赤毛は人類の「わずか2%」、その希少性と麻酔薬が効きづらい理由
赤毛の人は、世界人口のわずか1〜2%程度しか存在しない。天然の髪色としては最も希少だ。しかし、全世界に占めるこの割合は、特定の地域については当てはまらない。というのも、赤毛は世界全体にまばらに分布しているわけではなく、特定の地域に集中しているからだ。
アイルランドやスコットランドでは、およそ10人に1人が赤毛だ。そして、さらに多くの人々が、外見には現れていなくても、赤毛の形質を遺伝的に保有している。
髪色が赤くなる遺伝的メカニズムは、一般に想像されているほど特殊なものではない。赤毛の人は、ほかの人にない色素を作り出しているわけではない。一般的な色素の生成量が少ないのだ。これは、通常であれば色素細胞に暗い色の色素を生成するよう指示する受容体が、適切に機能しないことを背景として起こる現象だ。
■髪を赤く見せる仕組み
髪や皮膚の色はメラニンによって決まるが、ここで重要なのはメラニンには2つの種類があることだ。ユーメラニン(eumelanin:真性メラニン)は、褐色から黒色の色素で、日焼けで皮膚を黒くし、紫外線を吸収する。もう1つのフェオメラニン(pheomelanin:亜メラニン)は、赤みがかった黄色の色素で、紫外線をほとんど吸収しない。ほぼすべての人がこの両方を生成しており、その比率が私たちの肌や髪の色を決定づけている。
その比率を決定するのは、「MC1R」(メラノコルチン1受容体))と呼ばれる遺伝子だ。この遺伝子は、色素を生成する細胞(メラニン細胞)の表面に存在する受容体のタンパク質をコードしている。
この受容体が活性化すると、ユーメラニンを生成するよう細胞に指示が伝わる。一方、受容体が活性化しない状態では、細胞はフェオメラニンを生成する。すなわち、暗い色素であるユーメラニンが生成されるには、活性化シグナルが細胞に伝わる必要があるのだ。
赤毛の人では、受け継いだMC1Rの遺伝的なタイプが、本来あるべき反応を示さない。受容体は存在しているものの、その役割を十分に果たさないため、ユーメラニンの生成量は低く抑えられ、結果的にフェオメラニンが優勢となる。この受容体が、皮膚と髪の両方の色を制御しているため、赤毛の人はほぼ例外なく、日焼けすると皮膚が小麦色にはならず、やけどのように赤くなりやすい。
赤毛が実際に現れるには一般的に、受容体が十分に機能しない遺伝子のコピーを両親から1つずつ、計2つ受け継ぐ必要がある。この点は、この形質が地理的に偏って分布している理由を何よりもよく説明している。
というのも、機能しない遺伝子のコピーを1つだけ持つ人は、外見からはまったくわからず、自分でも保有していることに気づかないまま、その遺伝子を子どもに受け継がせるからだ。この遺伝的バリアント(変異)は、目に見えないまま何世代にもわたって集団内に蓄積し続け、2人の保有者がたまたま子どもをもうけた時にだけ表面化する。
■赤毛はなぜ北方の地域に定着したのか
この問いへの説明は通常、日光から始まる。色素には一種のトレードオフの関係が存在する。ユーメラニンは紫外線のダメージから皮膚を保護する一方で、ビタミンDを生成するために皮膚が必要とする紫外線も遮断してしまうからだ。
冬の日照が弱い高緯度に暮らす集団では、暗い色素による保護の恩恵は低下する一方で、その代償は残ったままとなる。そのため、より色の薄い皮膚の方が有利な状態となる。この説明に従えば、赤毛はそれ自体が選択されたというより、色の薄い皮膚へと至る経路の1つとして共に生じたことになる。
ただし、この説には慎重な見方が必要だ。なぜなら多くの生物学者が、赤毛という形質が、自然選択によって積極的に選ばれた(生存にとって有利になった)という説を疑っているからだ。2000年に『American Journal of Human Genetics』誌に発表された研究によると、ヨーロッパ人に見られるMC1R遺伝子の高い多様性は、変異に対する強い制約がなくなった場合に生じる、通常の中立的な変異(生存や繁殖にプラスでもマイナスでもない変異)として予想されるものであり、そこに正の選択が働いた兆候は見られないという。
より慎重な解釈としては、赤毛は積極的に選ばれたというよりは、残ることを許されたということになる。強い日差しの下では、機能しないMC1Rのバリアントは集団から比較的速やかに排除される。その圧力が和らぐとその遺伝子は、生じた変異を自由に蓄積できるようになり、特定のタイプを排除する力が強く働かなくなる。
そのほか、希少性そのものが魅力となり、赤毛の人がパートナーを見つける上で何らかの利点をもたらしたため、その形質が維持されたという、より古くからの説もある。考えられなくはないが、ヒトにおいてこの説を裏付ける証拠は乏しい。そのため答えというよりは仮説として扱うべきだ。
一方で、赤毛に伴う代償については疑いの余地がない。フェオメラニンは紫外線に対する防御効果が低く、紫外線の下では単に防御できないだけでなく、細胞を直接損傷する活性酸素を生成するとみられる。
赤毛の人は実際に、皮膚がんのリスクが明らかに高い。しかも、2012年に『Nature』誌に発表された研究は、日焼けだけではその理由を十分に説明できないことを示唆している。機能しないMC1Rのバリアントと、皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)を引き起こす一般的な変異の両方を保有するマウスにおいて、紫外線を全く浴びなくても腫瘍が発生したのだ。この結果は、フェオメラニンの色素を生成する経路そのものが、酸化による損傷を通じて、メラノーマの発生に寄与している可能性を示している。
■単なる髪色を超えた影響
MC1Rが関与するのは色素細胞だけではない。この遺伝子がコードする受容体は、炎症や痛みの伝達にかかわる組織を含め、他の組織でも活性化している。その影響は無視できないほど顕著であるため、麻酔科医の間では長年、経験則として語られてきた。
2004年に『Anesthesiology』誌に発表された研究は、赤毛の女性が黒髪の女性と同じ効果を得るためには、より多くの吸入麻酔薬を必要とすることを明らかにした。これは、臨床の現場で長らく実感されてきたことを数値で裏付ける結果だ。ただし、研究のサンプル数は少なく、他研究との結果も一貫していない。少なくとも、より大規模な1件の研究では全く差が見られなかった。この影響は、実際の現象として現在も活発に研究されてはいるが、まだ結論が確定するには至っていない。
古代のDNAは、さらに興味深い情報を付け加えている。2007年に『Science』誌に発表された研究では、2体のネアンデルタール人の標本からMC1Rの配列を特定し、数千人の現代人を調べても見つからないバリアントを発見した。MC1Rの機能を低下させるこのバリアントは、髪や皮膚の色を薄くしただろうと考えられた。現代人には見られないバリアントであることから、2つの異なるヒトの系統が、同じ弱い北半球の日光にさらされた結果、異なる遺伝的経路をたどり、類似した外見に到達したとみられる。
なお、数年おきにメディアの見出しを飾る主張の1つに、「赤毛の人はもうじき絶滅する」というものがあるが、これは訂正しておくべきだろう。潜性のバリアントは、集団内で希釈されて消えていくわけではなく、単に目立たなくなるだけだ。赤毛の特徴を全く示さない保有者であっても、その遺伝子はそのまま子孫に受け継がれる。
すなわち、最も希少な髪の色が希少である理由は、ごくありふれたものだ。これはその遺伝子が、受容体が機能することが特に有用でなくなった地域に偏って受け継がれた結果であり、発現するには、機能しない受容体の遺伝子のコピーが2つ揃う必要があるからだ。
