個人スマホ、bot化の標的に…乗っ取られ詐欺SMSを勝手に送信
「国税庁ですか? この電話番号からメッセージをもらったのですが……」
5月上旬、東海地方に住む60歳代男性はスマートフォンを片手にため息をつき、「違います」と通話を切った。同様の電話は1年前から約20件あり、いずれも見知らぬ番号からだった。
同じ頃、男性のスマホの電話番号はX(旧ツイッター)上でさらされていた。この番号からSMS(ショートメッセージサービス)で、<【国税庁】至急の手続きが必要です。内容をご確認ください>とURL付きメッセージが送られてきたと、受信者が注意喚起を目的に投稿したのだ。
このURLを手がかりに、読売新聞がサイバーセキュリティー会社「トレンドマイクロ」(東京)に調べてもらったところ、男性のスマホはメッセージを自動送信する「bot(ボット)」と化し、不特定多数の人に詐欺メッセージを送っていたことがわかった。スマホに詐欺メッセージの送信履歴が残らないようにする細工も施されていた。
URLをクリックすると国税庁を模した偽サイトが表示された。「所得税を滞納している」として電子マネーなどでの納付を迫る文言には、日本語では使われていない漢字が交じる。
男性は、通信料が月1万円以上に増えたのを不審に思っていたが、「まさか乗っ取られていたとは……」と絶句し、「電話番号もXに公開されて詐欺犯扱いされ、受け入れがたい」と怒りをあらわにした。
国税庁はホームページで「URLを記載したメッセージを送ることはない」と注意喚起している。
「検知逃れ狙い」
運送会社、銀行、カード会社――。X上では、国税庁の他にも、bot化したスマホから送られてきたとみられる詐欺メッセージの受信報告が後を絶たない。
迷惑メッセージの遮断サービスを手がける「トビラシステムズ」(名古屋市)の調べでは、bot化するマルウェア(悪意のあるソフトウェア)に感染した個人スマホは、2024年時点で少なくとも2万台規模に上った。いずれもSMSで送られてきた不正メッセージ内のURLをクリックし、感染したとみられる。
なぜ、個人スマホがbot化されるのか。同社の柘植悠孝セキュリティリサーチャーは「個人のスマホからの発信を装い、検知を逃れる狙いだろう」とみる。
携帯大手4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)は検知を強化し、詐欺メッセージから発信元のスマホを特定して所有者に感染源の削除を求めるなどしてきた。トビラ社によると、bot化スマホは24年時と比べ数十分の1程度まで減ったとみられる。だが、検知をすり抜けるため、犯罪者側が生成AI(人工知能)で一通ごと文面を変えているとみられるケースも確認されており、柘植氏は「防御側もAIで対抗する必要がある」と警戒を強める。
新たな手口も
新たなbot化の手口も出てきている。
世界にある約2500万台ものアンドロイド端末がbot化していたことが判明したのは昨年9月。日本の被害端末は100万台以上とみられている。
調査した米広告検証会社「インテグラル・アド・サイエンス」によると、bot化に悪用されていたのが、アプリだった。ゲームなどの人気アプリを装って「アプリストア」に公開し、bot化させる不正アプリをダウンロードさせていた。bot化した端末では、利用者に見えない形で様々な広告が掲載された偽サイトが開き、広告費の詐取に悪用されていた。
日本サイバー犯罪対策センターの加治川剛・サイバー脅威分析ラボ長は、「個人のスマホは今後も、身元を隠したい犯罪者からbot化の標的にされるだろう。メッセージ内のURLは絶対開かないなど、自衛が何よりも重要だ」と呼びかけている。
