2019年、トヨタはハイブリッドの特許、約23,740件を無料で開放しました。
設計図は、誰でも手に入る。それなのに、7年たっても追いついた会社は1社もありません。
欧米はハイブリッドを飛ばして電気自動車へ向かい、その前提は3年で崩れました。
そして2026年、トヨタは今までのハイブリッドを自分で終わらせ、第6世代という「別の機械」に変えました。
なぜ、図面があるのに、作れないのか。
答えは「日本の技術がすごいから」ではありません。設計図に書けないものが、1つだけあるからです。
■ 目次
0:00 ハイブリッドは、終わりました
1:54 第1章 設計図を配った日
6:40 第2章 答えは書いてある
11:13 第3章 崩れた前提
15:42 第4章 年輪
20:08 設計図は、配れる。年輪は、配れない。
トヨタがハイブリッドの特許を無料開放した驚きの理由とは
4月8日、東京のトヨタ社内で小規模なプレスカンファレンスが実施された。内容は、「車両電動化技術の特許無償提供に関する説明会」というもの。実はトヨタは、この日の5日前の4月3日に「トヨタ自動車、ハイブリッド車開発で培ったモーター・PCU(パワー・コントロール・ユニット)・システム制御等車両電動化技術の特許実施権を無料で提供~約23740件が対象。車両電動化システム活用の技術サポートも実施し、電動車普及に貢献~」という報道発表をしている。特許の開放は2030年までで、技術サポートも実施するという。
そして、この発表を伝えた報道の多くは、以下のような論調であった。
「トヨタが特許を無料で公開。トヨタは、これによりハイブリッドを生産するメーカーが増加し、ハイブリッド市場が拡大することを期待。EVが本格的に普及する前の今がハイブリッド車の市場を拡大する最後の機会として捉えている」
しかし、どうもトヨタの本心は、こうした報道とは微妙に異なっていた。そのために追加で説明会を実施したというのだ。説明に立つのは、トヨタ副社長の寺師茂樹氏。大物がわざわざ登場するということは、それだけトヨタは重要と考えているのだろう。
トヨタがサプライヤーになって部品を供給する
寺師副社長の説明で、もっとも驚かされたのは「トヨタがティア2になります。今まで部品を買う立場でしたが、これからは売る立場にもなります」ということだ。特許を公開するというのはあくまでも二次的なものであり、真の目的は部品供給と技術サポートにあったのだ。しかも、購入希望者はすでに存在しており、「5年分くらいの仕事はある」というから驚く。
そういえば、トヨタからスズキへのハイブリッド技術提供も発表されている。スズキもこの顧客の一人というわけだ。そうなればビジネスの規模は数十台単位ではなく、年間10万台規模になるだろう。1台あたり1万円の収益でも、10万台あれば100億円となる。トヨタの販売台数が増えなくても収益が上がるのだ。
さらに「特許を公開したからといって、それで新たにハイブリッドを作り始める自動車メーカーはほとんどないはず」とも言う。言われてみれば、トヨタ式のハイブリッドの肝である遊星ギヤを使う動力分割機構の特許は、もう期限が切れている。しかし、同じものを採用したという他メーカーの話は聞いたことがない。特許があっても、モノを製造するには別の苦労があるのだ。
また、トヨタが公開した技術はハイブリッドだけではなく、EVにもFCV(燃料電池車)にも利用できる。つまり、「EVを作りたい」という要望にも応えられる。そういう意味で、ハイブリッドとEVが市場で対決するという構図も、トヨタの考えとは異なるのだろう。トヨタはEV技術も持っており、近く中国やインドなどでEVを投入する予定もある。
「ライバル社のEVがトヨタのハイブリッド車を駆逐する」のではなく、「トヨタの販売するハイブリッドとEVのうち、徐々にEVの割合が増えてくる」というのがトヨタ視線ではないだろうか。
厳密に考えれば、トヨタがサプライヤーになることと特許の公開は、関係のない話だ。部品を供給しつつ、特許料を徴収してもいい。それに対しては「トヨタ的に儲かるものではありません。いろいろな人とビジネスをするというアピールになる。姿勢を示したい」と寺師氏は言う。特許の公開には、トヨタの新しいビジネスへの挑戦という真の狙いがあったのだ。
トヨタ自動車、ハイブリッド車開発で培ったモーター・PCU・システム制御等車両電動化技術の特許実施権を無償で提供
約23,740件が対象。車両電動化システム活用の技術サポートも実施し、電動車普及に貢献
トヨタ自動車(株)(以下、トヨタ)は、電動車の普及に向けた取り組みの一環として、モーター・PCU(パワー・コントロール・ユニット)・システム制御等の車両電動化関連の技術について、トヨタが保有している特許実施権(審査継続中を含む)を無償で提供するとともに、電動車を開発・製造するために、トヨタが保有するパワートレーンシステムを活用していただく際に、技術サポートを実施することを決定しました。
この車両電動化技術は、トヨタが20年以上にわたるハイブリッド車(HV)の開発を通じて、高性能化・コンパクト化・低コスト化を進めてきた先進の技術であり、HV・プラグインハイブリッド車(PHV)・電気自動車(EV)・燃料電池自動車(FCV)等の様々なタイプの電動車開発に応用できるコア技術です。
知的財産(特許)に関しては、トヨタは従来よりオープンポリシーを基本とし、第三者からの特許実施のお申し込みに対しては、適切な実施料により特許実施権を提供しています。
車両電動化技術については、様々なタイプの電動車の開発に応用できる技術であるため、電動車普及への貢献の観点からこれまでの知的財産の基本方針を一歩進めて、トヨタが単独で保有する世界で約23,740件の特許の実施権を無償で提供します。
あわせて、電動車開発に必要なパワートレーンシステムであるモーター・バッテリー・PCU・制御ECU等(以下、車両電動化システム)のトヨタが保有するシステムをご活用いただく際には、電動車の製品化に向けた技術サポートも実施することとしました。
取締役・副社長の寺師茂樹は、車両電動化技術を通じた協調という今回の新たな施策を決断した理由を次のように語っています。
「ハイブリッド車など電動車普及の必要性を感じておられる多くの企業から、トヨタの車両電動化システムについて、お問い合わせをいただくようになりました。今こそ協調して取り組む時だ、と思いました。特にこれからの10年で一気に普及が加速すれば、電動車が普通の車になっていくでしょう。そのお手伝いをさせていただきたいと考えました。」
車両電動化技術に関わる新たな施策
トヨタが保有する車両電動化技術の特許、および車両電動化システムの活用に関しての新たな施策の概要は、以下のとおりです。
特許実施権の無償提供
対象は、トヨタが20年以上にわたるHV開発で培ってきたモーター・PCU・システム制御等の車両電動化技術の特許 約23,740件
内訳2019年3月末時点。2015年1月より無償提供実施中の燃料電池関連を含む
モーター約2,590件、PCU約2,020件、システム制御約7,550件、エンジン・トランスアクスル約1,320件、充電機器約2,200件、燃料電池関連約8,060件
期限は、2030年末まで
トヨタにお申し込みをいただき、具体的な実施条件等について協議の上で契約を締結
技術サポートの実施
電動車の製造・販売を目的とした完成車メーカーが、トヨタが保有する車両電動化システムをご購入いただく場合に、ご要望に応じて実施
技術サポートの内容は、製品化する車両特性に応じた燃費・出力性能、静粛性といった商品力を高いレベルで実現するために必要な、車両電動化システム全体のチューニングに関するアドバイス。具体的には、車両電動化システムの概要・制御要領・搭載する車両に適用させるためのチューニング要領等についての詳細な説明など
技術サポート実施に関わる費用は有償
トヨタにお申し込みをいただき、具体的な実施条件等について協議の上で契約を締結
今回の新たな施策決定の背景・考え方
トヨタは、従来より環境問題への対応を経営の最重要課題の一つと位置付け、いち早くHVを始めとする電動車の開発・市場投入に取り組んできました。2015年には、自動車や工場から排出されるCO2削減に向けた長期取り組み目標として「トヨタ環境チャレンジ2050」を設定、2017年には、電動車の普及に向けた2030年までの販売計画を公表しました。
このようにトヨタは、CO2排出量削減に向けたチャレンジングな目標を掲げ、“普及してこそ、環境への貢献につながる”という強い思いのもと、HV開発で培ってきたモーター・バッテリー・PCU等の車両電動化のコア技術を軸として、技術の共有も図りながら電動車の普及に積極的に取り組んでいます。
しかし、地球温暖化抑制の取り組みは喫緊の課題であり、さらなるCO2排出量の削減が求められています。電動車の開発には多くの時間と費用を必要とします。CO2排出量削減のピッチを上げるためには、多くのステークホルダーの方々と思いを共有し、協調して電動車の普及に取り組む必要があります。
トヨタは、今回の新たな取り組みがきっかけとなり、世界で電動車の開発・市場投入の促進につながることで、CO2排出量削減による地球温暖化抑制に貢献したいと考えています。
「車両電動化技術の特許無償提供」記者会見
