トヨタが「中国サプライヤー」から部品調達して開発か、「EVでもHVでもない」クルマの正体

トヨタが「中国サプライヤー」から部品調達して開発か、「EVでもHVでもない」クルマの正体

トヨタが中国市場に切り込む「重要な戦略」が動き始めそうだ。従来の系列サプライヤーにこだわらず、中国現地サプライヤーと協力体制を築くことで、よりスピーディーな地産地消、中国の高級車ニーズを満たすモデルの開発へ突き進むのか。業界に大きなインパクトを与えるに違いない、その車種とは。M&Aや合従連衡が進む可能性もあり、裾野が広い自動車産業に影響が出そうだ。

● トヨタが今あえて参入する 「第5の電動車」の正体

 トヨタ自動車が2027年春、中国で「レンジエクステンダーEV」(EREV)を生産する計画だと報じられた。EREVとは小型エンジンで発電し、モーターで走行するクルマ。電気自動車(EV)より航続距離は長く、外部充電もできる。

 EREVはEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)に次ぐ、「第5の電動車」と呼ばれている。新車販売台数で6年連続世界1位のトヨタは、豊田章男会長の下、全方位戦略を推し進めてきた。

 EREVは、特別に目新しい電動車技術というわけではない。中国では、問界(AITO)や理想汽車がEREVを投入している。フォルクスワーゲン(VW)や日産自動車なども実用化している。

 中国は景気後退で個人消費が低迷し、自動車の低価格競争がさらに激しくなっている。にもかかわらず、なぜ今トヨタはEREV投入を検討するのか。得意のHVを伸ばすのではなく、あえてEREVに挑戦する狙いは何か?

● 中国メーカー主導で激変! 世界自動車販売台数ランキング

 2026年上期(1月〜6月)、トヨタは販売台数で世界トップの座を守った。ダイハツ・日野を含む販売台数は約539万台だった。

 2位はVWで約413万台。中国での需要減少などで同社の業況は厳しい。3位は韓国の現代自動車(起亜含む)で約360万台。4位はステランティス(フィアット、プジョーなど)の約300万台(ただし出荷台数)だ。

 特に欧州の自動車業界は非常に厳しい状況が続いている。そしてそれは、トヨタも他人事ではない。中国新興メーカーの急速な追い上げと価格競争に巻き込まれているからだ。

 5位以降は中国勢が名を連ねた。5位は上海汽車集団(SAIC)の約205万台、6位は浙江吉利(ジーリー)で約193万台。7位はBYDの約181万台、8位は奇瑞汽車(チェリー・オートモービル)の約136万台。ジーリー、BYD、チェリーの販売台数を合計すると約510万台になり、トヨタを猛追している。

 中国勢は、海外市場でもシェアを拡大している。日本メーカーが長くシェアトップ級だった東南アジア、具体的にはタイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールなどで中国ブランドのシェアが急拡大。欧州市場でも近年、シェアを拡大している。

 中国勢の強みは、何といっても低価格だ。中国政府の支援に加えて、部品の内製化を進めたことでコスト競争力を向上させてきた。EVであれば、日米欧メーカーに比べて1台当たりのコストは65〜75%程度とみられている。

 さらに、経営のスピード感も速い。日米欧メーカーが内燃機関を中心に最大約10万点もの部品を精緻にすり合わせてきた一方で、中国勢は部品点数の少ないEVを中心に成長してきた。

 この先の自動車業界は、ソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)の名の通り、ソフトウエアが車両性能を決定する。このほうが開発スピードは速く、消費者のニーズにも対応しやすいといわれている。

● トヨタが中国で EREVを投入する狙いとは?

 こうした状況下、トヨタは、中国でEREV生産を計画しているという。その狙いは、粗利率の高いモデルを投入することだろう。

 中国市場ではEREVの2極化が進んでいる。価格帯が15万元(日本円で350万円程度)以下のEREVモデルは需要が減少する一方、大型SUVなど高価格帯のEREVモデルの需要は底堅い。トヨタは、このセグメントのEREVを中国市場に投入し、高価格帯のシェアの維持・拡大につなげようとしているとみられる。

 実は中国では、トヨタが強みとするHVは低燃費車として区分され、新エネルギー車関連の税優遇などは受けられない。EREVは新エネルギー車に分類される。つまりトヨタにとってEREVは、EV競争を避けつつ、中国の優遇措置を取り込める、トヨタの全方位戦略を推進する重要な存在になるといえる。

 また、地産地消体制の強化にもつながる。トヨタは2027年秋にも中国で、レクサスブランドの次世代EVとなるSUVの生産も計画していると報じられた。主要部品は中国メーカーからの調達が増えるもようだ。

 長年、トヨタは品質維持のために系列サプライヤーからの調達を重視してきた。ところが状況は変わりつつあるようだ。中国現地の規制に従い、中国の消費者が欲しがるクルマを出すことを最重要視せざるを得ないほど、生き残りは厳しい。経営判断のスピードを上げ、コスト意識を高めることも欠かせない。

 中国の自動車部品メーカーのコスト競争力は高い。しかも、ソフトウエア面では、ファーウェイなど大手IT企業と連携することで開発スピードも速いといわれる。習近平政権はヒト型ロボットの導入を重視しており、工場の完全自動化も進んでいる。

 自動車業界はトランプ米大統領の関税政策に振り回されている。そうした中で今春、トヨタが開発畑から財務畑の社長にトップ交代した意味は大きい。中国メーカーのスピードとコスト競争力は、トヨタにとっても脅威だ。とりわけコストへの危機感は相当だろう。中国勢の強みを取り込むことも、EREVを現地生産する狙いだろう。

 中国企業にとっても、高価格帯EREV生産に関してトヨタの製造技術は喉から手が出るほど欲しいはずだ。そうした両社の利害がEREV生産計画の背景にあるとみられる。

● 日本の自動車産業の構造は よりスリム化する可能性が高い

 中国政府は今、国有の第一汽車と広州汽車の提携を主導している。習近平政権は、AI(人工知能)と同様、自動車でも世界トップに立つことを本気で考えていると思われる。

 欧州市場においては、中国勢は、日産やステランティス、フォードなどと既存工場の活用で提携し、電動車の生産体制を構築し始めている。中国自動車メーカーは今後、海外で直接投資と地産地消体制を確立し、雇用主としての存在感を発揮することも予想される。

 また、製造技術面でも、中国企業の存在感は高まるだろう。VWは中国企業との提携で得たノウハウを生かし、傘下のシュコダから低価格帯EVを出した。このモデルが、VWグループ全体の電動車戦略の失敗を、回復に向かわせるのではと期待されている。

 こうした展開を横目に、トヨタは中国でEREVを投入する。つまり中国でスピーディーな開発のノウハウを積み上げ、それを米欧などにも導入し、現地のニーズに合ったモデルを迅速に開発・生産・発売するという流れだ。

 自動車業界は地産地消をベースに、現地サプライヤー、ライバルを含む完成車メーカー、IT企業などと連携することがいっそう欠かせなくなるだろう。この変化を踏まえると、日本の自動車産業の構造は、よりスリム化する可能性が高い。つまり合従連衡は避けられない。

 一方で、米中、米欧の対立や貿易摩擦の激化リスクも高まっている。こちらの変化を踏まえても、トヨタは中国、米国、欧州など各市場で地産地消体制を構築し、シェアの維持拡大に努めていくと考えられる。

 世界販売台数トップのトヨタでさえ、これほど変化に機敏に対応して、従来のやり方から一部脱却しながら必死にやっている。わが国の企業は、これまで以上に生き残り策を真剣に考えるべきだ。

 中国やインドなど成長期待が高い市場では、提携先を増やすことも重要になる。M&Aを駆使して、時間を金で買うのも手だ。トヨタの今回の決断、戦略シフトは、わが国の産業競争力と経済成長力に影響を与えるはずだ。

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