広告のクリック数増えたのに売り上げ伸びず、正体は「bot」だった…世にはびこる広告費詐取・日本では350億円被害か

広告のクリック数増えたのに売り上げ伸びず、正体は「bot」だった…世にはびこる広告費詐取・日本では350億円被害か

「これだけクリックされているのに、なぜ売り上げが伸びないんだ……」

昨年5月、フラワーギフト最大手「花キューピット」(東京)の大橋俊彦・ウェブストラテジー事業部長(49)は、インターネット広告のクリック数と売り上げのグラフに異変を感じていた。

 5月の「母の日」は、1年で最大の書き入れ時だ。同社では30~40歳代の女性をターゲットに、商品のカタログページにつながるネット広告を、4か月ほど前から数千万円をかけて配信業者経由で流してきた。

 ネット広告は、様々なサイトやSNSに掲載され、表示されたり、閲覧者がクリックしたりすると、広告主からサイトやSNSの運営者に広告費が支払われる仕組みだ。広告主が設定する予算の上限に達するまで表示される。

 同社によると、昨年4~5月の広告クリック数は数百万回に上り、例年より約1割も多かった。それだけ多くの人がカタログページを訪れたことになり、5%近い売り上げ増が見込めるはずだった。しかし、結果は前年から横ばいだった。

 不審に思った大橋さんは、不正広告対策を手がけるIT企業「スパイダーラボズ」(東京)に相談し、同社の検知システムで調べると驚くべきことが判明した。増えたクリックの正体は自動化プログラム「bot(ボット)」で、広告費をだまし取られていたのだ。

 花キューピットの広告は、背景が真っ白なサイトに100近い別の企業の広告と共に掲載されていた。広告以外に何もなく、サイト運営者は広告をbotにひたすらクリックさせて、不正に広告費を得ていたとみられる。

 大橋さんは「気づかなければ、成果を出そうと広告を増やし続け、数千万円の損失を出していた。監視の目を光らせていく必要がある」と警戒を強める。

国際的犯罪組織

 botを悪用した広告費の詐取(アドフラウド)は、国際的なサイバー犯罪グループの関与が指摘されている。アドフラウドに使われる不正サイトは、ドメイン(インターネット上の住所)を頻繁に変更したり、サーバーの所在地を偽装したりしており、運営者の特定は難しい。特定できても詐取による損害を立証する必要があり、摘発へのハードルは高い。

スパイダーラボズの試算では、日本でのbotによるアドフラウドの被害額は昨年、出稿量が多く、広告単価が高い飲食、不動産、情報通信などを中心に約350億円に達し、2023年から1・5倍に増えた。

 「日本は中国、米国に次いで広告単価が高く、格好の標的となっている」と、同社の草開(くさびらき)達也プロダクトマネージャー(40)は話す。ある不正サイトには、1500超の広告枠の中に情報通信大手、不動産賃貸、消費者金融、転職支援、車のリースなど日本企業の広告が数多く並ぶ。サイトの開設は10年前とみられ、解析ツールで調べると、少なくともこの1年、日本からの閲覧はほぼない。

 アドフラウドは今後、世界規模で拡大する恐れがある。草開さんは「生成AI(人工知能)で不正サイトが大量に作られている上、データセンターの増設による通信の高速・大容量化に伴い、クリック役を担うbotも大規模化している」と指摘。「日本企業も対策を打たなければ、さらに食い物にされかねない」と懸念する。

対策進まず

 企業側の対策は進んでいない。広告業界団体でつくる「デジタル広告品質認証機構」が昨年に国内企業417社に行ったアドフラウドに関する調査では、不正サイトへの掲載やbotによるクリックを検知するツールの導入といった対策を講じている広告主は51・1%。「対策を呼びかけても、消極的な広告主が少なくない」(同機構)という。

 不正サイトに広告が掲載されていた不動産仲介会社の担当者は「対策すると見かけ上のクリック数も減ってしまうため、会社の上層部に『広告の成果が出ていない』と判断されかねず、対策を進言できない」と打ち明ける。

 アドフラウド対策に取り組む日本アドバタイザーズ協会の山口有希子デジタルメディア専門委員長(57)は「企業に蔓延(まんえん)する『クリック至上主義』が対策の足かせとなっている」と指摘した上で、こう訴える。「アドフラウドは麻薬取引に次ぐ犯罪収益源になっているとされ、自社の広告費が犯罪組織に流れているとすれば、企業のコンプライアンス(法令順守)に関わる問題だ。経営陣が率先して対策する必要がある」

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