委託も段階的に縮小された。
しかし、それ以降もNHKによる訪問そのものが完全になくなっていたわけではない。NHKは、受信料に関する案内や、支払いが確認できない場合などに訪問することがあると公式サイトで説明している。
つまり今回、再開したのはNHKの訪問業務そのものではなく、2023年9月までに全廃されていた外部法人への戸別訪問「営業」の委託だ。NHKは2026年秋から、大都市圏でこれを試行的に広げている。
そうした動きの背景にあるのが、受信契約数の減少だろう。
NHKによると、契約総数は2026年3月末の4346万5735件から、7月末には4335万3033件となった。4か月で約11万2700件の減少だ。
NHKは今回の訪問業務拡大について、「契約数減少への対策」と直接説明しているわけではない。そのため因果関係は断定できないが、契約数が減少を続けるなかでの取り組みであることは確かだ。
「スマホを持っているだけで受信料」は間違い
NHK受信料をめぐる環境を大きく変えたもうひとつの出来事が、インターネット配信だ。
2025年10月1日、改正放送法が施行され、NHKが放送番組の同時配信や見逃し配信、番組関連情報をインターネットで提供する業務が「必須業務」となった。
同日から、新たなインターネットサービス「NHK ONE」もスタートした。
これに伴い、テレビなどの受信機を設置していなくても、一定の条件でNHKのネット配信の受信を開始した場合には、受信契約が必要となる仕組みが始まった。
ここで、最も誤解されやすいのが、
「スマホを持っているだけでNHK受信料を払わなければならないのか」
という点だ。
結論からいえば、スマートフォンやパソコンを所有しているだけでは受信契約の対象にはならない。
NHKによると、ネット配信のみを利用する場合、対象となるウェブサイトやアプリで、受信契約が必要になることを確認する一定の操作を行い、対象サービスの利用を開始した場合に契約の対象となる。
たとえば、スマホにNHK ONEのアプリを入れただけ、ウェブサイトを開いただけで、自動的に受信契約を結ぶ義務が生じるわけではない。
また、NHKのラジオサービス「らじる★らじる」などは対象外となっている。
一方、すでに家庭でテレビを設置し、NHKの受信契約を結んでいる場合は、NHK ONEを利用しても新たな契約や追加料金は必要ない。
テレビを持たず、ネット配信の利用によって新たに契約する場合は「地上契約」となる。
現在の受信料は、沖縄県を除き、地上契約が月額1100円、衛星契約が月額1950円。12か月前払いの場合、地上契約は1万2276円、衛星契約は2万1765円となっている。
つまり、
「スマホを持っている=NHK受信料を払う」
という理解は間違いで、正確には、テレビなどNHKの放送を受信できる設備を設置した場合、またはNHK ONEのうち契約対象となるネット配信について、所定の手続きを経て受信を開始した場合に、受信契約が必要になる。
これまでの受信料制度は、「家にテレビがあるか」が大きな基準だった。
しかし2025年10月以降は、、テレビがなくても、ネットを通じてNHKの対象サービスを利用することで契約の対象になるケースが生まれている。
「テレビを見る人」から「NHKのコンテンツを受信する人」へ――。
受信料制度は、ネット時代に合わせてその対象を変え始めている。
未払いを続けると「強制執行」に至るケースも
では、NHK受信料を支払わなかった場合、どうなるのか。
ここではまず、「未契約」と「契約済みだが未払い」は分けて考える必要がある。
すでに受信契約を結んでいるにもかかわらず受信料を支払っていない場合、NHKは文書や電話、訪問などで支払いを求め、それでも解決しない場合には、裁判所を通じた支払督促などの法的手続きを取ることがある。
NHKが2026年7月24日に公表した資料によると、同年6月末までに、受信料未払い者に対して行なった支払督促の申立ては累計1万3320件。
このうち、相手側から異議申立てがあり、訴訟に移行したものは5420件だった。
さらに、支払い義務が確定した後も支払いがない場合などに行われる強制執行の申立ては累計1803件。実際に強制執行が実施されたケースは565件で、261件では全額、304件では一部を回収したとしている。
一方、そもそも受信契約を結んでいない世帯に対しても、NHKは契約締結などを求める訴訟を起こしている。
2026年6月末までの未契約世帯への訴訟は累計666件。このうち604件は解決済みで、58件では判決が出ており、4件が訴訟中だった。
さらに2023年4月からは、正当な理由なく期限までに受信契約を申し込まなかった場合などに、通常の受信料に加えて「割増金」を請求できる制度も始まっている。
金額が大きくなりやすいのが、ホテルや旅館などの事業所だ。
2026年9月10日には、NHKが滋賀県で宿泊施設を経営する事業者に対し、受信料の支払いを求めて東京地裁に提訴した。
NHKによると、この事業者が結んでいた衛星契約は50件。未払い期間は8年10か月で、未収金額は約1140万円にのぼった。
家庭の場合、受信契約は原則として世帯ごとだが、事業所は仕組みが異なる。ホテルや旅館では、テレビなどの受信機の「設置場所」ごとに契約が必要になるため、客室数に応じて複数の契約が必要になるケースがある。
かつて、NHK受信料をめぐる議論では「訪問員が家に来た」「テレビを持っているか確認された」といった話が中心だった。
しかし現在は、デジタルや郵便、電話による案内に加え、外部事業者による訪問業務も再び広がり始めた。
さらに、テレビを持たない人でも、NHK ONEの対象サービスを利用すれば契約が必要になる場合がある。
「テレビを持っている人が払う」というだけでは説明できなくなったNHK受信料。
受信契約数が減少するなか、NHKは「訪問」という従来の方法と、「ネット」という新たな接点をどう組み合わせていくのか。
2026年秋の動きは、受信料制度が新たな局面に入ったことを示している。
