日本のハイブリッド車を締め出し、次は中国EVに関税…2度目のEVブームに沸く欧州がこれから行き詰まる理由
■40.5%増でもブームは長続きしない
欧州連合(EU)は以前2035年までに新車を電気自動車(EV)に代表されるZEV(走行時に温室効果ガスを排出しないゼロエミッション車)に限定する目標を掲げた。実質的には、日系メーカーが得意なハイブリッド車(HV)を排除する目的のためだったが、中国製EVに押された結果、自らが重視する自由貿易と相反する関税を導入した。
そのEUのEV市場は2024年、2025年と低調だったが、今年に入って急拡大している。欧州自動車工業会(ACEA)によると今年前半における乗用車の新車登録台数は前年比5.7%増となったが、うちEVの台数は前年比40.5%増と、プラグインハイブリッド車(PHV)の22.5%増やハイブリッド車(HV)の13.2%増を引き離した。
また乗用車新車登録台数に占める割合は20.7%と、前年から5%ポイント拡大した。こうしたEV拡大のトリガーとなったのが、イラン発のエネルギーショックだ。化石燃料の価格が再び高騰する中で、EVの人気が高まっているようだ。EV推進派は朗報と言えるのだろうが、この第2次ブームの賞味期限は、そうは長くないと考えられる。
そもそも、市場の動きに最も敏感である自動車メーカーが、高らかに掲げたEVシフトを見直していることの意味は大きい。例えば日本のホンダやドイツのメルセデス・ベンツなどは、近いうちに新車の供給をEVに完全シフトするとしていた方針の撤回・修正を迫られている。
■旗振り役の英国も目標を下方修正
加えて、EV推進派である英国の労働党政権の対応も注目される。
7月に就任したアンディ・バーナム新首相のもと、政権を率いる中道左派の労働党の支持率は回復基調にある。その労働党はもともと2030年までに新車登録に占めるEV(正しくはZEVだが、実質的にはEVを意味するものである)の割合を80%とする目標を掲げていたが、その下方修正に向けた協議を8月14日から開始したところだ。
脱炭素化を強く志向する労働党にとって、EVシフトはその有力な戦術となるはずだった。そして、第2次ブームがEV普及の強力な推進力になり得るものなら、バーナム首相のもとで支持率が回復している労働党が、その下方修正に取り組む理由もない。しかしEVシフトはやはり難しいからこそ、労働党は目標の下方修正に臨むわけだ。
EUとして最もエレガントな流れは、EVの走行に必要な電力を再エネで賄うことにほかならない。そうすればまさにカーボンフリーなモビリティが成立するためだが、それが実現するための発電量を再エネだけで賄うことはまだまだできない。そうであるからこそ、EUは原子力やガス火力を容認し、エネルギーの確保に努めようとしている。
EVを増やしていけば自ずと電力の消費量が増えることになるが、そのための電力を賄うため発電手段をEUは確保することができるのだろうか。電力は経済活動全般の血液であるため、EVにだけ振り分けるわけにはいかない。走行時発電型EVの実用化はまだまだ先の話だから、発電量を増やせない以上はEVの普及にもブレーキがかかる。
■電力不足の次に待つ中国依存
再エネ発電に関しては、発電機自体の不足よりも、送配電網(グリッド)の不足が叫ばれて久しい。例えばドイツやイタリアでは再エネの“南北問題”(発電地帯と消費地帯がずれていること、ドイツでは北部のバルト海が、イタリアでは南部の地中海が発電地帯となる)を抱えており、その解消には依然として時間を要する見込みである。
そもそも再エネ発電は、その出力が天候に大きく左右されるという問題がある。今年の欧州は酷暑に伴う水不足や干ばつに見舞われており、水力発電が不調である。またオメガブロック(停滞性の高気圧)の影響で風も吹かず、風力発電も厳しい状況だ。石油不足でEV人気が高まったが、電力不足に伴う電気料金高が顕在化する恐れがある。
電力供給の天井を引き上げるためには、石炭火力の再開が最も即効性のある手段だろう。実際、今般のイラン発のエネルギーショックをきっかけにアジア各国でもEVの普及が進んでいるが、同時に石炭火力回帰の流れが強まっており、EVが石炭火力由来の電気で走る、脱炭素化の旗手を自認するEUにとっては実に皮肉な展開となっている。
それに、EVを本気で普及させるためには、なにより中国との付き合い方を再考する必要がある。EVの生産には、いわゆるレアアース(希土類元素)に代表される希少な鉱物が不可欠だ。その供給を一手に担っているグローバルサプライヤーが中国である以上、敵対することは得策ではないはずだが、EUは中国に対して敵愾心を露わにする。
■安い中国車を拒む高い代償
EVの原材料のみならず、完成品という観点からも、EUは中国に対して厳しい姿勢で臨んでいる。中国製EVの価格が政府による支援のもとで不当に引き下げられているというのがEUの主張だが、物資ともに勝る中国がEVを安価に生産できることは、比較優位説に基づけば当然の帰結だ。むしろ中国製EVを受け入れた方が合理的だ。
なぜなら、価格競争を通じてEU域内製のEVの価格も下がり、価格の低下がEVの普及を後押しするためである。市場経済における競争原理そのものだが、幼稚産業保護論的な立場から市場保護に努めたいEUは、そうした自由な競争に対して実に消極的だ。しかし、生産性の改善につながるイノベーションは競争を通じてしか生まれない。
不足する原材料を、EUは内外での自主鉱山の開発や域内における再利用エコシステムの構築で乗り切ろうと目論んでいる。しかし、そのいずれの手段もヒト・モノ・カネのあらゆる面で多大なコストを要するものだし、そもそも軌道に乗るとしても長い歳月が必要となる。構想は立派でも、結局は、絵に描いた餅で終わる可能性が高い。
価格競争の過程でEVの生産が合理化していけば、そもそも用いる原材料の量も少なくなる。モノが普及するためには市場における競争こそが不可欠なプロセスだが、域内製のEVの普及にこだわるEUは、そうした現実的な手段を取ることができない。これでは連続的な市場の拡大は見込めず、どこかの段階で自ずと拡大に歯止めがかかる。
■電動化は二者択一では進まない
EVとHVを含めた従来型の内燃機関(ICE)車を二項対立かのようにとらえる論者は依然として少なくないが、経済性に任せる形で住み分けを図ることの方が合理的だろう。HVも技術革新を受けて、かつてに比べると温室効果ガスの排出量はかなり減っている。一方、価格はHVの方が安いし、ロングドライブにもHVの方が勝っている。
一方、EVはEVで、コンパクトカーとしての需要を着実に取り込んできた実績がある。ユーザーに選択肢を与えることで、従来型の温室効果ガスを多く出すICE車の買い替えを促すことこそ、本来の温暖化対策となる。しかしEUは、そもそもEVシフトで“産業覇権”の掌握まで狙っていたため、そうした冷静な判断ができなかったようだ。
中国の“ダンピング”を批判するEUだが、言い換えれば、そのダンピングがなければEVのグローバルな価格は今の水準よりも上振れが必至となる。EUは中国製EVに関税を課し、域内製EVとの間で“公正”な競争を図る姿勢だが、排ガス規制強化や補助金給付といった行政的な手法に依存している以上、持続可能か定かではない。
自動車の電動化はメガトレンドだが、とはいえ現在の第2次EVブームの賞味期限が長いとは言えない。むしろコロナショック後の第1次ブームの調整圧力(中古車への対応など)を十分に消化しないまま第2次ブームを迎えたことで、次の調整の谷が深くなるリスクが出てきている。いずれにせよ、EVの普及は単直線とはなり得ない。
日系メーカーはHV技術に秀でているが、EVに関しては慎重だったこともあり遅れている。とはいえ、EVはもはや中国メーカーの牙城であり、それを崩すことは極めて難しい。EVとHVの住み分けを念頭にHVに集中することも戦略だし、引き続き変化していく自動車市場を見据えて、様々な車種の開発に努めるべきなのかもしれない。
