日本人ではわずか0.5%しか存在しない「Rhマイナス血液型」が絶滅せず残る理由

日本人ではわずか0.5%しか存在しない「Rhマイナス血液型」が絶滅せず残る理由

血液型の末尾についているプラスやマイナスは、赤血球の表面にある一つのタンパク質の有無を表している。そのタンパク質があれば、Rh陽性(プラス)。なければRh陰性(マイナス)だ。

ヨーロッパ人を祖先に持つ人なら、あなたがRh陰性である確率はおおよそ7分の1(約15%)だ(日本人の場合は約0.5%とされる)。

人類史の大部分を通じて、このタンパク質を持たないことには代償を伴った。Rh陽性の子を妊娠しているRh陰性の女性は、主に分娩時に(胎盤が剥がれることで)、子の血液の一部が体内に入り込む可能性がある。すると母親の免疫系が反応し、子の血液に対する抗体をつくり、この抗体はその後も残り続ける。そして、また別のRh陽性の子を妊娠したら、母親の抗体が胎盤を通って、子の赤血球を破壊するおそれがある(胎児・新生児溶血性疾患)。

これは、生殖上の大きな代償だ。そして、自然選択はこうした代償を取り除くのを得意とする。そんなわけで、真に問うべき疑問は、なぜ一部の人はRh陰性なのか、ということではない。真に問うべきは、なぜそれほど多くの人が、いまだにRh陰性なのだろうか、ということだ。

■Rh陰性の血液とは

問題のタンパク質は、RhD抗原と呼ばれる。これは、Rh式血液型を構成するいくつもの抗原の一つだ。Rh式血液型は、ヒトの血液型の分類という点では、ABO式に次いで医学的に重要な意味を持つ。

ヨーロッパ人を祖先に持つRh陰性の人の大部分では、RhDをコードする遺伝子が、染色体から完全に取り除かれている。スイッチがオフになっていたり、変異して機能しなくなっていたりするのではない。すっかりなくなっているのだ。2000年に『Blood』で発表された研究では、染色体が切りとられた正確な位置が明らかになった。

これと同じ結果は、別の場所でも、違うルートを通って現れた。『Blood』で発表されたまた別の2000年の研究では、アフリカ人を祖先に持つRh陰性の人のほとんどは、まだその遺伝子を持っているが、機能するタンパク質をつくれない破損した形態になっていることがわかった。どちらのメカニズムであれ、その結果として、免疫系の認識する対象が細胞表面に存在しなくなる。

これは、その形質の長期的な挙動という点で重要になる。遺伝子が取り除かれることは簡単で、人類の歴史上たびたび起きてきた。だが、取り除かれた遺伝子を取り戻すのは不可能に近い。

Rh陰性が、自然選択で消滅しなかった理由

なんらかの形質が親と子で一致していない場合に初めて問題が生じる場合、負の頻度依存選択(珍しい型ほど不利になる仕組み)と呼ばれる現象が起きる、と生物学者は予測する。どちらの型にしても、より珍しい方が不適合妊娠につながりやすく、ひいてはダメージを受けることも多くなる。だとすれば、その珍しい遺伝子バリアントはゼロに向かって押しやられ、15%も残らないはずだ。2016年に『PLOS ONE』で発表された研究で述べられているように、Rh式血液型は、発見されたその日からほぼずっと、進化上の謎であり続けている。

広く認められたただ一つの答えは存在しないが、いくつかの説明で、だいたいのところは答えられる。最も明快な説明は、生物学の仕組みから受ける印象ほど選択圧が強くなかったというものだ。通常、Rh陰性の女性によるRh陽性の子の妊娠は、第1子の妊娠・出産は問題なく終わる。というのも、感作(抗原に対する抗体をつくるようになること)が生じるのは出産時が多いからだ。

Rh不適合が脅威となるのは主に第3子や第4子だが、多くの女性が3人目や4人目の子を持たなかったという状況なら、選択の圧は弱く、極めてゆっくり作用する。

偶然も、大きな役割を果たす。祖先集団が少人数である場合は、ある遺伝子バリアントが、適応上の理由がまったくなくても、「遺伝的浮動(偶然による遺伝子頻度の変化)」によって高頻度化することがある。とりわけ、個体数が一時的に激減した後や、一握りの家族が新たな集団を築いたときにはそれが起きやすい。おおかたの集団遺伝学者の見解によれば、Rh遺伝地図の大まかな分布パターンは、なんらかの隠れた利点ではなく、こうした歴史で説明がつくという。

さらに興味をそそる仮説として、Rh陰性には、欠点を埋めあわせるなんらかの利点がある可能性があるのかもしれない。2021年に『Journal of Evolutionary Biology』に掲載された研究は、(プラスとマイナスの)遺伝子を一つずつ持っている人には健康上の優位性があり、それだけで両方の遺伝子のバランスを維持するには十分だ、と主張した。ただし、この知見は一つの研究対象グループにもとづいており、相関的なものにすぎないため、確たる説明というよりは、仮説の域にとどまっている。

■Rh陰性の割合は地域によって異なる

世界全体で見ると、Rh陰性の人は6%ほどにすぎない。ヨーロッパと、そこに起源を持つ集団では15%だが、東アジアの大部分では、この形質は、輸血用血液の確保を困難にするほど珍しい。

この形質が最も多いのはピレネー山脈のバスク人だが、推定値はサンプルによって異なり、人口のおよそ5分の1から3分の1(約20%から30%超)までの幅がある。2018年に『European Journal of Human Genetics』に掲載された研究によれば、バスク人集団のRhD遺伝子欠失の頻度は世界で最も高いという。この研究ではその説明として、集団の孤立と、なんらかの適応上の利点の両方が提示されているが、どちらについても明確に実証されているわけではない。

この形質が日常生活ではほとんどコストにならないことを示す、さらなるヒントもある。RhDは、それよりも大きな膜複合体にあり、この複合体は、赤血球によるアンモニア処理を助けていると見られ、二酸化炭素の処理に関わっている可能性もある。2007年に『Seminars in Hematology』で発表されたレビュー論文によれば、この複合体全体を欠いている人(Rh-null型と呼ばれるまれな状態)では、赤血球が歪んでもろくなり、崩壊しやすいという。だが、RhDだけを欠く人では、測定可能な不利益は見られない。機能の上では、このタンパク質はスペア部品のようなものなのだ。

こうした知見は、Rh陰性がなんらかの別の人類系統や大昔の交雑を示しているとする俗説を打ち消すものでもある。実際のところは、ある遺伝子の欠失が、一部の集団に広まり、別の集団には広まらなかったということなのだ。

さて、この記事の締めくくりとして、興味深い話を紹介したい。1960年代後半以降、抗D免疫グロブリンの注射により、Rh陰性の母親がそもそも感作しないようにする措置がとられるようになった。このため、妊婦健診と、こうした処置を受けられる場所では、Rh不適合による深刻な症状が生じることはまれになっている。

これにより、この形質をヒトという種から徐々に押し出してきた一つの力が、事実上スイッチオフとなった。15%などの割合がかつて何を表していたにせよ、医学がいま、それを固定したというわけだ。

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