「月100時間超えも」テスラジャパン、現役社員が告発する“過労死ライン超え”長時間労働の実態 幹部が「業務外の活動」として納車の手伝い呼びかけ、労基署も実態把握へ

「月100時間超えも」テスラジャパン、現役社員が告発する“過労死ライン超え”長時間労働の実態 幹部が「業務外の活動」として納車の手伝い呼びかけ、労基署も実態把握へ

年内にも日本の一般道での自動運転の実装を目指す米電気自動車(EV)大手のテスラ。スマートフォンのように機能が次々に更新され、「走るコンピューター」とも呼ばれるテスラ車は次世代の車として人気を博す。

 しかし、日本法人の労働環境は、そんな革新的なイメージと裏腹なものだという。「過労死ライン」を超えて働く状況を訴える社員の悲痛な声──最先端企業に何が起きているのか。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏がレポートする。

購入補助金の拡充で販売台数が急増した余波

「超豊かな世界を創る」「持続可能でより豊かな未来を広げていく」──これらは某転職サイトに掲載された、テスラジャパンの求人情報に並ぶ言葉だ。見出しでは「完全週休2日制」「年収1000万円も可能」など好待遇ぶりがアピールされている。しかし、同社の現役社員から筆者が聞いた現実は、求人広告で謳われる明るい未来のイメージとはかなり違っている。

「9時頃出勤して深夜まで業務するのが通常。ノルマを達成していても、21時前に帰ろうとすると咎められる。業務を持ち帰ることも多々あります」

 同社の出退勤管理は、携帯やパソコンの専用ソフトで打刻するシステムで、位置情報も合わせて管理されている。残業については社員の申告・上長の事後承認制になっており、前月の残業時間が規定を超えた場合にそれぞれ通知があるという。前出の社員の7月の残業時間は月100時間を優に超え、会社からも通知が送られていた。過労死を認定する際の基準となる「過労死ライン」を上回る残業時間である。

 過酷なのは長時間労働だけではない。

「上司からはランチ休憩中に『昼飯を食う余裕があっていいなあ』と嫌味を言われ、デスク作業をしていると『この忙しい状況でよく座ってられるな』と立って仕事をするよう命じられた社員もいる。業務の指示というより嫌がらせです」(同前)世界最先端の技術を詰め込んだEVを販売する日本法人で、なぜ過酷な労働が常態化しているとの証言が出てくるのか。

 背景の一つには、販売台数の急増がある。2011年に日本で受注を開始したテスラは、徐々に日本での販売台数を伸ばし、2025年には初の年間1万台を突破。2026年上半期は約1万2000台売れた。通年では2万台半ばに達すると予想されている。足元の販売台数急増の最大の要因とされるのが、購入補助金の拡充だ。

「2024年以降、国の『CEV補助金』(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)が大幅に増額され、今年からはテスラの主要グレードの購入で127万円が補助される。さらに東京都など自治体の補助金を合わせると200万円を超えるケースもあります」(業界関係者)

「業務外の活動」として午前3時まで手伝い呼びかけ

 テスラCEOのイーロン・マスク氏はかねて3月、6月、9月、12月に販売台数を急増させる「四半期プッシュ」を唱えており、毎年その時期には“納車ラッシュ”で現場が大混乱するという。

 テスラ車が展示され試乗ができる「テスラストア」は全国40か所あるが、他の自動車メーカーと異なりディーラーを持たないため、受注後の納車は全国7か所の拠点で行なっている。取り扱い台数最多の東京・有明にある「デリバリーセンター」では1日の納車台数が200台を超える日もある。

 納車台数の急増は、納車に必要な人員不足に直結。筆者が入手した6月の社内メールでは、幹部から各部署の社員に「業務外の活動」として納車の手伝いを求め、このように呼びかけられた。

〈有明の納車が200台を超える日が出てまいりました。業務終了後の21時から午前3時頃まで車の移動ができる方、深夜の業務をしていただける方、ぜひご応募いただければと思います〉

 筆者のもとには現役社員の家族からも「夫がほとんど家に帰れず、帰ってきても着替えと入浴だけでまた出社していく。過労死するのではと心配です」と悲痛な相談が舞い込んでいる。そうした状況を受け、労働基準監督署に相談する社員も出ている。相談や通報を受けた労基署も実態把握に動き出したようだ。調査が入った店舗の社員はこう証言する。

「労基署の方が来て、店舗の幹部らを聴取していました。出退勤記録、残業時間など社員らの労働実態、残業代の支給状況などを調べているようでした」

 証言を元に当該の労基署に事実関係を問い合わせたが、「回答は差し控える」との返答だった。

【現役社員が告発】テスラジャパンの過酷労働、背景にある“テスラカルチャー”の厳しすぎるノルマ 幹部からは「この会社の給料を思い出して下さい」…ノー残業デー設定も「実態とは違う」

スマートフォンのように機能が次々に更新され、「走るコンピューター」とも呼ばれるテスラ車。次世代の車として人気を博すが、日本法人の労働環境は、そんな革新的なイメージと裏腹なものだという。社員の中には労働基準監督署に相談する者も現れ、相談や通報を受けた労基署も実態把握に動き出したという。最先端企業に何が起きているのか。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏がレポートする。

「ノルマが達成できるまで帰ることが許されない」

 過酷な労働の一因として考えられるのが、“テスラカルチャー”と呼ばれるKPI(重要業績評価指標。ノルマのように扱われている)の設定だ。同社の現役営業スタッフが言う。

「販売ノルマは拠点によって異なるが、一人につき『一日1台受注』『最低週4台受注』といった具合で、従来の自動車ディーラーではありえない数字。ノルマが達成できるまで帰ることが許されず、上司からは電話営業を指示され、顧客から怒られるまで電話をかけ続けることもあります」

 ノルマは1日の試乗回数にも設定されており、

「未達の場合、エリアマネージャーなど幹部への報告のために、架空の顧客名簿で架空の試乗予約リストを作るという、無意味な作業を行なっている。こうした作業は深夜になりがちで残業が増えている」(別の営業スタッフ)

 最新EVを売る会社にそぐわないエピソードだが、一部のストアで幹部から現場の社員に送られたチャットには、次のような言葉が並ぶ。

〈ワークライフバランスを求めるがあまり、KPIの達成をおろそかにして帰宅するのはテスラのカルチャーにフィットしていない〉

〈テスラのカルチャーとして、やるべきことを完遂できていないと認められた場合、素早く人事的な判断を下します〉

 そのなかで共有された資料には、〈無茶を言っていると感じますか? いま一度この会社の給料を思い出してください〉とも記されていた。そうしたテスラカルチャーは労基署の調査後、変化したと見える部分もあるようだ。首都圏の拠点では水曜日がノー残業デーに設定されたほか、社内チャットでは残業時間を制限する通達が出され、残業は例外的だとしている。

 そのうえで、「個人のパフォーマンス未達を埋めるための残業」は認められないとし、働き方に関する指示として、原則22時までに帰宅するよう求め、「持続可能な働き方を築いていきましょう」と呼びかけている。しかし、現役社員からは「実態とは違う」と指摘する声が出ている。

「ノー残業デーを実行するのは主に幹部社員。私が帰ったのは深夜0時半です。残業についての通達では“自己研鑽”は『業務外』とされていて、ノルマ達成のための作業が自己研鑽扱いとされれば、サービス残業するしかない」

テスラ車に憧れて入社した若手社員は…

 現場社員の証言から見えるテスラジャパンの現状について、労働問題に詳しい中村和雄弁護士はこう言う。

「かつて野放しにされていた残業ですが、現在、労働基準法で『月100時間、2~6か月の平均で80時間』という上限が設けられています。テスラジャパンの社員が月100時間を超える残業をさせられているのであれば、明らかに労基法違反です」

 KPI未達のままの帰宅を非難し、「給料がいくらかを思い出して」などとする社内チャットや文書には、こう指摘する。

「給料とは定時の労働時間をきっちり働けばそれだけ出しますという対価のこと。残業代などを理由に時間外労働を義務付けることは一切できません」

 労基署の監督調査を受け発出したと思われる「残業の線引き」についてはどうか。

「ノルマを達成するまで帰るなという指示があり、それに基づいて仕事をせざるを得ないのであれば、使用者からその都度残業の命令が出ていなくても、実際には命令があったのと同様に扱われる。おそらく会社側は、いざとなれば『自主的なサービス残業』『社員の自己研鑽であって業務ではない』という形で逃げようとしているのではないか。自分の能力を磨く学習活動と会社に要求されて業務をすることは全く質が違います」

“カルチャー”についてはこうも指摘する。

「テスラジャパンのやり方はアメリカ流の成果主義を日本に無理やり持ち込んでいるように見える。アメリカでは労働時間ではなく、成果に見合った賃金を払う企業も多い。しかし、それは日本の法制では許されることではありません」

 100時間を超える残業の実態などについてテスラジャパンに尋ねたが、期限までに回答はなかった。テスラ車に憧れて入社したという若手社員は過酷な勤務状況をこう嘆く。

「憧れと実態は全く違っていました。日本法人トップの橋本(理智)さんは『1人でも多くのお客さまをハッピーに!』をスローガンに掲げますが、不幸な社員が増えるなかで、お客さまを幸せにできる社員がどれだけいるか……。私も近々転職を考えています」

 EVのトップブランドとして「持続可能で超豊かな」労働環境の構築を目指すことも重要ではないか。

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