「49億円かけて建設→人気低迷で大赤字→閉鎖の憂き目に」…横浜ベイブリッジにぶら下がる「謎の遊歩道」が復活するまで
日本を代表するベイエリア、横浜港。その玄関と言えるのが横浜ベイブリッジだ。1989年(平成元年)9月に開通したこの橋は、市街地側の本牧ふ頭と工業地帯側の大黒ふ頭をつないでいる。
一般的には車で通過する橋だが、実は橋桁側面に遊歩道「スカイウォーク」が設置されている。大黒ふ頭側に入口があり、本牧ふ頭までは行けないが、途中のラウンジから横浜港を一望できるビュースポットだ。
ベイブリッジ完成と同時に開通したスカイウォークは、当初こそ盛況だったのもの、その後の集客は右肩下がり。そののち休業と再開を二度繰り返す数奇な経緯を辿ってきた。当記事では横浜ベイブリッジ・スカイウォークを実際に歩きつつ、この施設の歴史と現在を深掘りしていく。
■横浜市民からの要望で誕生したスカイウォーク
スカイウォークへ公共交通で行く場合、横浜駅または鶴見駅から路線バスでアクセス可能だ。ただし横浜駅からのバスは本数が非常に限られているので、鶴見駅から行くのが無難だろう。
鶴見駅から路線バスに揺られて30分弱で、大黒ふ頭のバス停に到着。そのすぐ近くにあるのが、横浜ベイブリッジだ。上層は首都高速湾岸線、下層は一般道路の国道357号という上下二層構造で、ふ頭の間を橋と臨港道路でつなぎ、横浜港の物流ネットワークを支えている。長さは斜張橋部分が860m、両端のトラス・箱桁部分を足せば2000m超にも及ぶ。二等辺三角形を2つ並べたような外観が非常に壮麗だ。
この巨大さが、スカイウォーク誕生のきっかけでもあった。横浜市民からはベイブリッジ建設中から「歩いてみたい!」という要望が多数あり、横浜市でも橋に一般向け遊歩道の併設を検討開始。橋上の高さからは横浜港内を一望可能で、真下を通過する客船も見物できる。加えて当時の先端土木建築技術を詰め込んだベイブリッジの見学による、青少年への学習・PR効果など、遊歩道に期待される役目は複数あった。
1981年度(昭和56年度)には有識者・関係機関による調査研究委員会が設置され、最終的には現在の設計がまとめられた。こうして遊歩道≒スカイウォークは1989年、ベイブリッジと共に開業したのだ。
■眺望の素晴らしさに反して、来場者は右肩下がりに
道路インフラ、展望施設、土木技術ショールームを兼ねていたスカイウォーク。建設費は約49億円とされ、このうち約14億円を料金収入から25年で返済する計画だった。
ある意味ではバブル期らしく華やかに予算を注いだ施設とも言えるが、開通から30年以上経った現在、現地は静けさを漂わせていた。
施設入口「スカイタワー」は高さ60m。家族連れなど客が全くいないわけではないが、それほど多くもない。設備更新はほとんどされていないようで、ロビー部分には公衆電話が置かれていたと思しきカウンターも。ベイブリッジや横浜に関するミニ展示も所々にあり、目を飽きさせない工夫はされているが、それ以上に平成初期の香りが色濃い場所だ。
25人乗りの大型エレベーターに筆者一人だけで乗り、地上から橋桁へ。遊歩道「スカイプロムナード」はベイブリッジの下路両側に設置された屋根付き歩道で、幅員2.5m、延長片側320mだ。金網で囲われているため、安全性は高い。
プロムナードから横浜港への眺望は、非常に良い。ベイブリッジ躯体の重厚なビス留めも間近で観察できるので、建築を学ぶ学生や建築マニアにとっても見応えはあるだろう。
この景観を求めて、スカイウォーク開業直後の1990年度には約79万人が訪れたという。しかし、その直後から来場者は減少し始める。1993年度には人件費・電気代など管理コストが収入を上回り、3000万円以上の赤字を計上。その後は毎年約5000万円〜1億5000万円もの赤字が続き、横浜市の市税で穴埋めされてきた。
開業からわずか5年後の1994年には、来場者は当初の3分の1という約29万人。1999年には10万人を割り込んで約9万人となった。2010年には横浜市の年度当初予算編成で、スカイウォークが見直し対象となり、同年9月にとうとう一時閉鎖となってしまった。閉鎖直前の来場者は4万〜5万人前後と低迷し、建設時の市債14億円の返済と赤字補填の累計額は約36億円にも達した。
■スカイウォーク閉鎖の裏に見える「立地」「内容」「競合」「不況」
閉鎖の原因は主に4つ。その1つ目は大黒ふ頭という立地要因だ。一般人は行く機会のない倉庫街にあり、自家用車を除けば本数の限られた路線バスのみというアクセスの悪さが、利用のハードルを上げている側面は否めない。
2つ目は施設自体の性質。確かに景観自体は非常に優れているが、それだけではリピーターを作りにくかったのではないか。開業当時のスカイウォークは入場料が大人600円だったが(※現在は無料)、高額ではないが無視もできない程度の金額を払い、何度も訪れたい場所かというと疑問符が付く。
3つ目は他スポットとの競合。「パシフィコ横浜」(1991年開業)、「横浜ランドマークタワー」(1993年開業)など、平成前期には現在も横浜を代表する数多くの観光スポットが出現した。よりアミューズメント性が高く、しかもアクセス性に優れる施設があれば、そちらに客が流れるのは自然なことである。
4つ目は80年代末開業という時代性。ご存じの通り90年代初頭にバブルが弾け、日本は長い経済低迷に入る。当然、市井ではバブル期と比べてレジャー方面の支出も冷え込むが、限られた予算内で休暇を楽しむにあたり、スカイウォークの優先順位がさらに下がってしまったのだろう。
このように、立地面のハードル、施設の性質、他の横浜観光スポットとの競合、そして経済低迷により、スカイウォークは閉鎖に至ったと考えられる。
■2019年の再開業、コロナ禍の閉鎖を経て再々開業
閉鎖後のスカイウォークは横浜市が細々と維持管理を行い、一般人の立ち入れない「開かずの回廊」となっていたが、2019年には意外な形で復活を果たす。きっかけは横浜港に寄る豪華客船であった。
2010年代後半、横浜港は大黒ふ頭をはじめ港湾機能を強化していき、2019年10月には新港ふ頭客船ターミナルを核とした「横浜ハンマーヘッド」も竣工した。アジア発着の大型外国客船の誘致に成功したこともあり、クルーズ船の寄港回数は2016年の127回から上方推移し、2019年には188回となって最高記録を更新した。
また、2010年代は訪日観光客(インバウンド)が大幅増加した時期でもある。2011年の東日本大震災で一時落ち込むものの、その後はアジア各国を中心に訪日客が回復し、2019年には3188万人を記録。この活況も横浜を観光エリアとして成長させ、客船の寄港増を後押ししたと思われる。この豪華客船を真上から見られるスポットとして、スカイウォークに再び脚光が当たったのだ。
横浜エリアの変化や日本の経済低迷などについて行けずに閉鎖したスカイウォークが、その横浜や日本の変化で再び日の目を見たのは、皮肉なものである。ただし、この再開業は長続きせず、2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大によって再び休業してしまう。
コロナ禍が若干落ち着いてきた2022年に施設は再々オープンするのだが、この時にスカイウォークには新たな役目を与えられている。それが最もよく分かるのが、これから見ていく「スカイラウンジ」だ。
■スカイラウンジから見える横浜港の将来
スカイウォーク先端のスカイラウンジはベイブリッジ主柱の橋桁下に設けられ、上層エントランスと下層ラウンジの2階構造になっている。ラウンジに降りると横浜港のほぼ全周囲を一望できるほか、室内には横浜港の歴史や機能に関する展示パネルが数多く並んでいた。
とりわけ力を入れているのが、現在整備中の「新本牧ふ頭」に関する展示だ。横浜市の2022年6月13日付記者発表では、スカイウォークは「新本牧ふ頭整備事業の役割や海洋工事の建設技術、環境への取組などをPRする施設」として明記されている。ベイブリッジという既存インフラや豪華客船を見るスポットから、横浜港の将来を見るスポットに変化したのだ。
新本牧ふ頭は現在の本牧ふ頭と南本牧ふ頭の間で工事が進む最新物流拠点だ。洋上物流の主役であるコンテナ船は全長400mに達し、さらに大型化や貨物量の増加が見込まれる。それらに対応すべく延長1000m、水深18m以上、日本最大のコンテナクレーン設備を備える計画だ。湾の埋め立てではリニア新幹線など公共事業等の建設発生土を有効活用し、護岸工事では海洋生物との共生や環境性も考慮されている。
新本牧ふ頭はまさに「未来の横浜港」そのもの。その最新鋭コンテナターミナルが完成していく過程を観察できる場所として、現在のスカイウォークは変化しているのだ。2022〜2025年3月末で延べ約11万人がスカイウォークを訪問、市内学校の社会科見学の行き先にもなっているという。
また、コロナ禍も落ち着いた現在では、以前のように横浜港を多くの豪華客船が訪れている。これらの見物スポットとしての役割も健在だ。閑散とした印象のスカイウォークも、スカイラウンジ内に限って言えば、家族連れなどそれなりに多くの客が利用していた。目当ては対岸の大さん橋に停泊する豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号である。
ラウンジの床面には横浜港を上空から見た大きな写真が貼られているが、それを見ながら「うちはどこかな?」と探している、横浜在住と思しき家族もちらほら。スカイウォークが紆余曲折を経て、横浜市民の散策路として定着していることが垣間見える。
国交省の資料では、新本牧地区を含む横浜港の「国際海上コンテナターミナル再編整備事業」は総事業費3800億円、令和10年代前半完成の予定だ。新本牧ふ頭の完成後、次はスカイウォークにどのような役割が与えられるのかが注目される。
